2021年11月28日27 分

ワインの王、王のワイン <ピエモンテ・ネッビオーロ特集:第二章>

過日、とあるワイン初心者の方から質問を受けた。ピエモンテ州の同じ造り手で、DOCGのワイン(Dogliani)よりも、DOCのワイン(Langhe Nebbiolo)の方が高いのは何故か、と。DOCGは最高位格付けでは無いのか、と。

まさに雨後の筍。次々と認定され続けるイタリアの最高位格付けたるDOCGは、既に意味消失して久しい。それは、ピエモンテ州に限ったとしても同様だ。Barbera d’Asti、Dolcetto di Dogliani Superiore、Erbaluce di Caluso、Ruche di Castagnole MonferratoといったDOCGは確かにどれも注目に値する素晴らしいワインだが、最高位格付けにふさわしい「品格」は無い。いや、品格の話をするのなら、最高位に座せるのはピエモンテ州ではネッビオーロしかそもそもあり得ない。そして、その頂点は当然、BaroloBarbarescoだ。

本章では、ピエモンテ州の真に頂点たる2つのDOCGの中から、Baroloに焦点を当てて、細かく追っていく。各小自治体コムーネ)に関しては、コムーネ内にある偉大なクリュと、そのクリュの代表例として、様々な造り手を紹介していく。

筆者はバローロという偉大な産地は、ブルゴーニュと同じように、全てのワインファンにとって、「憧れ」の対象となるべきと考えている。この地には、そうなるにふさわしいだけの、数多くの偉大なワイン、偉大な畑、そして偉大な造り手が集まっている。少々長文にはなってしまうが、筆者のありったけの情熱を注ぎ込んで、バローロの魅力を伝えていくので、少々お付き合い頂きたい。

Barolo DOCG

数度の改定は経たものの、現在の規定は2010年改定時のものがベースとなっている。

DOCG規定の主要部分は以下の通り。特に、葡萄畑の条件とクリュ名(M.G.A)記載時の規定が2010年に厳格化された。改定前に認定済みの畑に限っては、改定後の規定に該当していなくても問題ないとされた

*スタイル*

赤ワインのみ(ロッソ、リゼルヴァ)

*葡萄品種*

ネッビオーロ100%(認可クローンは、ミケ、ランピア、ロゼ

*熟成*

収穫翌年の1月1日から数えて、以下の通りに規定。

Barolo:38ヶ月の熟成、内18ヶ月は樽熟成

Barolo Riserva:62ヶ月の熟成、内18ヶ月は樽熟成

*葡萄畑*

土壌:粘土質、石灰質を中心としている。

立地:丘の斜面に位置する畑のみ。谷の低地、平坦な地、日当たりの悪い場所、湿度の高い場所は全て条件を満たさない。

高度:葡萄畑の標高は、最低170m、最高540mの範囲内。(Barbarescoよりも基本的に標高が高い)

方角:日当たりに特段優れていること。しかし、北向きの-45°~+45°(要するに真北を向いた畑)は除外する。

植樹:最低でも3,500本/ha

剪定:ギュイヨ

*最大収量と最低アルコール濃度*

クリュ名(M.G.A)記載の有無に関わらず、Barolo、Barolo Riserva共に以下の通り。

最大収量:8t/ha or 約56.0hl/ha

収穫時の最低潜在アルコール濃度:12.5%

リリース時の最低アルコール濃度:13.0%

*イタリアでは補糖が禁止されているにも関わらず、潜在アルコール濃度とリリース時の最低アルコール濃度に差異があるのは、最終的なアルコール濃度表示に±0.5%の誤差が認められているため。

クリュ名(M.G.A)を記載した場合、Barolo、Barolo Riserva共に以下の通り。

最大収量:7.2t/ha or 約50.4hl/ha

収穫時の最低潜在アルコール濃度:13.0%

リリース時の最低アルコール濃度:13.0%

また、クリュ名(M.G.A)を記載するワインが、6年以内の若木から造られる場合は、最大収量にさらに厳しい規制がかかり、以下の通りとなる。

3年目若木最大収量:4.3t/ha or 約30.1hl/ha

4年目若木最大収量:5.0t/ha or 約35.0hl/ha

5年目若木最大収量:5.8t/ha or 約40.6hl/ha

6年目若木最大収量:6.5t/ha or 約45.5hl/ha

また、特別に良好なヴィンテージに限って、最大20%の収量増が認められ、逆に極めて困難なヴィンテージの場合は、さらに厳しい収量制限が課される。

これらのDOCG規定は、余程熱心なワインファンか、ワインプロフェッショナルにしか必要ではない情報だが、現在Barolo DOCGは非常に厳しい規定のもとに品質管理がなされているということだけは、バローロを正しく知る上で、理解しておくべきだ。

Barolo DOCGの規定(イタリア語原文)

Barolo Classico

小都市アルバから南西に約11km行くと、Barolo DOCGのエリアに入る。現在は11のコムーネ(小自治体)から形成され、総面積約2,000ha弱となっているが、徐々にエリアが拡大されてきた歴史がある。

