2023年4月1日27 分

キアンティの頂 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.2>

最終更新: 2023年4月20日

膨大に積み重ねられてきた歴史の最先端を生きている我々は、先人達が苦難の末に辿り着いた偉業にフリーアクセスできる。

ワインの世界においても、偉業とすべき成果は数多存在しているが、その中でもいつも私が心惹かれるのは、中世を生きた先人たちが会得した、優れたテロワールを見定める秘術だ。

現代では銘醸地となった地の多くが、その最初期は決して大きな産地ではなかった。

そして不思議なことに、最初期、つまりオリジナルの葡萄畑があるエリアは、現代においても、最上の地であることが多い

歴史深いChianti Classico。

そのオリジナルたるエリア。

知る必要がある、理解する必要がある。

Chianti Classicoの真髄に、一歩でも近づくためには。

Chianti Classicoの領域

Chianti Classicoは、トスカーナ州内のサンジョヴェーゼ銘醸地としては、最も北側に位置する産地の一つとなる。

単純に最も冷涼と考えたいところだが、実際には複雑かつ多様なマイクロ気候が形成されているため、その理解は誤解を招きやすいだろう。

南北に47km、東西に21kmの範囲に渡ってChianti Classicoのゾーンは広がっている。

総面積は74,455haで、その内葡萄畑の総面積は9,800ha。Chianti Classicoに認定されている葡萄畑は6,800haとなる。

同ゾーン内にあるオリーヴ園の総面積は、Classico認定畑とほぼ同様の6,930ha。

森林部は全体の62%にも及ぶ、45,680haとなっている。

なお、トスカーナ州では森林伐採に関して現在非常に厳しい規制がかかっているため、葡萄畑を新たに開墾するのは容易ではない。

©️キアンティ・クラシコ協会

地勢と気候から見たテロワールの要素

東側にはキアンティ山脈が広がっており、一部のUGAに深く関わっている。

山脈の最高地点は、Chianti Classico中央東部に位置する標高893mのサン・ミケーレ山であり、周囲にはClassicoの中でも最も冷涼なエリア(Radda北部、Lamole、Panzano東部、Greve南部)が集中している。

他にも南東部にはカルヴォ山(標高834m)とルコ山(標高820m)があり、冷涼なポケット(Gaiole東部)を形成している。

また、中央部やや南西寄りのCastellinaを中心に北西、南東、東へと3つの尾根が伸びている。Castellina中心部から見て西側はやや温暖に、東側はやや冷涼になり、さらにそれぞれの北側ではやや冷涼な、南側ではやや温暖なマイクロ気候が形成されている。

このように東側と西側にある山や尾根は、Chianti Classicoに多種多様な起伏を生じさせているため、葡萄畑の標高も約200m~700m地点までと、幅広い範囲に分布している。

地質から見たテロワールの要素

キアンティ・クラシコ協会は、長年に渡って領域内の地質学的調査を熱心に続けてきた。その結果、Chianti Classicoは主に(葡萄畑所在地に紐づいた)11の異なる地質によって形成されていることが判明している。

複雑に入り組んだ起伏によるマイクロ気候と、地質マップを組み合わせれば、相当程度正確なテロワール特性を導き出すことは可能だが、それが極めて複雑なマトリックスであることは、言うまでも無いだろう。

本特集記事では、理解を可能な限り容易とするために、それぞれのマイクロ気候を中核とし、土壌はあくまでも補助的な要素と捉えて、それらの要素が絡み合った「結果」として形成された「テロワールの土台」に検証を集約させていくこととするが、予備知識として特に重要な土壌に関してのみ言及しておく。

海洋性土壌グループ

Alberese(アルベレーゼ)

アルベレーゼ土壌(石灰質の泥灰土)はClassico中央部から東部、南部にかけて広く分布しているため、Classicoを語る上では最も重要と言えるだろう。石灰質の多い土壌は、より強い酸を葡萄に宿らせ、ミネラル感も強く現出するため、緊張感の強い味わいとなる。また、シラーノ・フォーメーションと呼ばれる粘土質の多い泥灰土土壌が重複した場合(中央部から西部に多い)はより重心が低く、後述するガレストロ土壌が重複した場合は、より堅牢な味わいへと傾く。

Galestro(ガレストロ)

