2023年5月10日4 分

ナチュラルワイン・ペアリング <2>

ナチュラルワイン・ペアリング・シリーズの第二弾以降では、「欠陥的特徴」とも呼ばれるナチュラルワインに散見される風味を、あえてポジティヴに捉え、積極的にペアリングで用いていく方法を検証していく。

その初回となる本稿では、揮発酸に関して考えていく。

揮発酸は、発酵が長期に渡った場合、好気的環境下におかれた場合等に発生し、支配的になると、除光液とも表現される様な、鼻腔に突き刺さる鋭い香りとなる。最悪の場合はワインを酢に変えてしまうため、各国の原産地呼称制度で含有量が規制されているケースも多い。

ワインに含まれる揮発酸の中でも、不快臭として欠陥扱いされることが多いのは、酢酸酢酸エチルだが、実際には、ワインの香味を構成する重要な要素の1つであり、正しい調和の中で存在している場合は、梅しそ、アセロラ、ラズベリー、パッションフルーツ、グレープフルーツを思わせる香味をもたらし、ワインに複雑性を与える要素として、必ずしも欠陥として捉えられるわけではない

ペアリングで揮発酸を利用する際には、これらの特徴から導き出される、大きな2つの側面から考えていくと良いだろう。

1つは、シンプルに、非常に鋭角で刺激の強い酸としての側面。

料理に含まれる酸味や塩味は、多くの場合ワインとは友好的な関係にあるものとなるが、どちらも「極端」に強い場合、ペアリングを非常に難しくしてしまう。

料理の酸はワインの酸と同調し、料理の塩分をワインの酸はカットできるが、それぞれの法則は比例関係にあるため、料理の酸にしても塩分にしても、一定のポイントを超えたところから、一般的なワインでは対処が難しくなるのだ。

こういうケースでは、揮発酸の強さと鋭さを有効利用することができる。

例えば、ワインバーの定番おつまみでありながら、ワインキラーとして名高いピクルスは、揮発酸が強く出たワインであれば、容易に対応することができる。酢で〆た青魚等にも、この手法は非常に有効だ。

他にも、塩分が極端に強い塩辛のようなものも、強い揮発酸であれば十分なカット効果を効かせることができる。

もう一つは、揮発酸がもたらす独特の風味を用いる方法。

ペアリングにおける風味の法則は、基本的には調和型となる。

つまり、良く似た風味同士を繋げるというアプローチだ。

揮発酸が赤ワイン及びロゼワインで発生した場合、やや鋭角な梅しそ、ラズベリー、アセロラ系の風味が出る。白ワインの場合は、かなり酸っぱいパッションフルーツやグレープフルーツ系の風味となる。

これらの風味を、シンプルに料理にある風味と合わせていくだけなのだが、おそらく日本の食卓で最も有効となるのは、梅しそ系揮発酸を使ったアプローチだろうか。

単純に、梅干しと合わせてみると、非常に分かりやすい。

揮発酸特有のシャープな酸が梅干しの酸味と調和しつつ、風味でも調和する。

シンプルなのに、複雑で奥深いペアリングが、簡単に出来上がる。

もちろん、梅干しを使った様々な料理に応用可能だ。

ワイン単体としては難しさを感じさせることも少なからずある、揮発酸特有の鋭い風味が、1+1が3にも4にもなるような変化を見せるのは、非常に興味深いところだ。

さらに、オレンジワインの場合、もっとクリエイトの幅が広がることは、あまり知られていないだろう。

マセラシオンという工程が葡萄の果皮から抽出する情報と、揮発酸が合わさると、極めて特殊な風味が生じることがある。

例えば、ソーヴィニヨン・ブランのオレンジワインに揮発酸が出た場合、「タラの芽」を思わせるような、エッジと苦味が効いた山菜的風味が生じる。

合わせる料理は当然、春から夏にかけての山菜料理がベストだし、アスパラガスの様な難しい食材とも優れた調和を見せる。

ピンチはチャンス。先人達の偉大な知恵は、現代を生きる我々に、様々なヒントを与えてくれる。

欠陥的特徴を、ただの欠陥として捉えると、そこで全ての話が終わってしまうが、視点を変えた瞬間から、その先には無限の可能性が広がっていく。

そう、欠陥はチャンスなのだ。