1896年、イタリア農業省が制定したエリアは、以下の5つのコムーネだった。

Barolo(バローロ)

La Morra(ラ・モッラ)

Castiglione Falletto(カスティリオーネ・ファッレット)

Serralunga d’Alba(セッラルンガ・ダルバ)

Monforte d’Alba(モンフォルテ・ダルバ)

1909年、アルバ農業委員会がさらに以下の3つのコムーネを追加した。

Novello(ノヴェッロ)

Verduno(ヴェルドゥーノ)

・Grinzane Cavour(グリンツァーネ・カヴール)

1966年Barolo DOCの設立に伴い、以下の3つのコムーネが追加された。

・Cherasco(ケラスコ)

・Diano d’Alba(ディアーノ・ダルバ)

・Roddi(ロッディ)

このように拡大してきたとはいえ、Barolo DOCGを理解するために知っておくべきコムーネは限られていると言える。本特集では、1896年に制定されたオリジナルの5つのコムーネに、1909年組のノヴェッロとヴェルドゥーノを加えた7つのコムーネを、非公式のバローロ・クラシコと呼称して、全Barolo DOCGの90%以上を生産しているこのゾーンを中心に、話を進めていく。裏を返せば、筆者がクラシコに含めなかった4つのコムーネに関しては、Barolo DOCGに含まれていること自体に疑問があるということだ。

3つの主要土壌

バローロ・クラシコを形成する7つのコムーネの個性を理解するためには、ネッビオーロがその真価を最大限に発揮するcalcareous marl(石灰質を含む泥灰土)を多く含む、3つの主要な土壌タイプを知っておく必要がある。序章でも軽く述べたが、これらの土壌タイプは、約2,300万年〜約500万年前の中新世時代に形成された、3つの異なる年代の地層(古い地層から順にサーラヴァリアン期、トートニアン期、メッシアン期)の組み合わせによって定義されている。

1. Lequio:最も堅牢で長熟のネッビオーロを生み出す土壌。

サーラヴァリアン期、トートニアン期の地層で形成。

シルト(粒子が粘土より大きく、砂より小さい)の多いマール(泥灰土)、粘土、石灰、砂岩が主体。

Serralunga d’Alba全域、Novello南部、Monforte d’Albaの一部で多く見られる。

以降、レクィオと表記。

2. Sant’Agata Fossili Marls:最も香り高く、エレガントなネッビオーロを生み出す。

主にトートニアン期、一部メッシアン期の地層で形成。

粘土石灰、泥灰土が主体。

Barolo全域、La Morra全域、Novello北部、VerdunoとMonforte d’Albaの一部で多く見られる。

以降、サンタガタと表記。

3. Arenarie di Diano d’Alba:堅牢な構造とエレガンスが共存するネッビオーロを生み出す。

サーラヴァリアン期、トートニアン期の地層で形成。

レクィオに似ているが、より砂が多い。

Castiglione Falletto全域、Monforte d’Albaの一部で多く見られる。

以降、アレナリエと表記。

よりシンプルに捉えるのであれば、レクィオ=パワー、サンタガタ=エレガンス、アレナリエ=バランス、のような理解でも良いだろう。

春のバローロ

*各コムーネの詳細*

大まかな特徴、土壌タイプの情報と共に、各コムーネを代表する偉大なクリュと、そのクリュから造られる偉大なワインについて追っていく。代表例として取り上げた造り手は、そのクリュの最上の表現、というくくりだけではなく、全体を通しての多様性を重視してチョイスしている。また、古典的なブレンドによって造られるワインや造り手に関しては後述する。

Barolo DOCGの各コムーネやクリュが記載された公式なマップはこちらから

Barolo

Barolo DOCG内にあるコムーネの一つであるBarolo(非常にややこしく思えるかも知れないが、大阪府の中に大阪市があるようなものと思っていただければ)は、DOCG全生産量の約12%を担っている。土壌は主にサンタガタで、エレガントで香り高く、複雑な味わいをもたらす。バローロ・クラシコの中でも、より早くから味わいと香りが開くという特性がある。

*Baroloの偉大なクリュ*

Baroloのコムーネ内には、いくつかの名高いクリュがある。その筆頭格は、イタリアで最も有名な畑でもある「Cannubi(カンヌビ)」だ。カンヌビの土壌はサンタガタを中心とするBaroloの中でも特殊で、マグネシウムと砂が多いトートニアン期の地層(香りとエレガンスをもたらす)と、石灰質の多いサーラヴァリアン期の地層(堅牢な構造とタンニンをもたらす)が入り混じる土壌になっている。非常に日当たりと水捌けが良いため、平年と雨の多い年には強い恩恵を受ける一方で、暑く乾燥した年は難しくなることもある。序章で詳しく述べた、カンヌビの名称を巡る泥沼の争いは、そもそもこれらの特徴を全てもちあわせているのが、オリジナル・カンヌビと呼ばれる約15haの区画だけだったことが原因とも言える。これは、ブルゴーニュに例えるなら、ロマネ・コンティが周囲のラ・ロマネ、ロマン・サン・ヴィヴァン、リシュブールなどを併合して、一つのロマネ・コンティになるような話なのだ。

