2023年2月2日4 分

ナポリタンを攻略

2022年は、意外なクラシック洋食がリバイバルされ、ちょっとしたブームを巻き起こした。

そう、ナポリタンだ。

ナポリタンと言えば、古き良き喫茶店や洋食店の味

ブヨブヨにゆでたパスタを、炒めた玉ねぎ、ピーマン、ベーコン(ハムやウィンナーの場合も)などの具材とたっぷりのケチャップで絡めた、日本発祥のパスタ料理だ。

何よりも特徴的なのは、そのパスタの柔らかさ。

クラシックなレシピでは、パスタを芯がなくなるまで柔らかくゆでた上で、サラダ油で和えて、冷蔵庫で寝かしておく。

これは、忙しい(忙しかった、とすべきか)喫茶店や洋食店では、「時短策」として有効な手法だった。

さらに、味付けに砂糖が用いられることが多いのも特徴と言えるだろう。

発祥の起源は諸説あるものの、戦後の進駐軍が食べていた簡易的なトマトベースのスパゲッティに影響を受けながら発展していった、という説がもっともらしく聞こえる。

なお、中部圏、関西圏では「イタリアン」(関東圏や東北では、ナポリタンのケチャップ無しバージョンを意味する)と呼ばれることも多い。

さて、そんな国民的クラシック洋食として根付いてきたナポリタンに、ワインを合わせようとすると意外と苦戦してしまうのは、あまり知られていないかも知れない。

ペアリングを難しいものにしている犯人は、ケチャップと砂糖だ。

そもそも、ケチャップ自体に相当程度砂糖が入っている上に、ナポリタンの場合はクラシックレシピであれば、さらに砂糖を加える。

ここまで砂糖が積み重なると、ペアリング理論の大原則である「甘い料理には、それ以上の甘さのワインで調和させる」を無視しきれなくなる。

つまり、(壊滅的というほどではないが)たいていの辛口ワインを用いたペアリングは失敗に終わる、ということだ。

筆者も再確認のために、なんでもない普通のキアンティを合わせてみたが、ナポリタンの良さをワインがかき消し、苦味とも取れるようなやや不快な後味が生じた。これは、ペアリング理論通りの結果でもある。

考えられる対応策は2種。

1. ナポリタンの甘味に対して、ワインのかなり強い酸味で中和をはかる。

2. セオリー通り、ナポリタンの甘みを上回るワインで合わせる。

1の方法はなんとかなりそうにも感じるが、調和(甘味と甘味、酸味と酸味、苦味と渋味、など)は中和(甘味と酸味、など)よりもかなり強い効力を発揮することは、重々留意すべきだ。

ケチャップ自体の酸味があるため、少々のワイン側の酸味は、中和効果を発揮する前に、酸味の方と調和してしまい、効力が著しく弱まるのだ。

この状況を突破するには、揮発酸のようにかなり鋭角な酸が必要となるが、流石にそこまでやってしまうと、バランスの問題も生じてしまいがち。

やはり、正攻法のパターン2が望ましいだろう。

ケチャップと砂糖に基本的な焦点を当てる(余談だが、パスタを含むあらゆる「粉物」は存在ごと無視してしまって問題ない)なら、ケチャップの酸味とワインの酸味を調和、ケチャップ&砂糖の甘味とワインの甘味を調和、という二本立てで攻略するのが良いだろう。

つまり、ある程度の酸味とほのかな残糖を伴ったワイン、というのが主たる選択肢になる。

ケチャップはその色にも関わらず、ワインの色を選ばない調味料でもあるため、ワインの色は基本的になんでも良い。

有力候補としては、イタリア・エミリア=ロマーニャ州のランブルスコ(やや甘めのもの)や、ドイツ等のリースリング(キャビネット、もしくはハーフトロッケン程度の残糖)などが挙げられる。

典型的なヴィーニョ・ヴェルデ(ポルトガル)などでも、かなり上手くだろう。

このように、料理に用いられた砂糖がペアリングの障害となるケースは、実に多い。筆者が目にしてきたペアリングの失敗例でも、砂糖に対する対応のまずさが直接的な要因となっていたケースは枚挙にいとまがない。

余談だが、裏技的にナポリタンとワインのペアリングを簡単にする方法がある。

それは、タバスコを少量かけることだ。

タバスコの辛さは強烈で、ナポリタンの甘味を完全に封殺してくれる。そうなれば、ワインペアリングは実に簡単となるが、タバスコのかけ過ぎは、それはそれで別の問題を引き起こすので、「何事もほどほどに」をお忘れなきよう。