2021年10月20日3 分
最終更新: 2021年11月14日
シャンパーニュは、祝いごと専用の飲み物というわけでは決してありません。世界中のあらゆる種類のワインの中でも、最も人の叡智が注ぎ込まれたワインです。究極的な話をすれば、葡萄を容器の中で潰しさえすれば猿でもワインを作れます。もちろん、だからと言って高品質のワインがその様に作れるわけでは全くありませんが、シャンパーニュの場合は、人の介入が無ければ、絶対に作れません。
それは確かなシャンパーニュの魅力。
人の手によって形作られたラグジュアリーの結晶なのです。
しかし、その対極に位置する様なシャンパーニュも多々存在していることは、広く一般には知られていないことでしょう。
そう、テロワールのシャンパーニュです。
テロワール(分かりやすくするために、「一定範囲の土地の個性」とここではしておきます)と一口で言っても、様々な表現方法があります。
少々無理はありますが、シャンパーニュ全体を一つのテロワールとして捉えたもの。
広範囲の地域(コート・デ・ブラン等)を一つのテロワールとして捉えたもの。
中範囲の地区(クラマン等)を一つのテロワールとして捉えたもの。
そして、小範囲の葡萄畑(単一畑)を最も純粋なテロワールとして捉えたもの。
これらの差を見分ける鍵は、「余韻」にあります。
余韻の「長さ」は、葡萄の質と関連性があります。
アッサンブラージュ(原酒のブレンド)と言う非常に高度な技術が極まっているシャンパーニュでは、葡萄の質とアッサンブラージュの技術によって、テロワールの対象範囲に関わらず、余韻を長く保つことが可能です。一般的な価値判断基準として、長い余韻=優れたワインと考えて大丈夫です。
実は、余韻にはもう一つ別の要素があります。
それは、余韻の「厚み」です。
興味深いことに、余韻の厚みは、テロワールの対象範囲が広くなればなるほど、薄く細くなる傾向があります。余韻の厚みとワインの優劣の関係には、まだまだ議論の余地がありますが、私自身はより小範囲のテロワール表現に心惹かれますので、余韻が分厚いほど優れたワインと感じます。
さて、余韻の長さと厚みの両方を、最上レベルで兼ね備えているシャンパーニュはあるのでしょうか?
はい、結構あります。
ですが、残念ながら非常に高価なものが多いのも事実です。
その中でも、私がいつも心惹かれてきたシャンパーニュと、久々の再会を果たしました。
Philipponnat(フィリポナ)のClos des Goisses(クロ・デ・ゴワス)。
5.5haの単一畑はクロ(石垣)によって囲まれ、フィリポナ社によって単独所有されています。
この葡萄畑、なんと傾斜角45度と言う、超危険な畑。
ピノ・ノワール(PN)とシャルドネ(CH)が植えられていますが、ヴィンテージによって、ブレンド比率がガラリと変わるのも、この畑の興味深いところです。
2007年はPN65%、CH35%。
2008年はPN45%、CH55%。
2009年はCH100%。
2010年はPN71%、CH29%。
2011年はPN100%。
フィリポナがそのヴィンテージの原酒から、「ゴワスの個性を最も緻密に表現している」ものを選び抜いてアッサンブラージュするために、この様に極端な変化をします。
クロ・デ・ゴワスと言う最高のテロワールに、人が最後のタッチを加えて完成させる。
自然と人の共存がこのシャンパーニュには詰まっています。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。