以下は、Baroloコムーネ内にある特に優れた葡萄畑のリストとなる。歴史的価値判断に筆者の独断も加え、特級畑相当と、一級畑相当に分けて紹介する。またこれ以降、各コムーネのクリュに関しても、同様にリストアップしていく。

特級畑相当

Cannubi(カンヌビ):オリジナルの区画に限る

Cannubi Boschis(カンヌビ・ボスキス)

Sarmassa(サルマッサ)

Brunate(ブルナーテ):La Morraにまたがる

Cerequio(チェレクィオ):La Morraにまたがる

一級畑相当

Cannubi San Lorenzo(カンヌビ・サン・ロレンツォ)

Cannubi Valletta(カンヌビ・ヴァッレッタ)

Le Coste(レ・コステ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Cannubi

造り手:Brezza(ブレッツァ)

オリジナル・カンヌビの所有者として知られる老舗のブレッツァは、野生酵母での発酵とオーガニック栽培へと切り替えた2010年頃から、輝かしい復活の道のりを歩んでいる。温度管理を緻密にしながら発酵しつつ、熟成はスロヴェニア産の大樽に拘るハイブリッド型の造りが現在の特徴。やはり圧巻はカンヌビ。引きの美学が紡ぎ出す偉大なテロワールの強烈な咆哮に、圧倒される。2010年代以降と、2000年代までの品質は完全に別物。かつての凡作は忘れ去るべきだ。

Barolo Cannubi Boschis

造り手:Luciano Sandrone(ルチアーノ・サンドローネ)

拡張されたカンヌビのエリアの中で、真にオリジナル・カンヌビに比肩しうるのは、カンヌビ・ボスキスのみだ。そして、世間をそう納得させたのは、外でもないルチアーノ・サンドローネである。バローロ・ボーイズの一派と誤解されることの多い造り手だが、実際は古典派と革新派のハイブリッド的な哲学に基づいてワイン造りを行っている。野生酵母のみで約2週間発酵した後は、マセレーションを延長せずにすぐに圧搾、熟成にバリックは使わず、500Lの中樽(平均新樽比率20%)を用いている。現代のトレンドにも通じる調和の美を早くから体現していた真のパイオニア。

Barolo Sarmassa

造り手:Roberto Voerzio(ロベルト・ヴォエルツィオ)

本来はLa Morraに本拠地を置く造り手だが、Baroloの銘醸畑Sarmassaも所有している。ヴォエルツィオは賛否両論ある造り手で、スタイルはまさに革新派の中の急進派。葡萄畑は、バローロの常識的な密植率の倍近い8,000本/haで、さらに極端な摘房を行って、極限まで低収量化する。野生酵母での発酵と、マロラクティック発酵はステンレス・タンクでクリーンに行い、熟成ではバリック(新樽比率30%)もしっかり効かせる。テロワール表現の緻密さや繊細さを主眼とするなら、ヴォエルツィオのワインには大いに疑問が残る。しかし、彼のワインはとてつもなく美味く、桁違いに高品質なのも事実である。筆者としては、ヴォエルツィオのスタイルは優美なLa Morraではなく、より骨格のあるBaroloのSarmassaの方が、方向性が合っていると感じている。ある意味問題作だが大傑作でもある。悩ましいワインだ。

2つのコムーネにまたがるBrunateとCerequioに関しては、La Morraの中で紹介する。

La Morra

Barolo DOCG内のコムーネ最大の面積を誇り、全生産量の約25%を担っているのがLa Morra。土壌はサンタガタが中心だが、Baroloに比べると粘土が多く、砂や石灰が少ない。またエリア内の畑で標高差がかなりある(200~500m)ため、一般化し辛い側面もあるが、La Morraのネッビオーロはバローロ・クラシコの中でも、最も香り高くエレガントで、早飲みにも適したワインとなる。また、La Morraの華やかさは、古典的なブレンド型バローロにとって極めて重要なパーツとなってきた。保水性の高いLa Morraの粘土質土壌と冷涼なマイクロ気候の組み合わせは、温暖化の影響による高温と旱魃への適応力が高いため、近年非常に高い注目を集めているが、雨の多い年はやや苦手という特徴もある。

*La Morraの偉大なクリュ*

La Morraのエレガンスを体現する偉大なクリュは3つ。BaroloにまたがるBrunateCerequioの2つのクリュはLa Morra側の方がより知られている。

特級畑相当

Brunate(ブルナーテ):Baroloにまたがる

Cerequio(チェレクィオ):Baroloにまたがる

Rocche dell’Annunziata(ロッケ・デッラヌンツィアータ)

一級畑相当

Arborina(アルボリーナ)

La Serra(ラ・セッラ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Brunate

造り手:Giuseppe Rinaldi(ジュゼッペ・リナルディ)

