2022年7月16日3 分
ワインに宿るテロワール。
今回は、ペアリングという目線に限定するために、かなり定義を絞ってお話ししていこうと思う。また、現時点での科学的根拠というものを、相当程度無視していることもご承知いただきたい。
ペアリング理論におけるテロワールの捉え方は、「内陸」と「水辺」に大別した上で、内陸であれば、平地、丘陵地、山岳地に細分化し、水辺であれば、湖畔、川辺、海辺、島と細分化させると分かりやすい。
不思議なことに、それぞれに宿ったテロワールの強さは、内陸であれば、平地から山岳地に向かうほど強くなり、水辺であれば、湖畔が最も弱く、島が最も強い。
厳密にいうと気候や土壌も絡んでくるが、話がややこしくなる上に、そこまでの深い「こだわり」を理解できる消費者もごく稀と言えるだろうから、正直なところ、あまり深く考えない方がテロワールをペアリングの要素として使う際には、はるかに簡単になる。
さて、がっかりするかも知れないが、実はテロワールの要素は、ペアリングの構築において、かなり優先順位が低い。
というのも、テロワールの個性を、明確にプラスとして用いることができるケースが限られている上に、万能性を発揮できるものはさらに少なくなるからだ。
答えから先にいうと、丘陵地、川辺、山岳地、海辺、島のテロワールのみが、何かしらの効果を発揮することができる。
平地と湖畔に関しては、ペアリングにおいては考慮する必要はほとんど無いだろう。
さらに、強力な要素として役に立つものに絞ると、山岳地、海辺、島の3つだけになる。
使い方は簡単、山岳地のテロワールが宿ったワインなら、山の食材と(肉類含む)合わせ、海辺、島のテロワールが宿ったワインなら、海の食材に合わせるだけだ。
その中でも、特に島のテロワールが強烈。
今回は、その検証例とも言える体験をご紹介したい。
舞台となったのは、古都鎌倉から哀愁漂う江ノ電に乗って辿り着く由比ヶ浜にある、閑静な住宅街。
知ってないと辿り着けないような奥まった場所に、一軒家イタリアンのMannaがある。
女性シェフが一人で切り盛りする小さなレストランは、舌でも目でも楽しめる名店。
驚くほど多彩なメニューを用意し、コーディネートしながらオーダーをとり、ワインを勧め、ワインを注ぎ、水を注ぎ、料理を作り、料理を運び、皿を下げる。
その全てを一人でこなしているだけでなく、サーヴィスも料理も全くスピードが落ちない。
いや、むしろ、速いくらいだ。
これはもう、ワンオペレーションとしては、免許皆伝レベルの凄さである。
飲食店で勤務したことがない人でも、驚くこと必至である。
オーダーした料理は、海鮮系でまとめた。
つぶ貝とマッシュルームの料理や、カラスミのパスタ、サワラのグリルなど。
ワインは数種類が提案されたが、(半分オフだったので)あまり難しいことは考えずに、海鮮系の料理だからと、島の白ワインにした。イタリア・シチリア島のグリッロだ。
グリッロは、カタラットとモスカート・ディ・アレッサンドリアの自然交配種で、程よくフルティーなアロマと端正な味わいが特徴となる。
肝心のペアリングだが、これがもう、文句なしに素晴らしかった。
ツブ貝はさらに甘く感じ、カラスミからは海の味わいが引き出され、サワラの旨味はこれでもかとブーストされた。
ペアリング理論は、いくらでも複雑に組み立てることが可能だ。もちろん、正しく用いれば、精度は加速度的に高まる。
しかし、テロワールペアリング、特に島のワインを使ったペアリングは、そんな小難しさを簡単に吹き飛ばせるくらいの、パワーがある。
まさにチート技。
難しいことは考えたくない時に手軽に使える技法として、覚えておいて損はない。