2023年12月17日3 分

出会い <51> リスボンの熱狂

Marinho Vinhos, Tube Tinto 2020.

 

もちろん例外は多々あるが、全体論で言うと、田舎よりも都会の方が、オーガニックやサスティナビリティに対する意識が高い人たちは多い。

 

田舎の人たちに言わせて見れば、都会人は自分で農業をやっていないから、オーガニック化する大変さを知らない(まさに私自身がそうだ)とか、経済的に余裕があるから多少物価が上がっても問題ないとか、色々と意見が出そうなものだが、都会の人は外側から好き放題言うものだし、購買力も高いので、結局田舎の人たちは都会の意見を無視しきれなくなる。

 

あまり健全とは言い切れないこのあたりの関係性には、私もアカデミックな意味で強い興味をもっているが、都会の近くにあるワイン産地が、都会人のサスティナブル思考に強い影響を受け、急速にその姿を変化させていくことは、少なからず世界各地で起こっている。

 

古い例だと、サン・フランシスコに近いナパ・ヴァレーが該当するし、比較的新しい例だとバルセロナに近いペネデスや、メルボルンに近いアデレード・ヒルズなどが該当する。

 

そして、同じようなことが、超スピードで、ポルトガルの首都リスボン近郊でも起こっている。

 

このエリアのD.O.C.名は、首都と同じLisboa。日本では英語表記のLisbonに基づいて、リスボンと呼ばれるが、現地の発音はリシュボアだ。

 

(以降、産地名をLisboa、都市名をリシュボアと表記する。)

 

かつてはEstremadura(エシュトレマドゥーラ)と呼ばれていた産地だが、Lisboaへと名前を変えたのは、戦略的に大正解だったと言える。

 

今現在Lisboaで起こっているムーヴメントは、リシュボアの人々と密接な関係にあるし、リシュボアという知名度の高い都市とイメージが連動するのは、明確なプラス要素だ。

 

そう、Lisboaは今、都市型ナチュラルワインのホットゾーンとして、世界的な注目を集めている。

 

今回は、Vinho Verdeへのツアーと、個人取材でDouroを訪問しているが、隙を見ては他産地のワインもテイスティングしている。

 

ポルト市内のナチュラルワインバーで個人リサーチ活動を行っていたところ、目に飛び込んできたのがこのボトルだ。

 

現地のワインバーでの販売価格が56€(現在の為替で、約8,700円)と、現地ワインとしてはなかなか高価だったが、直感に従って大正解だった。

 

ルイシュ・ジルが率いるMarinho Vinhosは、Lisboaにある樹齢40〜110年の古樹をオーガニック農法で栽培し、亜硫酸を含めた一切の添加物を拒絶し、徹底した低介入を貫いているタイプの、新しいワイナリー(2017年に設立)。

 

Tube Tintoと名付けられたこのキュヴェは、Tinta Roriz(テンプラニーリョ)100%。

 

隣国のスペインでは、単一品種となることも多い一方で、ポルトガルでは補助品種となるのが通例。

 

しかし、大西洋からの強い影響(冷涼な気候と、多湿な環境)を受けたこの「海辺のテンプラニーリョ」には、酸が強くソルティーな味わい、しなやかで軽やかな体躯という特異な個性が宿っている。

 

私は自身のポリシーとして、無添加ワインは無条件「疑ってかかる」と決めているが、やや強めの揮発酸と、僅かなブレットのスパイスは感じられるものの、全体的には安定した味わいであった。

 

この先、Lisboaが産地としてどのように進化していくのか、引き続き注目していこうと思う。

 

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。