2023年12月21日6 分

Kopke ~北向き斜面のグラン・クリュ・ポート~ <ポート特集:Part1>

最終更新: 2023年12月26日

歴史深いポート最上のエリアとして名高い、ドウロ川中流域のCima-Corgo

 

ドウロ川沿いの超急斜面に切り開かれた、壮大なテラス状の段々畑は圧巻そのもので、この風景がユネスコ世界遺産に登録されているということに、誰も異論など抱かないだろう。

 

このような場所を訪れるたびに、(少なくとも筆者が携帯しているカメラでは)写角に全く収まりきらない雄大な景色を、目と記憶にしっかり焼き付けるようにしている。

 

 

さて、本レポートの主役となる、最古参(1638年創業)のポート・ハウスであるKopke(コプケ)について語る前に、Douroにおける葡萄畑の格付けを解説しておこうと思う。

 

詳細は下の表にまとめてあるが、興味深い点をピックアップしておこう。

1948年、アルヴァロ・モレイラ・ダ・フォンセカによって確立されたDouroの葡萄畑格付けは、ワイナリー単位ではなく、葡萄畑そのものが対象となっているため、基本的にはブルゴーニュ方式だが、その範囲と評価方法はシャンパーニュ地方にかつて存在したエシェル・デ・クリュのそれに近い。

 

評価対象は12項目。それぞれに最高点(加点)と最低点(減点)が定められており、最高得点は1,761点となっている。

 

1,201点以上で最高レートのA(本稿では便宜的にグラン・クリュと呼ぶ)となるが、特に標高と母岩における減点の幅が大きく、グラン・クリュとなる畑は実際には非常に少ない

 

特に、標高が低いほど高得点、密植率が低いほど高得点といったポイントは、Douroならではと言えるだろう。

 

さらに、斜面の方角が最大加点100、最大減点-30という比較的小さな幅に収まっていることによって、(特にドウロ川沿いでは)南向きと北向きのグラン・クリュが混在しているというのも、非常に興味深い点だ。

本題に入るが、Kopkeが所有しているのは、Cima-Corgoの中心部、ドウロ川沿い南側の北向き斜面に広がるグラン・クリュ、Quinta de São Luiz

 

歴史的にも、ドウロ川北側(南向き斜面)にあるQuinta do Crasto、Quinta Novaと南側(北向き斜面)のQuinta de São Luizを結ぶ三角地帯は「Golden Triangle」と呼ばれてきた最重要エリアの一つだ。

 

そして、北向きのグラン・クリュというテロワールは、Kopkeの味わいと直結している。

 

Quinta de São Luizは合計125haの敷地内に約90haの葡萄畑を有している。最低標高77.55m、最大標高446.87mとなり、基本的には高標高エリアには白葡萄が、低標高エリアには黒葡萄が植えられている。

 

ポート・ハウスとしてのKopkeは、そのテロワール(北向き斜面)も相まって、ホワイト・ポートの王者として知られてきた(実際に、1940年ヴィンテージのホワイト・ポートという強烈にレアなポートもリリースしている。)が、近年再評価されているのはむしろ、トゥニーやルビーの方だろう。

 

北向き斜面らしいエッジの効いた酸、程よく抑制された果実味が、Kopkeのトレードマークと言える至極のエレガンスと、並外れた超長期熟成能力をもたらしている。

 

そう、優れたポートもまた、純然たるテロワールのワインなのだ。

 

 

では、現地でテイスティングしたワインを紹介していこう。

 

White Port

Kopke, Dry White.

残糖分は55g/L。Kopkeが誇るホワイト・ポート群の中でも、最も甘味が低く、フレッシュで軽やかな味わいが素晴らしい。しっかりと冷やして、アペリティフとしてそのまま楽しむのも良いし、爽やかな辛口のポートニックにも最適。また、その残糖分の低さから、野菜、魚介類の前菜ならペアリング用としての活躍も期待できる。

 

Kopke, Fine White.

残糖分は107g/L。Dry Whiteに比べると、より滑らかなテクスチャーと心地よい甘味、ピーチやパイナップルを思わせる華やかな香味が特徴となる。Dry Whiteと同様に、アペリティフやポートニック(やや甘口)に向いているが、ペアリングの際にはその甘さを活かして、ややスパイシーな料理と合わせると良いだろう。

 

Kopke, Lágrima White.

