2023年4月25日3 分

ナチュラルワイン・ペアリング <1>

より精密で完成度の高いペアリングを目指す場合、ペアリング理論に基づいた構築は大きな助けとなる。少なくとも、ロジックをしっかり守ることによって、ペアリングの失敗は非常に高い可能性で防げるようになるのだ。

しかし、その強固なロジックを、相当程度無視できるタイプのワインが存在している。

そう、いわゆるナチュラル・ワインと呼ばれるものだ。

ナチュラルワイン・ペアリングのシリーズでは、ナチュラルワインだからこそできる、特殊なペアリング方法に関して、検証を行なっていく。

まず注目したいのは、ナチュラルワイン特有の「浸透力」に関して。

ナチュラルワインが有する「浸透力」を、科学的に証明することは難しいかも知れないが、実際に確認できる物理的現象として、存在している可能性は高いと考えられる。

浸透力は、細胞に対して直接的に入り込んでいく力、と考えると良いだろう。

この効果がなぜ特殊なのか、それは一般的なワイン(便宜的に、亜硫酸添加量が多いワインとしておく)によるペアリングと比較することによって、より明確に見えてくる。

一般的なワインによるペアリングの場合、例えば料理を野球ボールに例えると、ワイン側は粘性を伴ったクリームのようなものとなる。

つまり、ワインは料理に対して「まとわりつく」ことは出来ても、そのままでは料理(全ての料理が、ということではなく、例外は多々ある)の内部にまで浸透することが難しいのだ。

この状態は、料理を噛む(細胞を破壊する)ことによって突破することができるのだが、その条件に伴って、制約もまた発生する。

代表的な制約は、咀嚼回数と渋味の関係性だ。

咀嚼回数が多い、つまり細胞を破壊するのに時間がかかる料理の場合、ワイン側には細胞が破壊されるタイミングまで待てるだけの「持続力」が要求される。

そして、この持続力を担っているものこそが、渋味となる。

これは、分厚いステーキには渋味の強いワイン、といった広く知られた法則の論理的説明とも言える部分だ。

さて、本題のナチュラルワイン(便宜的に、亜硫酸添加量の少ないワインとする)の場合、実はこの咀嚼回数と渋味の関係性を相当程度無視できてしまう。

理由は単純で、ナチュラルワイン特有の浸透力によって、細胞の破壊を待たずして、直接的に料理に対して入り込み、非常に早いタイミングで「料理と一体化」させることができるからだ。

この特性は、基本的にほぼ全ての肉料理に対するペアリングで付随する条件を簡単に無視できるため、文字通り爆発的な応用力を秘めていると言える。

酸、塩分、油分、脂肪分、風味など、他に考慮すべき要素が消えるわけではないが、この特性を上手く使えば、ステーキに白ワイン、のようなペアリングですら成功に導くことが可能になるのだ。

まずは、ステーキ(できれば肉厚のもの)を焼いて、一般的な渋味の強い赤ワインと、ナチュラル系で渋味が弱い赤ワインの両方を合わせてみていただきたい。

いかにナチュラルワインが、料理に対してスピーディーに浸透していくかが、容易に確認できるかと思う。