2022年5月4日4 分

ポッサムをワインで攻略

日本と韓国、そして中国は食文化的に共通しているものが実に多い。その最たるものは調味料類で、特に味噌(醬)と醤油は各国各地方に膨大なヴァリエーションが存在する。どこの国が起源か、という論争も根強くあるが、少なくとも1000年以上前から存在しているものを、現存する数少ない文献から起源を探っても、あまり意味は無いように個人的には感じる。

中国料理の中で選りすぐられたもの(世界三大料理の勇名は伊達ではなく、中国料理の奥深さは常軌を逸している)は、日本の食文化にも深く根付いているし、韓国料理にしても、キムチ、チヂミ、ピビンパ、スンドゥブチゲ、プルコギ、冷麺、タッカルビなど、広く一般的に日本で親しまれている料理は数多い。

今回、ペアリングのお題として取り上げたいのは、そんな韓国料理の中でも、ちょっとマニアックな一品である、「ポッサム」だ。

ポッサムという言葉自体は「包む」という意味なのだが、韓国料理の料理名はピビンパ(ピビン=混ぜる、パ=ご飯)のように、調理法がほぼそのまま料理名になっていることも多い。

ポッサムは、皮付きででた豚バラ肉を薄く(5~8mm程度)スライスし、サンチュ(レタスで代用することも)の上に、エゴマの葉(ゴマや大葉で代用することも)、キムチニンニクスライス、そしてサムジャン(甘辛い韓国味噌)と共にのせて、サンチュで「包み込んで」から、手で持って食べる料理だ。

キムチやサムジャンの辛さにもよるが、コチュジャンが主体となる他の韓国料理と比べると、基本的にはあまり辛くない

パーツとして特に重要な茹で豚(個人的には、バラよりも、前脚の部位が美味い)、キムチサムジャンの品質が高ければ、それだけで立派なご馳走になる程、料理としての完成度がそもそも高く、とにかく抜群に美味い。

そんなポッサムとペアリングするお酒の定番は、もちろんマッコリ。特に微発泡性の生マッコリは抜群で、マッコリの程よい甘味が、サムジャンと調和し、僅かな発泡がキムチの塩辛さをさっぱりさせてくれる。

では、ワインの場合はどうだろうか?生マッコリと全く同じ効果を狙うのであれば、イタリア・ピエモンテ州のモスカート・ダスティや、フランス・サヴォワ地方のビュゼ・セルドン辺りが最高だ。非発泡性のワインなら、ドイツ・モーゼル地方のリースリングがど真ん中。流行りのトロッケン(辛口)ではなく、キャビネット、シュペートレーゼ、もしくはそれらのファインハルプ(半辛口)辺りがしっくり来る。程よい残糖感というのが、このペアリング最大のポイントなのだ。

今回ペアリングしたワインも、そのスタイルの延長線上にある。

造り手はラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエール。当主のマルク・アンジェリは、ビオディナミ農法の大家でもあり、その深い洞察と経験から、極めて端正で知的なナチュラル・ワインを手がける名手中の名手。ワイナリー名にフェルム(農園)とついているのは、アンジェリ一家が葡萄栽培だけでなく、蜂蜜や野菜、リンゴなども手がけているからだ。

こちらのワイン、ロゼ・ダン・ジュールは直訳すると「ある日のロゼ」という意味だが、この地方の伝統的な半甘口ロゼのロゼ・ダンジュからもじった名前となっている。

原産地呼称制度を取り仕切るINAOと折り合いが悪く、全てのワインをVin de Franceでリリースしているマルクらしい、スパイシーなウィットの効いたネーミングだ。

葡萄品種はグロロー・グリで、ロゼ・ダンジュと同様に、半甘口の仕上がり。しかし、その濃密さ、エレガンス、バランスの良さは、一般的なロゼ・ダンジュとは天と地ほどの差がある。

かなり希少なワインなので、お叱りを受けるかも、と思いつつも、筆者はあえてポッサムに合わせてみた。もちろん、絶対に美味いペアリングになるだろうという確信もあったのだが、実際に合わせてみると、筆者の人生でもトップクラスに美味いペアリングとなった。

豚の旨味と甘味を引き立て、サムジャンの甘辛さと調和するワインの甘味、塩っ辛さを程よく中和する酸、そしてグロロー・グリ特有のほのかなハーブ系のタッチが、サンチュ(レタス)や大葉と呼応する。

料理とワインの間に非常に接点が多く、複雑で重厚なペアリングだが、余韻の爽やかさも抜群。

ワイン文化が無い国の料理に、ワインを合わせるのは本当に面白い。