カルト的人気を誇る古典派であり、生粋のナチュラリストでもある。リナルディは長年に渡って2つの異なるクリュの巧みなブレンドによって、桁違いのバローロを生み出してきた。しかし2010年以降、畑名をラベルに記載する時は、一つしかクリュ名を記載できず、ブレンドも許されなくなった影響から、かつてはレ・コステとブレンドしていたブルナーテを単一畑として仕込むことになった。単一畑がジュゼッペの哲学に反していることは重々承知しているが、彼のブルナーテは圧巻の古典美を讃える無上のワインだ。

Barolo Cerequio

造り手:Michele Chiarlo(ミケーレ・キアルロ)

ミケーレ・キアルロは非常に高品質かつ生産量も多いBarbera d’Astiで良く知られているが、彼らのトップレンジの一角を担う銘醸畑チェレクィオは見事だ。La Morraのエレガンスを体現しているワインであり、大樽での発酵、大樽と700Lの中樽での熟成(中樽の約半分が新樽)というコンテンポラリーな手法が、この偉大なクリュの繊細な側面を引き立たせている。また、ミケーレ・キアルロは、オリジナル・カンヌビの所有者としても知られている。

Rocche dell’Annunziata

造り手: Trediberri(トレディベッリ)

この歴史ある偉大な畑で最高のワインを生み出す造り手として、真っ先に名が上がるのはPaolo Scavinoだろう。筆者もそこに異論は無い(Renato Rattiも素晴らしいが)。だが、本特集ではあえて、期待の新人を代表例として選出した。トレディベッリは2007年設立と、非常に若いワイナリーだが、瞬く間にスターダムを駆け上っている。伝統にしっかりと根ざしながらも、より現代的な嗜好にマッチした造りが信条で、発酵はコンクリートタンク、ポストマセレーションは2週間ほどに留め、熟成は大樽。彼らのスタイルは、La Morraの特性とも完璧に調和しており、ロッケ・デッラヌンツィアータは長期熟成の可能性をはっきりと示しながらも、若くして華開く、エレガントで愛らしい大傑作ワインとなっている。

夏のバローロ

Novello

1909年昇格組のノヴェッロは、5つのオリジナルコムーネに比べると知名度は劣るが、Barolo DOCGの約9%弱の生産量を担っている。土壌は主に北部がサンタガタ、南部がレクィオとなっているが、より優れた畑は北部にある。ワインの特徴も北部と南部で大きく分かれるが、北部はBaroloやLa Morraと似た特性をもつものの、南部は中途半端な印象が拭きれない。

*Novelloの偉大なクリュ*

筆者が5つのオリジナルコムーネにノヴェッロを加えた理由は、ノヴェッロにある一つの偉大なクリュの存在故である。そのクリュの名はRavera(ラヴェーラ)。ブレンド型の古典的バローロにとって、長きに渡って極めて重要なパーツとなってきたラヴェーラだが、その名が広く知れ渡ったのは極々近年のこと。華やかなアロマ、緻密な酸、堅牢な構造、長期熟成能力、そして魅惑的なエレガンスをたずさえたラヴェーラは、間違いなく特級畑相当の畑と言える。

特級畑相当

Ravera(ラヴェーラ):ごく一部がBaroloにまたがる

一級畑相当

該当なし

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Ravera

造り手:Elvio Cogno(エルヴィオ・コーニョ)

1991年設立と比較的若いワイナリーだが、その実力は折り紙つき。そして、ラヴェーラの名を世に知らしめた重要な造り手でもある。2004年までは熟成に一部バリックの古樽を使用していたが、現在は大樽のみになり、醸造も極めてシンプルかつ古典的なものへと回帰した。明るい果実味とほのかなスパイスのタッチが心地良いラヴェーラは、まさに傑作中の傑作。バローロファンなら、一度は試しておくべきワインだ。また、エルヴィオ・コーニョは特別な年にだけ、Barolo Riserva Vigna Elenaというキュベを仕込む。このキュヴェが非常に興味深く、ラヴェーラの中にある一区画なのだが、ここにはネッビオーロと遺伝的関係性が無いことが判明したクローンである「ロゼ」のみが植わっている。

Verduno

1909年昇格組のヴェルドゥーノは、ノヴェッロと同様に、5つのオリジナルコムーネに比べるとほとんど無名に等しいし、生産量は全体の5%程度だ。土壌は主にサンタガタに類似したものとなっているが、かなりの多様性が見られる。Barolo DOCGの北限に位置するという立地条件から、繊細なアロマとスパイス感が独特の緊張感を醸し出す味わいが特徴となるが、パワーはあまり無い

*Verdunoの偉大なクリュ*

ノヴェッロをバローロ・クラシコに加えたのと同じ理由が、ヴェルドゥーノにもある。Monvigliero(モンヴィリエーロ)だ。素朴になりがちなコムーネにあって、このクリュだけは華やかさと堅牢さが共存する偉大なワインを生み出す。

特級畑相当

Monvigliero(モンヴィリエーロ)

一級畑相当

Massara(マッサーラ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Monvigliero

造り手:Comm. G.B. Burlotto(コメンダトーレ・ジョヴァン・バティスタ・ブルロット)

