2022年3月15日6 分

ペアリングの構築手順

ペアリングの基礎理論に関しては、一連の「ペアリングの基本」シリーズで説明してきましたが、実践になると、理論をどのように順序立てて組み合わせて使っていくかが鍵となります。

なお、あらゆる基礎理論を精密に組み合わせられるようになれば立派な上級者ですが、最終的に「主観」に落ちてしまうのがペアリングの本質でもありますので、徹底的に理論武装したからといって、常に最適なペアリングになるとは思い込まないほうが良いでしょう。

実は、ペアリング基礎理論には、明確な「優先順位」があります。

これは、ペアリング理論に基づいた複数の効果が確認できる際に、より優先度、もしくは支配度の高い項目が存在するということです。

この優先順位を理解していないと、どれだけ基礎理論を単体の項目ごとにマスターしていても、完成度の高いペアリングにはあまりなりません。

では、優先順位の高い順から説明していきましょう。

また、スムーズな解説の流れになるように、各項目の詳細は記載しません。

「ペアリングの基本」シリーズの中から、該当する詳細を学んでください。

優先順位No.1:酸味

ワインの酸味が関連したペアリングは大きく分けて3種類あります。

・塩分、油分、脂肪分、軽度のスパイスに対するカット効果。

・料理(食材)の酸味に対する、調和効果。

・料理(食材)のシンプルな味わいに対する、ハイライト効果。

この中で、優先順位が関係してくるのは、カット効果と調和効果です。

この二つの項目は、あらゆる基礎理論の中でも、最優先で考慮すべきものとなります。

ハイライト効果に関しては、オプション的手法と捉えて問題ありません。

優先順位No.2:甘味

ワインの甘味が関連したペアリングは大きく分けて3種類あります。

・料理(食材)の甘味に対する、調和効果。

・強いスパイス、酸味、苦味に対する中和効果。

・強い塩分に対する、対比効果。

この中で、問答無用で優先順位が高くなるのは、調和効果です。

つまり、料理に何かしらの形で糖分が加えられている場合は、酸味の考慮の次に、ワインの甘味が優先されます。

中和効果、対比効果に関しては、オプション的な手法と捉えて問題ありませんので、料理に甘味が含まれていない場合は、この項目ごと無視することも可能です。

しかし、甘味よりも優先順位が下位の項目の中に、ワインの甘味が効果を発揮する項目(強いスパイス、酸味、苦味、強い塩分)が含まれていた場合にのみ、下位の項目よりも高い優先順位となります

優先順位No.3:渋味

ワインの渋味が関連したペアリングは大きく分けて3種類あります。

・料理(食材)の苦味に対する、調和効果。

・脂肪分とタンパク質に対する、中和効果。

・強い塩分に対する、増幅効果。

この中で、調和効果と中和効果は、第3位の優先順位となります。

増幅効果に関しては、基本的にNG例となりますので、この効果が発生しないように気を付ける必要があります。

ではここで、これまでの部分で少し具体例を挙げてみましょう。

例えば、料理の脂肪分に対しては、ワインの酸味によるカット効果と、渋味による中和効果が手法として使えますが、酸味の優先順位が高いため、渋味はあくまでも赤ワイン等を使用した際のオプション的、もしくは補助的効果となります。

もう一つ例を挙げましょう。チョコレートと赤ワインというペアリングは、ワイン業界最大の「大嘘」の一つなのですが、その理由を論理的に解説するとこうなります。

チョコレートにはカカオ由来の苦味と、砂糖由来の甘味が含まれるのが通常です。

料理(食材)に糖分が含まれている際の、ワインの甘味による調和効果は、苦味に対する渋味の調和効果よりも、優先順位が上です。

つまり、ワインに渋味はあってもなくても良いのですが、甘味は必須となります。

赤ワインの大半が辛口タイプになりますので、糖分が多いチョコレートになればなるほど、ペアリングとしてはNG例となります。もちろん、逆に言えば、チョコレートに甘味が少なければ少ないほど辛口赤ワインとの距離は近づきますので、カカオ比率の極端に高いものであれば、セーフゾーンにギリギリ入ると言えなくもありません。このあたりは、かなり主観によって分かれるところでしょう。

優先順位No.4:アルコール濃度

ワインのアルコール濃度が関連したペアリングは大きく分けて2種類あります。

・料理(食材)の質量とアルコール濃度の調和効果。

・強い塩分と辛味に対する、増幅効果。

調和効果に関しては、優先順位こそ第四位ですが、ワインのタイプに関わらず、常に考慮する必要がある要素となりますので、ペアリングを形作る重要な土台の一部となります。

増幅効果は基本的にはNG例となりますが、優先順位の関係上、無視しても良いケースがあります。例えば、ブルーチーズと極甘口ワインのペアリングです。強い塩分に対しては、ワインの甘味による対比効果、ワインの(高い)アルコール濃度による増幅効果が考えられますが、塩味と甘味の対比効果の優先順位が高いため、甘口でさえあれば、アルコール濃度が高くても問題ありません。

優先順位No.5:風味

ワインの風味が関連したペアリングは大きく分けて3種類あります。

・料理(食材)の広範囲な風味に対する、調和効果。(柑橘とハーブ、など)

・料理(食材)のピンポイントな風味に対する、強調効果。(黒こしょう、など)

・料理(食材)に新たな風味を足す、追加効果。

この中で、調和効果、強調効果は5番目の優先順位となります。風味を調和させたり強調させたりすることは、ペアリングにおいて非常に重要ではありますが、優先順位1~4の項目がしっかりと成立していないと、風味の効果は激減します。ペアリングに慣れていない人は、真っ先に風味のことを考えてしまいがちですので、気をつけてください

追加効果は非常に難易度が高いため、積極的に考慮する必要がありませんが、NG例

としては考慮の価値が十分にあります。料理目線で考えた時に、違和感のある風味の組み合わせは、ペアリングになった時も違和感が生じる可能性が高いからです。

優先順位No.6:質感、風土

調和効果、追加効果と関連するワインの質感調和効果が基本となるワインの風土(テロワール)は、共に優先順位最下位となります。

特に風土の項目は、最優先で重要視する人も多いのですが、それ単体で考えてしまうと、成立する場合とそうでない場合がはっきりと分かれてしまいます。あくまでも、ペアリング構築の最後のタッチとして考えるべきでしょう。

残念ながら、ペアリング理論は、ペアリングにおける「ロマンス」を否定することが多々あります。ロマンスを信じる信じないは個人の自由ですし、最終的には主観であるのも事実ですが、論理的反論の根拠を知って、損はないと思います。

以上のように、ペアリングの基礎理論は、優先順位をベースにして組み立てていくと、格段に精度が上がります。

「ペアリングの基本」シリーズを読み直しつつ、理解を深めていただければ幸いです。