3月9日3 分
クラシック・ペアリングというものは、何もワインの専売特許という訳ではない。
特定の食と飲が同一文化の中で共存し続けた結果、一部の組み合わせが完璧なクラシックへと昇華する例は、世界各地に少なからず存在する。
ペアリングの新シリーズ「Not a Wine Pairing」では、『ワイン以外のクラシック・ペアリングから、ワイン専門家や愛好家が何を学べるのか』をテーマとして、様々な検証を行なっていく。
第四回のテーマは、韓国料理における冬の定番「カキ刺し」と、韓国酒を代表するマッコリとの組み合わせ。
飲食の現場から退いた後、ようやく「解禁」されたと言える食材が、ニンニクとカキだ。
ニンニクは言うまでもないが、カキは現場によっては食中毒予防のために「暗黙の了解」的なNGとなっていることが多い。
カキは元々大好物なのだが、ヴァケーション期間中にしか食べれなかったのは、なんとも辛かった。
必然的に、今回の題材となる「カキ刺し」も、ニンニクたっぷりの味わいも相まって、当然NGど真ん中の料理だったのだ。
韓国語では「フェ」と呼ばれる一連の刺身料理(主に魚介類の刺身を意味するが、ユッケなどの生肉類もこのカテゴリーに含まれる)は、南部の港町釜山の伝統料理。
日本人にはなぜか、魚を生で食べるのは日本の専売特許だと思っている人が多いが、それは大きな間違いだ。
少なくとも17世紀前半には、韓国人(当時の朝鮮人)がフェを食べていたと言う記録が残っている。
フェには一応、「魚介類を生きたまま捌く」という伝統があるが、それは流石に「必ずそう」ということでも無い。
しかし、魚介類そのものの味わいよりも、弾力等の食感が優先される料理であるため、鮮度は極めて重要となる。
一応、韓国醤油とワサビで食べるのも一般的ではあるが、本場らしさがより出るのは、合わせ味噌を使った食べ方だ。
薄く溶いたサムジャン(テンジャン、コチュジャンをベースにニンニク、胡麻油、タマネギなどを加えたもの)、や酢を加えたコチュジャン(チョジャンと呼ぶ)で、魚介類にしっかりと味を乗せると、日本の刺身とは全く異なる料理となり、これがなんとも美味なのだ。
そして、特にカキ刺し(クルフェ)とマッコリの相性は至極である。
米から造られるマッコリは、日本酒の濁り酒やドブロクともよく似ているが、アルコール濃度は6~8%と低く、甘味と乳酸風味が強い。
ミルキーな大粒のカキと、マッコリの乳酸風味はこの上なく相性が良く、合わせ味噌のスパイス風味が、マッコリの甘味によって絶妙に抑制されつつ、完璧に一体化する。
低アルコールならではのすっきりとした余韻も、「ミルキー xミルキー」となる濃厚な味わいの組み合わせと、最高のコントラストになる。
カキ刺しを口に含んで、マッコリを流し込めば、もうそれだけで大満足だ。
さて、このクラシックペアリングから学べそうなのは、乳酸風味の部分だろうか。
ワインにおいても、マロラクティック発酵によって乳酸風味を得ることができる。
当然、マッコリの乳酸レベルには到底及ばないが、旨味の助けを借りてブーストさせることは可能だろう。
新樽味はカキから生臭さを引き出してしまうリスクがあるため、避けた方が無難。MLFをコンプリートしつつ、コンクリートエッグなどでしっかりと澱を循環させて旨みをブーストさせた白ワインで合わせる、もしくはカキの苦味とも合わせるために、オレンジワインのタンニンを利用するという手もありだ。
スパイス感を過剰に強めないために、アルコール濃度は13%以下にとどめておきたいところ。
あとは、少々変化球にはなるが、フェに使われる酢と調和させるために、あえて揮発酸が強めに出ているナチュラルワインを使う、というのも楽しい。
もう直ぐ春が来る。ぜひ今のうちに、この強烈なクラシックペアリングを体験しつつ、ワインでも代用してみていただきたい。