ヴェルドゥーノを象徴する偉大な畑であるモンヴィリエーロからは、一般的にはより高名なエリオ・アルターレも素晴らしいワインを造っているが、本記事ではヴェルドゥーノに本拠地を置くブルロットを代表例としてあげることにした。1850年に設立された老舗ワイナリーは、現在五代目のファビオ・アレッサンドリアが率いている。ワイナリー全体としては、非常にシンプルでやや古典寄りの醸造スタイルだが、モンヴィリエーロだけは特別扱い。足踏みで破砕して、全房のまま大樽で温度管理は一切せずに発酵した後は、2ヶ月間に及ぶ長期マセラシオンを行い、熟成も大樽を用いる。超古典的な手法で描き出されたモンヴィリエーロのテロワールは、エキゾチックでカラフルなアロマと、強靭な構造を得て、クリュの偉大さを余すことなく表現している。

秋のバローロ

Castiglione Falletto

Barolo DOCGの約7%程度と、決して生産量が多いコムーネでは無いが、オリジナルコムーネの一つとして、歴史的に極めて重要な役割を果たしてきたのがカスティリオーネ・ファッレットだ。バランス型のワインを生むアレナリエの土壌が主体となる唯一のコムーネであり、豊かなアロマと滑らかなテクスチャーが、しっかりとした構造に支えられる無二の特徴は、ブレンド型バローロにとっても、替えの効かないパーツとなってきた。アレナリエが主体とは言え、大きく3つに別れるサブヴァライエティが存在しているため、かなりの多様性が見られるが、一貫した特性として、やはり調和に優れている点は変わらない。

*Castiglione Fallettoの偉大なクリュ*

バランス型のバローロとして、最上の資質を発揮する偉大なクリュは3つ。他にも優れた畑が多くあり、アレナリエ土壌の特性から、派手さは無いものの、実直で安定感があり、単一畑ワインとして最もバランスを取りやすいコムーネでもある。特に優れた3つのクリュからは、造り手の卓越した技術も相まって、全バローロ最上級のワインが生み出されている。

特級畑相当

Bricco Boschis(ブリッコ・ボスキス)

Monprivato(モンプリヴァート)

Villero(ヴィッレーロ)

一級畑相当

Fiasco(フィアスコ)

Pira(ピラ)

Rocche di Castiglione(ロッケ・ディ・カスティリオーネ)

Vignolo(ヴィニョーロ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Bricco Boschis

造り手:Cavallotto(カヴァロット)

古典派の代表格として名が上がることが多いカヴァロットは、そのイメージの通り、極めて古典的な超長期熟成型バローロを手掛けている。しかし、何も変えてこなかったわけでは無く、むしろ変化のアクションは早い部類だった。バローロの地が化学合成農薬にまみれていた1975年に、先日大変惜しまれつつ他界した故ロレンツォ・コリーノの助言を下に、葡萄畑で草生栽培を開始して以降、オーガニック栽培を貫き続けている。醸造面でも変化をしてきた部分がある。最も驚くのは、革新派の象徴的なツールであるロータリー・ファーメンターを導入している点だろう。しかし、カヴァロットではロータリー・ファーメンターを超低速回転へと改造し、日に1度か2度、ポンプオーヴァー(ルモンタージュ)の代わりとして使用しているそうだ。まさに、「革新と伝統は表裏一体」を地でいく造り手が誇る最高のワインは、偉大なブリッコ・ボスキスから生まれる。バラ、なめし革、タールといったバローロの特徴を余すことなく備えた、真のクラシックである。

Barolo Monprivato

造り手:Giuseppe Mascarello(ジュゼッペ・マスカレッロ)

バローロ屈指の偉大なクリュであるモンプリヴァートを代表する造り手は、ジュゼッペ・マスカレッロを置いて他にはいないだろう。このクリュの93%を所有していることもその理由の一つだが、何よりもその圧倒的な実力そのものが、全バローロを代表するレヴェルにある。そのあまりの高名によって、クリュの公式制定時には周囲の畑の所有者たちが、カンヌビの件と同じように、Monprivatoの拡大を求めたが、当主のマウロ・マスカレッロが断固拒絶し、歴史的なクリュを守り切った。良年にはRiservaとして、モンプリヴァート内の特別な区画の葡萄から「Ca’ d’Morissio」をリリースする。

Barolo Villero

造り手:Vietti(ヴィエッティ)

代表例の選定が非常に悩ましいクリュとなったのがヴィレーロ。Oddero、Giuseppe Mascarello、Brovia、Boroli、Bruno Giacosaとまさにスーパー・バローロが目白押しの、偉大なクリュだが、最上の例はこのヴィエッティだと筆者は考える。1960年代には単一畑バローロをリリースし、1967年には今では人気品種となったアルネイスの復興を初めるなど、ヴィエッティは何かと先見の明に長けた造り手であり続けてきた。ワイナリーの規模はかなり大きくなったが、カジュアルレンジからトップキュヴェまで隙がない。バローロだけでも6種類のクリュワインをリリースしているが、その中でも常に最上となるのが、Riserva Villeroである。魔術師とも呼ばれる現当主ルーカ・クラード・ヴィエッティの手腕は圧倒的で、極めて古典的でありながらも、現代的な洗練のエッセンスを感じさせる、極上のバローロだ。

