2021年11月19日7 分

葡萄品種から探るペアリング術 <5> リースリング

葡萄品種から探るペアリング術シリーズは、特定の葡萄品種をテーマとして、その品種自体の特性、スタイル、様々なペアリング活用法や、NG例などを学んでいきます。

今回は、リースリングをテーマと致します。

また、このシリーズに共通する重要事項として、葡萄品種から探った場合、理論的なバックアップが不完全となることが多くあります。カジュアルなペアリングの場合は十分な効果を発揮しますが、よりプロフェショナルな状況でこの手法を用いる場合は、ペアリング基礎理論も同時に参照しながら、正確なペアリングを組み上げてください。

リースリングのスタイル

リースリングの醸造方法は世界的に一貫性(シャルドネやソーヴィニヨン・ブランほど多様ではない)が見られますが、テロワールには極めて敏感であり、品種自体の個性も強く出ます。リースリングの醸造過程で、新樽が登場することは極めて稀です。もちろん例外はありますが、バリック熟成をしたリースリングの成功例もまた、極めて稀と言えます。リースリングの大多数は、(産地を問わず)ステンレスタンク、コンクリートタンク、古い大樽といった、ワインに対して積極的な風味付けをしない容器が用いられています。またマロラクティック発酵をすることも滅多にありません。リースリングは酸度が高く(pH値が低い)、酸化にも弱いため亜硫酸を適宜使用することが一般的であり、これらの要素はマロラクティック発酵を阻害してしまうからです。

また、リースリングは非常に幅広い残糖度のヴァリエーションがあることが、良く知られています。「無条件甘い」というイメージが根強く残っていますが、完全に間違った認識です。リースリングは極辛口〜極甘口のどの段階でも、テロワールの条件が合っていれば、全く隙のないワインとなります。

リースリングの産地

リースリングを積極的にペアリングに用いていくためには、どの残糖度のスタイルが、どこで造られているかを把握することが何よりも重要です。以下にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。なお、以下に挙げた産地は、筆者がリースリングの銘醸地と確信している産地に限っています。どこの産地にも例外的に素晴らしいリースリングを手がける作り手はいるものです。また、辛口が主体の産地でも、僅かに甘口や極甘口が造られていることも多々ありますが、表記しているのはそのスタイルがより多く確認できる産地に限っています。

・極辛口(ほぼ全く残糖を感じさせない)

オーストラリア:クレア・ヴァレー、イーデン・ヴァレー

・辛口(基本的に残糖は感じさせないが、個人差がある)

ドイツ全域(Trockenと表記、もしくはVDPが定めるGrosses Gewächs等)

オーストリア全域(一部、極辛口も)

フランス / アルザス

ニュージーランド / マールボロ、セントラル・オタゴ

オーストラリア / タスマニア

アメリカ / ニューヨーク州フィンガー・レイクス、ワシントン州

カナダ / オカナガン・ヴァレー、オンタリオ州

チリ / レイダ・ヴァレー、サン・アントニオ・ヴァレー

・半辛口(僅かな残糖分をハッキリと感じさせるが、甘口に入るほどではない)

ドイツ全域(halbtrocken、feinherbと表記)

フランス / アルザス(一部のVendenges Tardivesが該当)

・半甘口(明確な残糖を感じさせるが、ドライな酸がバランスをとっている)

ドイツ全域(Kabinett、Spätlese、Ausleseが 該当)

フランス / アルザス(一部のVendenges Tardivesが該当)

アメリカ / ニューヨーク州フィンガー・レイクス(Off-Dry、Semi-Dryと表記)

・甘口(強い残糖を感じさせるが、僅かにドライな部分も残る)

ドイツ全域(Beerenausleseが該当)

アメリカ / ニューヨーク州フィンガー・レイクス(Sweetと表記)

・極甘口(甘味が支配的になっている)

ドイツ全域(Eiswein、Trockenbeerenausleseが該当)

フランス / アルザス(Selection de Grains Noblesが該当)

残糖感をアルコール濃度の高低である程度判断することも不可能ではありませんが、例外が多すぎるので、おすすめしません。

リースリングの風味

残糖度によってある程度の違いは出ますが、基本的には一貫性が見られます。

果実(極辛口〜半辛口):ピーチ、青リンゴ、プラム、アプリコット、レモン、ライム、パッションフルーツ、キウィ

果実(半甘口〜極甘口):ドライアプリコット、ドライピーチ、柑橘のジャム、青リンゴのジャム、レーズン、マーマレード、キャラメル(熟成した場合)

