2022年12月17日3 分
師走真っ盛りの12月。
夏バテと並ぶ「お疲れシーズン」のため、少しでもスタミナを補充しようと、家庭でこのメニューが登場することも多いだろう。
そう、豚の生姜焼きだ。
シンプルな食材構成、簡単な仕込み、手短な調理、そして抜群のスタミナ補給力。
そんな家庭の味方には、良く冷えたビールを、と言いたいところだが、ワインで合わせるのも、ちょっとしたご褒美感があって良いものだ。
さて今回は、豚肉以外の食材を玉ねぎ、生姜、りんご(定番レシピ)に限定して検証してみようと思う。
大前提として、豚肉、特に生姜焼きに使うようなロースは、基本的には白ワイン向きの食材だ。
しかし、食材単体として見てしまうと、あらゆるタイプの白ワインが候補に上がってしまうため、副材料で焦点を定めていく必要がある。
まずは玉ねぎ。しっかりと炒めることによって、甘味が出てくる。また、生姜焼きには砂糖(もしくはミリン)を入れることが一般的なため、この部分は「軽い甘味」とペアリング上は捉えて差し支えないだろう。甘味同士が調和する法則を利用して半辛口程度のワインを当てても良いし、このぐらいの甘味であれば、果実味の強いワインという方法もある。
次に生姜。豚の生姜焼きという料理なのだから、もちろん最も重要な副材料となる。生姜は、ペアリングでは「スパイス」という大きなグループに入れてしまうと分かりやすい。つまり、合わせるワインにはスパイス的な風味があると良いだろう。
最後にりんご。料理にもたらす要素は甘味、と言いたいところだが、実際には軽度の酸味として捉えた方が効果的。シンプルに、酸味同士の調和効果を狙うと良いだろう。
さて、ここまでの要素を整理すると以下のポイントがワインにとって重要になる。
1. 基本は白ワイン
2. 軽い甘味、もしくは強い果実味
3. スパイス風味
4. やや高めの酸
これらの要素を備えた白ワインは意外と少ないのだが、おそらく真っ先に名が挙がるのはゲヴュルツトラミネール。アルコール濃度はできるだけ控えめなもの方が良い(豚肉が薄切りなため)が、豚の生姜焼きとは抜群の相性となるチョイスだ。
また、(スパイスの方向性は少々異なるが)グリューナー・ヴェルトリーナーも優れた相性となる。ただし、グリューナーの場合は、アルコール濃度が低すぎると果実味もかなり抑えられてしまうので、13.5%ぐらいのものを狙うと丁度良いだろう。
シンプルに半辛口のリースリングあたりでも十分に良いが、スパイス風味は拾いきれないため、少し完成度が下がる。
逆に、典型的なシャルドネやソーヴィニヨン・ブランは、料理と繋がるポイントが少なすぎるため、あまり良い組み合わせとは言えない。ワインの酸が料理の塩分をさっぱりさせてくれるだけ、というなんともソフトタックなペアリングとなってしまうだろう。
さて、この程度の検証ではSommeTimes的に面白くないので、ここは一つ、興味深い提案をしてみようと思う。
筆者が実際に合わせてみたのは、オーストラリア産のオレンジワイン。葡萄品種はヴィオニエだ。
ヴィオニエはゲヴュルツほどではないがスパイス風味があり、オレンジワインとなることによって、元々の果実感とスパイス感がさらに強まる。
結果はまさに極上。
豚に生姜焼きを頬張り、ワインを口に含むと、豚肉と玉ねぎの甘味、そして生姜のスパイス感がブーストされ、余韻にりんごがフワッと香る。
白ワインという前提をあえて崩すのは、ちょっとトリッキーなアプローチだが、葡萄品種とオレンジワインの特性を理解さえしていれば、それほど難易度が高いものでもない。
強固な理論の土台があってこその応用であり、完成度の高いクリエイティヴ・アプローチなのだ。