Serralunga d’Alba

省略して単にSerralunga(セッラルンガ)と呼ばれることも多いこの高名なコムーネは、Barolo DOCG全生産量の約16.5%を担っている。土壌は炭酸カルシウムを多く含むレクィオが主体で、全てのコムーネの中でも、最も複雑で長熟のワインを生み出し、高名なクリュの数も最も多い。Serralungaのバローロは、若いうちは頑なに開かないことも多いため、早飲みできることが重要な要素となっている現代の市場に対応するためには、醸造時のポストマセレーション期間(一般的に、マセレーションが長ければ長いほど、開くのに時間がかかるとされている)や、熟成容器の選択(小樽の方が早く熟す)が鍵を握るはずなのだが、このコムーネには頑固一徹な古典派も多い。多様性という意味も、古典的で偉大なバローロの保存という意味でも、彼ら存在は非常に重要なため、筆者としては彼らが時代の波にのまれないことを願うばかりである。

*Serralunga d’Albaの偉大なクリュ**

4つの特級畑相当の畑を有し、一級畑相当の畑も少なくとも7つはある。また、一級畑相当の畑の中には、Falleto、Lazzarito、Prapòといった、準特級と言っても問題ない素晴らしい畑がある。Serralungaはまさに、名実ともに、Barolo DOCG屈指の銘醸コムーネであるが、これらの偉大なクリュから生まれるワインは、(特に古典的な手法で造った場合)飲み頃の最初の段階に到達するまでに20年以上の時間を要することも多い。造り手も完全に閉じているクリュバローロを早々にリリースするわけにもいかず、結果的にセラーで長い時を過ごすことも多い。つまり、キャッシュ・フローが良くないのだ。そこで、Serralungaの秀逸な造り手たちは、コムーネ内に所有する畑の若木を主体として、Barolo Serralungaというブレンドを造ることが多い。セッラルンガの偉大なテロワールを受け継ぎつつも、より早飲みで安価なワインが多いため、あらゆるバローロの中でも際立ってヴァリューパフォーマンスの高いワインとなる。

特級畑相当

Cerretta(チェッレッタ)

Francia(フランチャ)

Gabutti(ガブッティ)

Vigna Rionda(ヴィーニャ・リオンダ)

一級畑相当

Arione(アリオーネ)

Boscareto(ボスカレート)

Falletto(ファッレット)

Lazzarito(ラッツァリート)

Ornato(オルナート)

Parafada(パラファーダ)

Prapò(プラーポ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Cerretta

造り手:Elio Altare(エリオ・アルターレ)

革新派の象徴的な造り手として、多くのバローロファンが真っ先に名をあげるのは、エリオ・アルターレ(本人は革新派という呼ばれ方を非常に嫌がっているが)だろう。確かにエリオのバローロは、古典派とは大きく性質が異なる。しかし、ネッビオーロの優美さをかき消してしまうほど、新樽を効かせているかという、全くそんなことはない。エリオは、独特なバランス感覚と審美眼でもって、極めてオリジナルな表現に至っており、そんな「エリオ節」のバローロは、バローロの多様性を形成する極めて重要なスタイルの一つである。革新や古典といった枠組みに囚われず、自らが「優れたワイン」と信じるスタイルを実現するために、1983年から、葡萄畑で化学合成農薬の使用をストップし、1984年からポストマセレーションの期間を短くしつつ、バリックでの熟成を開始した。ロータリーファーメンターは1993年から使用しているが、発酵初期の3~4日程度の使用にとどめている。これは、最も質の高いタンニンを迅速に抽出しつつ、種からの荒いタンニンを避けるために、種をファーメンターの回転によって底に落として取り除くという目的があるからだ。バリックの新樽比率は20~30%程度だ。エリオの本拠地はLa Morraだが、その独自の手法は、Serralungaの偉大なクリュであるCerrettaで、最も効果的に発揮されていると筆者は考える。強靭なタンニンと酸で、長い間分厚い殻の中に閉じこもってしまうCerrettaが、驚くほどエレガントで滑らかなテクスチャーをもちつつも、古典的なバラや黒トリュフの香りを纏ったワインとなっているのだ。エリオのBarolo Cerrettaが古典的な表現ではないのは間違いないが、圧巻の大傑作であるのもまた真実だ。数多くの偉大なクリュからワインを造るエリオの最高傑作として、筆者はこのCerrettaを推したい。

Barolo Francia

造り手:Giacomo Conterno(ジャコモ・コンテルノ)

