2023年3月28日3 分
クラシック・ペアリングというものは、何もワインの専売特許という訳ではない。
特定の食と飲が同一文化の中で共存し続けた結果、一部の組み合わせが完璧なクラシックへと昇華する例は、世界各地に少なからず存在する。
ペアリングの新シリーズ「Not a Wine Pairing」では、『ワイン以外のクラシック・ペアリングから、ワイン専門家や愛好家が何を学べるのか』をテーマとして、様々な検証を行なっていく。
第二回のテーマは、日本を代表する伝統的なペアリングである「抹茶と和菓子」。
まずは、本題に入る前に、ペアリングの法則を一つおさらいしておこう。
食べ物に相応の甘味(砂糖などの甘味料の添加によってもたらされた甘味)が存在している場合、合わせる飲み物はそれ以上に甘い必要がある。
この法則は、数多いペアリング理論の中でも無視できるケースが非常に限られるものとなるため、基本的には守るにこしたことは無い。
甘いデザートと辛口のワインがどうしようもなく上手くいかないのは、この法則があるためだ。
では、その数少ない「無視できるケース」とは何なのだろうか。
それは、甘味と苦味の関係性にある。
このことは、コーヒーを例に取ると分かりやすいだろうか。
苦味の強いコーヒーが、少量の砂糖を加えるだけで、大きく味わいが変化するという現象は、多くの人が経験済みだろう。
実はこの現象は、そっくりそのままペアリングに応用することができるのだが、「コーヒーと砂糖」でもわかる通り、非常に強力な効果でもあるため、コントロールが少々難しいという側面がある。
そしてこの法則は、飲み物か食べ物のどちらかに含まれる苦味がかなり強い場合にのみ、確認可能な効果を発揮する。
さて、ペアリングに応用していく上で、もう一つ知っておくべきことがある。ペアリングにおいては、苦味と渋味は置き換え可能な要素となる、という点だ。
これらをまとめると、強度の苦味(渋味)は、甘味を中和することができる、という法則へと繋がっていく。
では、本題に移ろう。
抹茶と和菓子だ。
和菓子は、世界的に見ても甘味が強い部類の菓子類になる。
その甘味は、ワインで合わせようとするなら、極甘口ワインの使用が必須になるレベルで強い。
一方の抹茶は、飛び抜けて渋味が強い飲み物の一つだ。
和菓子の強い甘味を、抹茶の強い渋味で中和する。
この完璧な組み合わせは実にダイナミックなもので、静謐なお茶会とは随分雰囲気が異なる。
(実際に、伝統的ペアリングといっても和菓子と抹茶を口中調理するのは、非常にお行儀が悪い行為となるのだが。)
甘味がやや控えめな和菓子なら薄茶で、強いなら濃茶で合わせると良いだろう。
渋味を苦味と置き換えれば、和菓子とコーヒーという組み合わせは問題無くいけるが、渋味量の少ない紅茶、烏龍茶、緑茶などでは完璧な組み合わせからは遠のいてしまう。同様に、実に残念なことだが、ワインに含まれる程度の渋味では上手くはいかない。
ワインで応用できないのに、なぜこのテーマを?と思うのはまだ早い。
ワインペアリングへの真の応用は、「逆パターン」でこそ発揮される。
そう、食べ物に甘味に飲み物の苦味(渋味)という法則を反転させ、食べ物の苦味にワインの甘味へと置き換えるのだ。
これは、チョコレートとポートワインのような組み合わせがうまくいく理由そのものとなるだけでなく、特定の野菜類や調味料、調理法によって生じた苦味に対して、ワインで有効に対応していくための大きなヒントとなる。
この法則を用いる際には、チョコレートのように非常に苦味が強いものはあくまでも例外として、苦味を含む食べ物に対して、やや甘味の強いワインを合わせるようにすると良いだろう。