2021年6月6日3 分

ペアリングの元常識 <3>

肉には渋味の強い赤ワイン

血の滴るステーキに(実際はあの赤い液体は血ではないが)、タンニンがしっかりした赤ワイン。

このクラシックな組み合わせは、実際に文句の付けようがない程、高い完成度を誇る。

その理論的な根拠は、焼き目についた焦げ(苦味)と同調しつつ、肉の脂肪分を中和し、肉の咀嚼回数とも密接な関係性をもつワインの渋味(タンニン)にある。

確かに、この組み合わせにおいては完璧ではあるものの、他の選択肢を完全に否定できるほど、実は万能というわけでもない。脂肪分には酸が、苦味には甘味がそれぞれ異なるアプローチを展開することができるし、咀嚼回数も様々な調理法が一般化した現代においては、明らかな変数的要素となる。

特に酸による脂肪分への「カット効果」は、よりすっきりとした食後感が重視されることの多い現代的な食嗜好にあって、以前よりも遥かに重要性が増している。

つまり、同じステーキであっても、現代的アプローチとしては、より酸の高い一部のピノ・ノワール系ワイン(さすがに軽すぎるワインは厳しい)も、十分に候補となり得る。

料理の苦味(肉の場合は、焦げから主にくる風味)に対するワインの甘味による中和効果は、強力無比ではあるものの、コントロールが難しい側面もある(コーヒーに僅かな砂糖を入れただけでも大きく味わいが変化するのと同様)ため、正しく用いるには、経験とセンスが問われるだろう。

しかし、その強力な中和力を、一つの表現方法と捉えれば、ステーキに半甘口ランブルスコ(イタリア、エミリア・ロマーニャ州産の微発泡性赤ワイン、半甘口から辛口まである)という興味深いペアリングも、試してみる価値は十分にある。

さて、ここまではステーキに絞った話だったが、本稿のテーマは「肉」には渋味の強い赤ワイン、である。

この肉という言葉が、非常に多くの誤解を招いてしまっているのだ。

日本で一般的に食される「肉」は、牛肉、豚肉、鶏肉の3種。次点で仔羊肉、鹿肉、鴨肉となる。実はこれらの「肉」の中で、(調理法を度外視して)単純に食材として赤ワインを前提とすべき根拠がはっきりとあるものは、一つもない

前述した脂肪分に対する酸のカットの効果は、どのタイプのワインに含まれる酸でも効果が現れる。つまり、赤ワインがその他のワインに対して優位性を発揮するのは、苦味に対する渋味の効果のみであり、その効果も「焦げ目をつけながら焼く」という調理法でのみ有効となる。

端的にいうと、どのような肉であっても、生に近いほどタンニンの少ないワインが優位となり、煮る、蒸す、揚げる、といった調理法の場合、タンニンはそれほど必要な存在ではなくなる。

渋味が有効となる、調理法の例

以下は赤ワインを前提としない、肉とワインのペアリングにおける重要項目となる。

1. 肉の最終的な状態における咀嚼回数と、ワインの渋味は比例関係

2. 肉の脂肪分をワインの酸でカットする

3. 肉の(調理法による)苦味をワインの甘味で中和する

4. 肉料理の塩分が強いほど、ワインの酸も強くする

5. 調味料、ソースによって足された風味と、ワインの風味を同調させる

最後に、実際に筆者が過去に実践した肉と赤ワイン以外のペアリングの例を挙げる。

1. 牛肉のタルタル / Condrieu(ヴィオニエ)白ワイン

2. 鴨のロースト / Hermitage Blanc(マルサンヌ、ルーサンヌ)白ワイン

3. 仔牛のカツレツ / Grüner Veltliner Smaragd(グリューナー・ヴェルトリーナー)白ワイン

4. ブフ・ブルギニヨン / Marsannay Rosé(ピノ・ノワール)ロゼワイン

5. 豚の肩ロースステーキ / Rioja Rosato(テンプラニーリョ)ロゼワイン

肉とワインの組み合わせは、過去に信じられてきたものよりも、遥かに自由度が高く、まだまだ新たな発見の余地が残されている。

生肉にタンニンは基本的に不要