最上の古典派として、バローロでも最もカルト的なステータスを得ているのが、偉大なるジャコモ・コンテルノだ。全バローロを代表するワインとすら言われるBarolo Riserva Monfortinoは、Serralungaの偉大なクリュであるフランチャの中から厳格に選抜された葡萄を、大樽で82ヶ月という超長期熟成を経た上で完成する。リリースは良年に限られている上に、生産量も決して多くない(平均約2万本)ため、現在では一本10万円を超える価格で取引されている。また、フランチャの南側区画は石灰質の多い土壌となることから、その区画の葡萄を分けて、Barolo Cassina Franciaとしてリリースしている。厳格な超長期熟成型として造られるジャコモ・コンテルノのバローロは、幸運なボトル所有者に長い忍耐を強いるが、ピークに入ったワイン(ヴィンテージから少なくとも20年以上かかる)は、まさに並び立つもののない、異次元の領域へと到達する。

Barolo Gabutti

造り手:Cappellano(カッペラーノ)

1870年に創設された老舗ワイナリーのカッペラーノは、長い間不安定な歴史を歩み、実質的に一度消滅したが、バローロの歴史にその名を残す偉大な造り手である、故テオバルド・カッペラーノの手によって復活した。ワイナリーを復興させてから長らくの間、買いブドウからワインを造ってきた(かつてカッペラーノが所有していた畑は、テオバルドの参画前に、売却されてしまっていた)テオバルドだが、1980年代にバローロ屈指の銘醸畑であるガブッティを取得すると、一気にバローロ最上の造り手の一人として、その名声を高めることとなる。テオバルドは、より高額なオファーを蹴ってまで、カッペラーノにガブッティの区画を譲ってくれた元所有者に敬意を表し、この偉大な畑から生まれるバローロに「Otin Fiorin」という元所有者の名をつけた。1989年、テオバルドは突如、周囲からは無謀と嘲笑われるような挑戦を始めた。ガブッティの一区画を、マッセル・セレクションで選抜したネッビオーロ・ミケのクローンを使って、自根で植え替えたのだ。こうして、バローロの歴史上、最上のワインの一つである、Barolo Otin Fiorin Pie Francoが誕生した。古典美の粋とも言えるこのあまりに偉大なワインは絶望的に希少だが、血眼になってでも探し出す価値がある。2009年にテオバルドが亡くなって以降のカッペラーノのワインには、正直なところまだ、筆者は納得が行っていない。もうかつての栄光は戻らないのかも知れないと思うと、この悲しみをどこにぶつければ良いのか、わからなくなる。

Barolo Vigna Rionda

造り手:Oddero(オッデーロ)

オッデーロは、バローロで最も良く知られた老舗ワイナリーの一つだが、その名声に陰りが見え、頑なに古典的だったワインも、どこか生命を失っているように思えていた時期が長かった。しかし、現当主のマリアクリスティーナ・オッデーロが、1997年にオーガニック栽培へと転換、古典への拘りをすて、マロラクティック発酵をバリックで行ってみたり(現在はセメントタンクに戻した)、ステンレス・タンクを導入したり(こちらも現在はセメントタンク主体に戻した)、様々な使用年度の樽を試したり、熟成用の大樽を、近年非常に人気が高いオーストリアのストッキンガー製や、フランスのグルニエ製に変えるなど、柔軟な姿勢でワイン造りに臨み始めた頃から、急激に品質が向上した。古典の良さを残しつつも、現代的にチューンナップされたバローロは非常に洗練されており、新たなバローロの息吹を、進化し続ける老舗ワイナリーが先導しているというのもまた、実に興味深い。バローロの各地とバルバレスコにも、数々の偉大なクリュを所有するオッデーロだが、常に最上のワインとして大切にしてきたのが、Serralungaにあるヴィーニャ・リオンダ。2006年以降、良年に限り、10年間熟成させた上でRiservaとしてもリリースしている。

冬のバローロ

Monforte d’Alba

Barolo DOCGの約20.5%を担うMonforte d’Albaは、La Morraに次いで2番目の生産量を誇る重要なコムーネだ。省略して単にMonforte(モンフォルテ)と呼ばれることも多い。土壌はレクィオ、サンタガタ、アレナリエの全てが見られるため、非常に多様なスタイルのバローロを生み出すことも、Monforteの特徴と言える。

*Monforte d’Albaの偉大なクリュ*

実は、2010年のクリュ正式制定以降のMonforteは、極めて重大な問題を抱えている。クリュの制定は本来、歴史的に認められてきた区画の整理と保護こそが目的だったはず(カンヌビのような失敗例もあるが)だが、なぜかMonforteはその真逆を行ってしまい、数多くあった高名なクリュを次々と統合する形で縮小整理するという暴挙に出てしまった。この不可解極まりないクリュの統合によって、Bussia Soprana、Bussia Sottana、Pianpolvere、Cicala、Romirasco、Colonello、Munie、Pungnane、Mondoca、Gabuttiといったかつては独立していた特級畑、ないしは準特級畑相当の銘醸クリュと、Visette、Arnulfo、Fantini、Corsiniといった秀逸ではあるものの、前者のグループには明らかに劣るクリュが全て統合され、292.3haという巨大な一つのBussiaになってしまった。一応救済措置として、2009年以前にかつてのクリュ名を含んだワイン名を商標登録して場合は継続的な使用を認めたり、現クリュ名(Bussiaなど)の後にVignaと旧クリュ名をつける(Barolo Bussia Vigna Mondocaといった具合に)ことも認めてはいるものの、これらの歴史ある名前は、公式なクリュマップからは姿を消すこととなった。また、同じく銘醸畑として知られたSaint Stefanoは、歴史的名声に劣るPernoに併合されてしまった。特にBussiaの一件は、カンヌビ騒動と並んで、バローロの歴史的な汚点である。