「涙」を意味するラグリマは、残糖分150g/Lと、最も甘いホワイト・ポートとなる。蜂蜜、熟した白桃、アーモンドやヴァニラを思わせる濃密な味わいだが、Quinta de São Luizらしい鮮烈な酸が存分に効いており、爽やかな印象の余韻となる。Dry White、Fine Whiteと同じくアペリティフやポートニック(甘口)にしても良いが、その本領は桃やパイナップルを使用したフルーツ系のデザート、カスタードクリームを使ったタルトなどと合わせた時に発揮される。

 

Kopke, White Colheita 2008.

Kopkeの真骨頂と言える、熟成タイプのホワイト・ポート。ネクタリンを思わせる濃厚で甘美な味わいが流麗な酸に彩られつつ、アーモンドが薫る長大な余韻へと導かれていく。その美しいハーモニーは、たった一口で、陶酔的な瞑想のひと時をもたらしてくれるだろう。余談だが、熟成にはポーランド産のオーク樽を使用しているとのこと。

 

Ruby Port

Kopke, L.B.V. 2018.

Kopkeのテロワールとエレガンスが凝縮されたようなL.B.V.は、鮮やかなチェリーとストロベリーの果実味、非常にフレッシュ感の強い酸によって、極めてジューシーな味わいに仕上がっている。Kopkeによると、この抜群にフレッシュな味わいを存分に楽しむために、抜栓後4~5日以内には飲み切って頂きたいとのこと。

 

Tawny Port

Kopke, 20 years old Tawny.

単一年のColheita(トゥニー)やVintage(ルビー)が「神の気まぐれ」によって生まれたものだとすれば、ブレンドとなる熟成年数表示トゥニーは、ポート・ハウスの威信がかかった「芸術作品」だ。テロワールとハウス・スタイルに基づいて緻密にブレンドされているため、その本質はノン・ヴィンテージ・シャンパーニュや、スコッチ、ブランデーなどに近い。熟成年数表示トゥニーは、基本的に10~50年の間で(10年単位で)5種類が造られ、それぞれスタイルも味わいも(そして、価格も)大きく異なるが、おそらく最も万人受けするのが、20年物だろうか。非常にバランス感覚に優れ、メローなマウスフィールと絶妙な深み、そして比較的ライトタッチな余韻のアーモンド感が魅力的だ。最高のペアリングはもちろん、ポルトガル名物のエッグタルト(Pastel de Nata)となる。

 

Kopke, 30 years old Tawny.

ドライフルーツを思わせる凝縮しつつ枯れ感のある果実味と、存在感のある強靭な酸のコントラスト、シルキーなテクスチャーが、驚くほど精妙に配置された大傑作トゥニー。超長期熟成タイプの真髄と言える、しなやかな飲み口が最高だ。北向き斜面の長期熟成に向いたテロワールが存分に発揮されており、一般的な30年物に比べると、余韻のナッツ風味も控えめとなっている。

 

Kopke, 50 years old Tawny.

通常リリースの中ではKopke最高峰の一角となる50年物は、真円のようなテクスチャー、乾燥イチジク、ヘーゼルナッツ、スパイスボックスの究極的な調和、快活な酸のトップノート、悠久の余韻で飲み手を桃源郷へと誘う秘薬だ。その驚異的な魔力は、ヴァニラアイスに一滴垂らすだけでも、人々をいとも簡単に魅了してしまうだろう。

 

Tawny Colheita

Kopke, Colheita 2005.

比較的「若い」Colheitaとなる2005年は、アロマのインテンシティが強く、フレッシュな果実味が実にバランスよくまとまっている。Kopkeでは補酒の作業を非常に重要視しているそうで、非常に緩やかな酸化熟成によって、精妙な調和が保たれる。特にColheitaでは、超長期熟成型ポートであるKopkeのスタイルが存分に楽しめるだろう。

 

Kopke, Colheita 1978.

1970年代で最も偉大とされる1977年の影にかくれ、過小評価されている1978年だが、そもそも北向き斜面でテロワールが異なるKopkeにとっては、むしろそのエレガントな特徴が際立った年と言えるだろう。その優美極まりない酒質はまるで、冷涼なヴィンテージに燦然と輝く偉大なブルゴーニュのようであり、Quinta de São Luizの本質が、ソプラノ的グラン・クリュであることを伸びやかに歌っている。

 

Kopke, Colheita 1966.

単体としての熟成期間では、50 years old Tawnyを超えるColheita 1966年は、凄まじい複雑性ときめ細かいテクスチャー、ヴィヴィッドな酸、パワーとフィネスを兼ね備えた、偉大なワインだ。ほのかにスモーキーなニュアンスと共に、色とりどりのドライフルーツ、キャラメル、スパイスボックスが万華鏡のように巡り巡っていく。