ハーブ:ミント、アニス

:ジャスミン、ラヴェンダー

その他:重油(近年は顕著に減少)、アスファルト(近年は顕著に減少)、薫香、火打ち石、スレート、濡れた石

リースリングのペアリングポイント

リースリングを使ったペアリングは、2つの段階に分かれます。最初の段階は、リースリングと(ほぼ無条件で)好相性を発揮する食材を把握することです。そして次の段階では、調理後の味付けに合わせて、残糖度の塩梅を調整していくことです。リースリングに関しては、変数が少ないこと(醸造方法が一貫している)が、大きなアドヴァンテージとなります。

文字で読むよりも実際はシンプルなので、ぜひチャレンジしてみてください。

1. リースリングと相性の良い食材

・あらゆる甲殻類

・甘味の強い貝類(苦味の強い貝類であるオイスター等は辛口タイプのリースリングに限定される)

・ほとんどの魚類(苦味の強いワタも食べる魚類は辛口タイプのリースリングに限定される)

・鳥類(特に鴨)

・豚肉

・仔牛肉

・甘味の強い野菜(苦味の強い野菜は苦手なので要注意)

・卵料理(数少ない、卵とぶつからない品種がリースリング)

・あらゆるハム、ソーセージ、サラミ

・ブルーチーズ

2. 調理法と残糖度の関係

リースリングペアリングの最後の調整の段階では、料理の味付けとリースリングのスタイルがどのように関係していくかを理解すると、段違いに精度が上がります。

基本的なルールは以下の7つです。

・料理の塩味とリースリングの酸味は比例関係

・料理の塩味とリースリングの甘味は比例関係(酸味のほうが優先)

・料理の酸味とリースリングの酸味は比例関係

・料理の酸味とリースリングの甘味は比例関係(酸味のほうが優先)

・料理の甘味とリースリングの甘味は比例関係

・料理の辛味とリースリングの甘味は比例関係

・料理の油分、脂肪分とリースリングの酸味は比例関係

つまり、しょっぱい料理ほど酸味の強いリースリング、酸っぱい料理ほど酸味の強いリースリング、甘い料理ほど甘いリースリング(この場合、リースリングが料理の甘味を上回っていることが重要)、辛い料理ほど甘いリースリング、油をたっぷり使った料理ならば酸味の強いリースリングとなります。また、料理に塩味と酸味の両方がある場合は、ワインの酸味だけでなく、甘味の効力も使うと精度が上がります

料理の苦味に対して、リースリングの甘味は中和効果を発揮させることが可能ではありますが、バランス調整が非常に難しいため、あまりおすすめしません。コーヒーの味わいを、微量の砂糖がどれだけ変えてしまうかを思い浮かべてみてください、苦味と甘味のバランス調整が難しいことが理解できると思います。

ペアリング例

海老を題材にして、調理法と実際に使うワインの例を挙げます。

・海老の塩焼き(料理に強い塩分)

極辛口、もしくは辛口タイプのリースリング

・海老のマヨネーズ炒め(料理に塩分と酸味)

半辛口タイプのリースリング

・海老のチリソース炒め(料理に強い辛味)

半甘口タイプのリースリング

NG例

・赤身肉ほぼ全般(鴨肉、生の赤身肉は例外)

・黒こしょう(スパイスは得意なリースリングですが、黒こしょうは例外です)

・魚卵(亜硫酸添加の多いリースリングは、魚卵が苦手です)

・葉野菜(苦味が強く、甘味のない野菜は苦手です)

まとめ

リースリングは食材の対応範囲が広く、調理法によって簡単に微調整ができるので、使いこなせば、家庭における最強格のペアリングワインとなります。極辛口か辛口、そして半辛口か半甘口を常備しておけば、いざという時に最高の働きをしてくれます。また、コストパフォーマンスの圧倒的な高さも魅力です。1万円でシャルドネを買っても、最高品質に至ることはあまりありませんが、リースリングならほぼ確実に世界最高クラスのワインに出会えますし、3,000円前後くらいでも、素晴らしいワインが目白押しです。