特級畑相当

Bussia(ブッシア):できれば上述した特級畑、準特級畑相当の旧クリュ名も併記されたもの

一級畑相当

Ginestra(ジネストラ)

Gramolere(グラモレーレ)

Perno(ペルノ)

*偉大なクリュの偉大なワイン*

Barolo Bussia

造り手:Giacomo Fenocchio(ジャコモ・フェノッキオ)

巨大なBussiaを構成する旧クリュの数々からは、多くの偉大なワインが造られているが、本章ではオリジナル・ブッシアの一角であるBussia Sottana(ブッシア・ソッターナ)を所有し、BaroloのCannubiや、Castiglione FallettoのVilleroからも見事なワインを生み出すカルト的古典派生産者である、ジャコモ・フェノッキオを選出した。特に大樽発酵、40日間以上のポストマセレーション、大樽熟成と、古典的手法のオンパレードとなるRiservaは、ピークに到達するまでに途方もなく時間がかかるものの、オリジナル・ブッシアがオールド・ファッションな世界観の中で放つ圧倒的な輝きが確認できる、貴重なワインだ。

その他のコムーネ

Cherasco、Diano d’Alba、Grinzane Cavourの3コムーネには、特筆すべきクリュは無い。Roddiには、一級畑相当と言える畑(Bricco Ambrogioブリッコ・アンブロジオ)が1つだけあるが、それでもBarolo DOCGに含めるべきかどうかには、疑問が残る

バローロ・クラシコの偉大なクリュをまとめた表

ブレンドの偉大なバローロとその造り手

ブレンドとクリュの両方を手がける造り手は多く、各々が独自の哲学の元に、ブレンド・バローロを造っている。本章では、コムーネをまたいだブレンドと、同一コムーネ内にあるクリュのブレンドそれぞれから、代表的ワインと造り手を選出した。

Bartolo Mascarello(バルトロ・マスカレッロ)

代表的ブレンドワイン:Barolo

バルトロ・マスカレッロは複数のクリュをブレンドしたBaroloのみを生産(Riservaすら造らない)するピエモンテきっての超古典派。Baroloコムーネ内には、オリジナル・カンヌビ、サン・ロレンツォ、ルエを所有。La MorraにはRocche(ロッケ)も所有している。バローロ・ボーイズ全盛期には辛酸を舐めたが、現在はバローロ屈指の偉大な造り手と評されている。また、カンヌビを巡る争いの際には、自身のワイナリーはブレンドしか造らないにも関わらず、マリア・テレーザ・マスカレッロが、オリジナル・カンヌビ保護のために先頭に立ってMarchesi di Baroloと争った。

Aldo Conterno(アルド・コンテルノ)

代表的ブレンドワイン:Barolo Gran Bussia

ジャコモ・コンテルノが1961年に兄弟の衝突から分裂し、片方はアルド・コンテルノとなった。アルドもジャコモに負けず劣らずの、圧倒的な名声を築きあげ、特にMonforteにおける、一連のBussiaを関するクリュバローロは(Bussia Cicala、Bussia Colonello、Bussia Romirasco)は、バローロ屈指の傑作群として名高い。また、アルド・コンテルノは良年にのみ、3つのクリュを合わせてGran Bussiaの名でリリースしてきた。特に、ワインのブレンドではなく、発酵段階での混醸へと原点回帰した2005年以降のGran Bussiaは、見事な古典美を称える真に偉大なワインへと昇華した。

バローロの嗜み方

ブルゴーニュの場合、広域のブレンドは単一畑に比べると、ほぼ無条件で劣ってしまうが、バローロの場合は、全くそんなことはない。ブレンドにはブレンドの良さが、クリュにはクリュの良さが、優劣という関係ではなく、横並びのスタイルの違いとしてあるのが、バローロの何よりも面白いところだ。ぜひブレンドのバローロが醸し出す古典美を楽しみつつも、まずは7つのコムーネ、そして16の真に偉大なクリュを少しずつ覚えていっていただきたい。代表例として紹介したワインの中には、10万円を超えるものもあるが、1万円を切るものものある。別の視点から見れば、ブルゴーニュやボルドーよりも遥かに控えめな出費で、最上の畑のワインが楽しめるということでもある。

大変な長文となったが、ここまでお読み頂いた読者の方々には、心より感謝を申し上げる。そして、一人でも多く、バローロファンが増えることを、切に願っている。

次章では、もう一つの偉大なDOCGであるBarbarescoの詳細を追っていく。