Chianti Classicoの象徴的な土壌として語られることも多いガレストロ土壌(破砕しやすい石灰質片岩が瓦礫状になった土壌)だが、実際にはアルベレーゼ土壌と重複することも多い。より純粋なガレストロ土壌はGreve北西部とPanzanoに集中し、混合土壌は東部の斜面を中心に分布している。ガレストロ土壌の割合が高くなると、ワインは堅牢な構造とさらなる長熟能力を得る。

Pietraforte(ピエトラフォルテ)

ピエトラフォルテ土壌(石灰質の砂岩土壌)も比較的良く知られている土壌だが、より純粋なものはPanzanoを中心に、San Donato in Poggio南西部や、CastellinaとRaddaの極一部にしか分布していない。酸は高く、そして砂岩の特徴として重心も高くなるため、エレガントな性質へとワインを導く土壌と言える。

Macigno(マシーニョ)

石灰質を含む砂岩であるピエトラフォルテに対して、マシーニョ土壌は石灰質を含まない砂岩となる。この土壌は分布範囲が広く、東部キアンティ山脈のほぼ全域と、Castellinaの中心部から南東方向へと伸びる尾根のエリアをカヴァーしている。高標高エリアに集中しているため、単純に土壌のみで特性を判断することは難しいが、軽やかでデリケートな特性をワインにもたらすと考えれば良いだろう。

Tufo(トゥーフォ)

石灰質の粘土砂質土壌であるトゥーフォ土壌は、Classico最南部のVaglianiとCastelnuovo Berardengaという最も温暖なエリアに分布している。粘土の含有率が高いことから、酸はやや控えめに、重心はより低くなる。

大陸性土壌グループ

Alluvial(アッルーヴィアル)

小石と強い粘土質が特徴の堆積土壌であるアルーヴィアル土壌(イタリア独自の呼び方では無く、世界的に用いられる名称)は、Castellina西部を中心に南西部側に分布している。低めの酸、重心の低さと共に、程よいミネラル感が保たれると言えるだろう。堆積土壌の特徴でもある小石を除外して、単純に粘土質土壌(Argillaアルジッラと呼ばれる)として見た場合は、Castellina とSan Donato in Poggioの西部が含まれる。

Fluvial(フルーヴィアル)

河川に由来する沖積土壌であるフルーヴィアル土壌(イタリア独自の呼び方では無く、世界的に用いられる名称)は、San Casciano北部を中心に広がっている。ワインには、ソフトな果実味と丸いテクスチャーをもたらすと考えて良いだろう。

統合的に見たテロワールの大枠

地勢と標高によっておおよその傾向が決まるマイクロ気候と、地質のコンビネーションがもたらす要素を統合すると、Chianti Classicoを5つの大ゾーンに分けて考えることができる。

どうしてもかなりアバウトな線引きにはなるが、以下の地図をご参照いただきたい。

① 東部

キアンティ山脈を中心に標高が高い東部では、石火質を含む土壌と含まない土壌が混在し、重心と酸が高く、淡い色調でアルコール濃度がやや低く、ミネラル感に富んだワインとなる。Chianti Classicoの中でも、最も繊細で優美なワインが生まれるエリアとも言える。

② 中央部

東部に比べるとやや標高が下がる中央部では、東部と同じく土壌に石灰質を含みつつも、ガレストロ土壌が少ない影響もあり、バランス感覚に優れた中庸の魅力に溢れたワインがより多く産出されている。しかし、Castellinaを中心とした3つの尾根に近いエリアでは部分的に高標高となるため、東部に近い性質となる。

③ 西部

標高が低く温暖で、粘土土壌が主体となる西部では、重心と酸が低く、アルコール濃度が高く、ミネラルにはやや欠けるものの、おおらかな果実味が主体となる。腰の据わった迫力のあるワインが生まれるエリア。
 

④ 北部

やや標高が低く、沖積土壌の多い北部では、中央部と同様にバランスに優れたワインが生まれるが、より丸みを帯びた上品な味わいが特徴と言える。

⑤ 南部

低標高で最も温暖なマイクロ気候とトゥーフォ土壌の組み合わせによって、土っぽさを感じさせる味わいと丸みのある果実味、濃厚な色調、やや高いアルコール濃度を伴ったワインとなる。

地図で見ても明らかなように、この大枠のゾーン分類は、UGAsの境界線には沿っていないため、厳密に言うと葡萄畑の所在地が地図上にどこにあるかはっきりと分かっていない限り、高い精度で特徴をつかむことはできない。よって、あくまでも大枠として参考にしていただきたい。

