1月14日3 分
長年レストランの現場にいた私にとって、ペアリングと「料理へのリスペクト」は切っても切り離せないものだ。
寄り添う、引き立てる、混ざり合い高め合うなど、様々な方法論があるが、どの場合も「料理あってこそ」のペアリングであり、ペアリングによって「ワインだけが美味しく(良く)なってしまう」という結果は、少なくともガストロノミーという局面においては、NGである。
しかし、プライヴェートにおいてはその限りではない。
むしろ、その結果がこれ以上なく楽しいことは多々ある。
今回ご紹介する特殊なペアリング例は、レストランではなかなかできないタイプのものだ。
料理はチゲ(かなり辛め)。合わせたワインは、ナチュラル系のオレンジワイン。
まずは、辛い料理とワインを合わせる際の基本を再確認しておこう。
辛味に対しては、酸によるカット(酸辣湯の原理)、甘味による中和(甘辛の法則)、低めのアルコール濃度(目安として13%以下)による辛味の抑制、スパイス風味同士の調和、の4つが主なアプローチとなる。
しかし、強い辛味に対しては一般的にワインに含まれる酸の強さでは対処することが難しく、甘味による中和はどうしても好き嫌いが分かれてしまう。
アルコール濃度による抑制と、スパイス風味同士の調和は、そもそも連動させないと効果が薄いため、そう単純ではない。
トラディショナル製法等の発泡が強いスパークリングワインで、強引に洗い流す方法もあるが、どちらかというと、あまり美食的なペアリングではない。
要するに、かなり辛い料理に対してワインを合わせるのは、難しいということだ。
そして、こういう局面で、一際強い存在感を放つのが、「非一般的」なタイプのワインである。
筆者が合わせたオレンジワインは、亜硫酸添加ゼロ、揮発酸かなり強め、渋味かなり強め、旨味強め、スパイス風味強め、ネズミ臭、還元香、ブレットの3欠陥は無し、というタイプのもの。
まず、一般的なワインよりも遥かに強い刺激となる揮発酸が、チゲの強烈なスパイス感に対して、なんとか拮抗を保ちつつ、辛味に吸い込まれるように溶け込んでいく。
さらに、これは非常に限られた局面でしか使えない技法だが、「辛味は渋味を抑え込む」というレアな現象が発生し、ワインの(単体ではやや強すぎる)渋味もまた、吸い込まれていく。
そうすると、ワインには旨味とスパイス感と果実味(甘味)だけが残り、チゲの旨味辛味と混ざり合って、さらにブーストされていくのだ。
このペアリングで、特にチゲの味わいが引き立てられたりする訳ではない。
単純に、ワインの味わいが大きく変化する、という組み合わせだ。
その変化を「美味しくなった」と感じるかは、個人の主観によると思うが、少なくとも筆者にとっては「大当たり」の変化である。
なかなか再現性の低い、あるいは非常に局所的な例ではあるが、こういうアヴァンギャルドなペアリングもまた、ワイン道の楽しさなのでは無いだろうか。