4月6日4 分
イタリア料理といえば、パスタとピッツァが代名詞となるが、その他多種多様な郷土料理の世界は実に奥深く、驚くほど美味な料理に彩られている。
日本人にとっては、全体的に少々塩分強めなのが難点とは言えるものの、塩味を酸味でしっかりカットできるワインがセットになった料理体系なのだから、こればかりは仕方ない。
今回ペアリング研究の題材にしたいのは、イタリア北部ロンバルディア州(ミラノ)の郷土料理である、オッソ・ブーコ。
オッソ(骨)、ブーコ(穴)という奇妙な名前の料理だが、主食材となる仔牛のスネ肉を調理した際に、中央の骨髄部分が縮小して「穴の空いた骨」になることから由来している。
イタリアにトマトが到来する前から存在して料理であるため、大元のオリジナルレシピではアンチョヴィが味付けのベースとなっていたようだが、現代ではトマト、白ワイン、香味野菜類、ブイヨンを合わせて蒸し煮にして、グレモラータ(パセリ、レモンの皮、ニンニクで作る緑色のペースト)を添えるのが定番となる。
イタリア郷土料理の中でも比較的良く知られたものの一つであり、一般的にクラシックペアリングとされているのは、ロンバルディア州のワインではなく、お隣ピエモンテ州のバローロやバルバレスコだ。
しかし、そもそも仔牛のスネ肉が比較的安価な食材ということもあって、オッソ・ブーコは必ずしもレストランの格式高い料理というわけではなく、どちらかというと家庭料理やトラットリアの範疇にあるカジュアルな料理。そして、そこに高貴なバローロやバルバレスコをもってくるのは、個人的に少々料理にとって荷が重く感じもする。
ピエモンテ州のネッビオーロで合わせるのであれば、むしろLanghe Nebbioloくらいのカジュアルでソフトなワインの方がしっくりくる。
もちろん、ロンバルディア州のネッビオーロ(キアヴェンナスカ)主体ワインであるValtellina(この場合は、Superiore格をお勧めする)で合わせるのも良い。
さて、今回のペアリング研究室では、いつものロジカルなものではなく、あえて大雑把な
アプローチをとってみようと思う。
ロジカル・シンキングには汎用性が非常に高いという利点はあるものの、練度が高まらないと即興性に欠けてしまう難点がある。
実際の現場では、悠長に分析をする暇が無いことも多い。
そこでお勧めなのは、クラシック・ペアリングの例を元に、「類似品種」からダイレクトにアプローチしていく方法だ。
分かりやすくいうと、ネッビオーロと良く似た特徴の品種を使う、ということ。
イタリアの中で探すのであれば、(恐らく現地人は怒り狂うかも知れないが)筆頭候補はサンジョヴェーゼとなる。
ネッビオーロとサンジョヴェーゼは風味に相違点が見られるものの、酸とタンニンの構造がかなり似ている。
熟練のブラインドテイスターでも、この2種を見極めるのは簡単ではない。
ポイントとしては、なるべくカジュアルなワイン、例えば高価ではないChianti ClassicoやChianti Rufina、Rosso di Montalcino、Rosso di Montepulciano辺りを使うこと。
国際品種の比率が低いにこしたことがないのは、言うまでも無い。
少し重めのワインで行くならカンパーニャ州やバジリカータ州のアリアニコ、少し軽めのワインで行くならシチリア島エトナのネレッロ・マスカレーゼ辺りもかなり良い。カラブリア州のガリオッポ(できるだけ高品質なもの)も面白い。
バランスの良い高品質なワインを探すのが簡単ではないが、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のピニョーロも、熟成を経るとネッビオーロ的な性質となるため、良い選択肢となり得るだろう。
他国のワインでもいくつか有力な候補がある。
まずはフランスのブルゴーニュだ。
できれば、コート・ド・ボーヌの方が良く、酒質的にはPommardやBeaune、Santenay辺りが使いやすい。(価格の問題はさておき)
同じ方向性で、ドイツのバーデンやファルツのピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)なら、少々コストを抑えることも可能だ。
ギリシャのナウサ(クスィノマヴロ)は、ネッビオーロと類似する点が多く、価格も含めて非常に使いやすいだろう。
同じギリシャなら(少々入手に難儀するが)クレタ島のリァティコも良い。
ポルトガルにも有力な候補がいる。主にバイラーダ地方で主要品種となるバガだ。こちらも価格的に使いやすいのが魅力。
整理すると、以下の通りとなる。
・サンジョヴェーゼ
・アリアニコ
・ネレッロ・マスカレーゼ
・ガリオッポ
・ピニョーロ
・ピノ・ノワール(オールド・ワールド)
・クスィノマヴロ
・リァティコ
・バガ
このように、日頃から類似品種を整理して覚えるようにしておくと、瞬発的にオルタナティヴ・ペアリングを導き出すことができるようになる。
ただし、高級レストランの複雑な料理の場合、このアプローチでは限界があるため、あくまでもカジュアルな料理に対してのみ有効と考えておくべきだろう。