2023年9月21日4 分

南イタリアの粋 〜魅惑のトマトリキュール〜

海外のワイン産地を巡る際には、スケジュールの隙を見計らって、現地のショップを訪れるようにしている。

残念ながら、特にヨーロッパでは、ほとんどのショップは保管状況(常温保存は当たり前)が良くないので、(例え安くても)ワインを買うことは滅多に無いのだが、トレンドや古いヴィンテージワインの価格チェックは入念に行う。

そして、一通りワインを眺めた後に必ず行うのは、ローカルリキュール探しだ。

現地の素材を使った、ローカル感満載のリキュール類は、その地の文化とも深く繋がっているし、日本に輸出されていないことも多い

その地方ならではのジンなども相当面白いが、最高のリキュールに出会った時の衝撃は、何物にも変え難い。

今回の旅唯一の自由時間は、到着翌朝から正午にかけてだったが、ほとんどのショップは10時以降に開店するため、実質的には最大1時間半程度しか猶予が無かった。

一応情報サイトを駆使して、ある程度の目星をつけてから動くのだが、経験上、8割はハズレだ。

徒歩圏内にショップがあるという制限が厳しく、最初に回った3軒が大ハズレだったこともあり、今回は収穫無しかと諦めかけていたところ、あるショップが目に止まった。

ナポリ旧市街、観光客で溢れる場所に、どう見てもローカル客にしか見えない人々が、次々と吸い込まれていくデリカテッセンがあった。

観光地のど真ん中にローカル人が行くからには、それなりの理由がある、というのは定石。

直感と経験を信じて、そのデリに入った瞬間、「求めていた場所」に来たと確信した。

棚に所狭しと並べられたワインは、カンパーニャ州産に限らず、ヨーロッパ各地から丁寧にセレクトされた、素晴らしいラインナップだった。

しかも、セレクションの大半は、ナチュラルにカテゴリーされるタイプのものだ。

私が食い入るように棚を眺めていると、30代後半ぐらいの店員が声をかけてきた。

「こういうワインが好きなのか?」

と聞かれたので、

「そうです。私は日本から来たワインジャーナリストで、本当はワインも買いたいんだけど、明日からワイナリーを巡るツアーがあるから、リモンチェッロとかローカルリキュールを探しています。それにしても、最高のセレクションですね!」

そう答えると、彼は笑いながら、

「わかってくれて嬉しいよ!僕はこの歴史的なデリの後取りなんだけど、僕はナチュラルでアルティザナルなものに情熱をもっている。手に入れるのは大変だけどね。」

と返した。

私がまず、いかにも!な感じのおしゃれラベルなリモンチェッロに手を伸ばすと、彼は即座に助言を挟み込んできた。

「そのリモンチェッロは悪くないけど、観光客向けだよ。ホンモノはこっちだ。」

先ほどのリモンチェッロとは対照的な、地味な見た目のそのボトルは、価格もずいぶん安かった。

こういうおすすめをしてくる人は、信頼できる。

「何か他に面白いリキュールは無いか」、と聞いたら、美しい小瓶に詰められた、この一本が棚の奥から出てきた。

なんと、ALMA DE LUXだ。

デビューから瞬く間に、ナポリの伝説となった極小生産のリキュールブランド。話には聞いていたが、実物には初めてお目にかかった。

もちろん、即決で購入した。

ALMA DE LUXは、ルイーサ・マタレーゼという女性が手がけるアルティザナル・リキュールで、ローカル素材の魅力を超濃縮させた、至極のクラフトだ。

今回入手できた、PIENNOLOは、カンパーニャ州ヴェスヴィオ火山付近で栽培されるローカルのトマト(正式名称、Pomodorino del Piennolo del Vesuvio)で、DOP指定も受けている。

鮮烈なアロマ、程よい甘さ、フレッシュな酸が特徴的なトマトで、生で食べても、ピザやパスタなどのトマトソースにしても、極上だ。

カンパーニャ州のトマトとしては、サン・マルツァーノ(超高級なトマト缶で有名)が良く知られているが、Piennolo del Vesuvioは、その味わいを軽く凌駕する。

そして、その極上トマトに、バジルチリでアクセントを加えてリキュールとしたものが、このPIENNOLOだ。

トマトのエッセンスが超濃縮したアロマと味わいに、バジルがさらなる爽やかさを、チリがスパイスの奥行きをもたらす。

ALMA DE LUXのポリシーで、保存料や添加物の類は一切使用されていない、正真正銘のナチュラル・リキュールでもある。

アルコール濃度は22%。

冷凍庫で冷やして、とろみをブーストさせてから、ストレートで飲むと、世界のどこにいても、カンパーニャにトリップできてしまうだろう。

少しアルコールが強く感じるなら、スパークリングワイン(どうせなら、ローカルのFalanghina del Sannio Spumanteで!)と合わせたり、トニックウォーターなどで割っても良いだろう。

Spirits(スピリッツ)の名の通り、このようなローカル・リキュールは、地方文化の粋であり、カンパーニャ人の魂そのものなのだ。

この偉大なリキュールが日本に輸入されることを切に願うと共に、皆様にも海外訪問の際には、ローカル・リキュール探しを旅程に加えていただくことを、強く推奨する。