2023年6月8日3 分

ナチュラルワイン・ペアリング <3>

「欠陥的特徴」とも呼ばれるナチュラルワインに散見される風味を、あえてポジティヴに捉え、積極的にペアリングで用いていく方法を検証していく当シリーズ。

今回は、「還元臭」をテーマとして考えていく。

還元臭は、ワインが嫌気的環境に晒された時、及び発酵中のワインに窒素が欠貧した際などに発生する。軽度の場合は、火打ち石の様な香りを発し、欠陥とはされず、クラシック・ワインの中にこの香りが出ているワインは多々存在している。重度の場合は、亜硫酸の揮発に由来する茹で卵を思わせる硫黄臭(白ワインで特に顕著)や、チオールに由来する焼けたゴムの様な強烈な香り(赤ワインとオレンジワインで特に顕著)が生じる。

デキャンティングやスワリング等の手段で、ワインを空気に触れさせると、不快臭を揮発させることも可能ではあるが、現実的な範囲の時間内で改善するとは限らない。また熟成によって、還元的特徴が潜むことがあるが、逆により強まってしまうケースもあるため、確実な予測を立てた対処は非常に難しい。

還元臭はシンプルに「アロマ」の一種であるため、ペアリングにおけるポジティヴな利用方法は、「風味」の一点張りとなる。

ここでも、基本的な考え方は、よく似た風味同士の調和だ。

まずは、硫黄系還元臭。

ダイレクトに茹で卵を想起させるアロマとなるため、料理に合わせる際も、卵がスタートポイントとなる。

そして、その卵自体は、黄身の部分に「舌の上を膜のように覆ってしまう」という特性があるため、ペアリングにおいては難食材の一つとされている。

黄身による味覚のコーティングは、ワインを弾き返してしまうという物理的な効果であるため、実は硫黄系還元臭自体でそれが突破できる訳ではない

しかし、硫黄系還元臭を伴ったワインの場合、卵の風味とワインの風味が強力に繋がることによって、弾き返されたワインが、バウンスしたボールのように、また料理へと近づいていくのだ。

あらゆる卵の黄身を使用した料理に対して、非常に有効な手法となるため、覚えておいて損は無い。

また、「卵と相性の良い味や調味料」とも親和性を見せるという点も、見逃せない特性だ。

その最も分かりやすい例が、マヨネーズ

でたブロッコリーにマヨネーズをかけて、硫黄系還元臭が出ている白ワインを合わせてみると、まるでそこに卵が入ったかのように、味わいが複雑になる。

ペアリング技法の中でも、「アディション(追加)」と呼ばれる難易度がやや高いものではあるが、欠陥臭を利用したペアリングで、文字通りの「マジック」が起こせる瞬間だ。

次に、焼けたゴム系還元に関しても考えてみよう。

こちらは、風味として捉えた場合、「燻香」の一種として分類することができる。

とはいえ、人によってはかなり強い不快臭となるタイプの燻香であるため、硫黄系還元よりも慎重にアプローチすべきだろう。

風味の調和に関しては、難しいことは考えずに、燻製された料理や食材に合わせるのがベストとなる。

焦がすように焼いた肉類でも、似たような効果を得ることはできるが、風味の繋がりがやや弱くなるため、還元臭が強い場合はやめておいた方が良い。

また、アディションの技法も、焼けたゴム系還元の場合は、ポジティヴとは言い切れない結果となる方が多いので推奨しない。

余談だが、焼けたゴム系還元のワインは「ケッパー」と素晴らしい相性を発揮する。

その原理は謎に包まれているが、試してみる価値は十分にある。

総じて、前回のテーマとした揮発酸に比べると応用範囲は狭いが、ピンポイントな活躍が見込める欠陥的特徴が還元臭となる。

特性を良く理解した上で、ここぞという時のアクセントや、ワンバウンド覚悟の大きな変化球として、クリエイティヴな発想を心がけたいところだ。