ここまでの内容は、Chianti Classico中級編といったところだ。

そして、ここから先のUGAごとの詳説パートが、上級編となる。

かなり複雑な内容となるため、Chianti Classico初心者の方は、上述した中級編までの内容をしっかりと理解した上で先に進むことをお勧めする。

南部UGAs

本章では、UGA詳説の前編として、5つのUGAを「南部」とした上で進めていく。

南部に該当するUGAは、以下の通りとなる。

Radda(ラッダ)

Castellina(カステッリーナ)

Gaiole(ガイオーレ)

Vagliagli(ヴァリアーリ)

Castelnuovo Berardenga(カステルヌォーヴォ・ベラルデンガ)

南部には、ラッダ、カステッリーナ、ガイオーレという、オリジナル・キアンティChianti Storicoとも呼ばれる)とされるエリアのほぼ全てが含まれているため、この歴史ある偉大なワインのオリジンを知る上でも、非常に重要なゾーンとなる。

Raddaはテロワールの性質上かなり独立性の高いUGAであるが、Castellina、Gaiole、Vagliagli、Castelnuovo Berardengaの4つは、互いに共通している部分があるUGAとなる。

©️キアンティ・クラシコ協会

Radda(ラッダ)

RaddaはUGAsの中でも、最も総体的特徴が掴みやすいエリアの一つ。

葡萄畑は標高350~520mの範囲に集中しており、平均的に高い標高とキアンティ山脈との近い距離が相まって、Chianti Classicoの中でも最も冷涼な部類に属している。

Raddaのサンジョヴェーゼは、Chianti Classicoの中でも際立ってエレガントで、やや淡い色調、華やかなアロマ、緻密なミネラル感、繊細な酸、引き締まったタンニン、高い熟成能力が特徴となる。

歴史的に特に名高いのは、キアンティ山脈の最高峰サン・ミケーレ山を北に見上げる位置にある、Val di Pesa と呼ばれるエリア。

Val di Pesaをさらに深堀りするのであれば、マシーニョ土壌が主体となる北部、ガレストロ土壌、シラーノ・フォーメーション、アルベレーゼ土壌が複雑に入り組む中央部、そしてアルベレーゼ土壌が主体となる南部に分けると良いが、実際には土壌組成が非常に入り組んでいるため、Raddaの総体的特徴であるエレガンスの方が、このエリアを理解する上では重要と言える

Raddaの造り手たち

Tenuta di Carleone

Val di Pesa南部、Raddaの街に程近い場所に、近年大いに注目を集めてきたライジング・スター、Tenuta di Carleoneがある。

オーストリア人の起業家カール・エッガーと、Chianti Classicoの銘醸ワイナリーとして知られるRiecineで、その名を轟かせた名醸造家ショーン・オカラハンが出会ったことによって、2012年に誕生した新しいワイナリーだ。

Raddaを中心に、一部Gaiole東部の標高700m地点にも葡萄畑を所有し、ビオディナミ農法で管理している。

ベーシックのChianti Classicoは、サンジョヴェーゼ100%。Raddaのエレガンスを、現代的に表現したハイセンスなワインだ。

実質的にChianti Classicoの上級キュヴェに該当するUnoは、Carleoneが所有する全ての葡萄畑から選りすぐられたサンジョヴェーゼのみによって造られる。驚くほどの透明感と、純粋性が宿った偉大なワインだ。

また、Gaioleのサンジョヴェーゼのみから造るIl Guercio(醸造家ショーン・オカラハンのあだ名)は、限界的テロワールに加えて、20%全房発酵を行うという実験的側面ももたせた意欲作であり、高標高Chianti Classicoの大傑作。

メルローなどを極少量ブレンドしたキュヴェも手がけているが、その品質は極めて高い。

Caparsa di Paolo Cianferoni

40年以上オーガニック栽培を続けてきたCaparsaは、Val di Pesa南部に位置するワイナリー。

ベーシックのChianti Classico “Caparsa”は、Raddaの中でもより柔和な表現が魅力的な逸品。サンジョヴェーゼ100%、セメント・タンクのみという潔さには、好感しかもてない。

Riservaは2種手がけており、その比較もまた非常に興味深い。

Chianti Classico Riserva “Caparsino”はサンジョヴェーゼ100%で、ガレストロ土壌主体の畑から。熟成は大樽で行い、Raddaらしいエレガンスと、はっきりとした骨格がコントラストを形成する傑作ワイン。

Chianti Classico Riserva “Doccio a Matteo”は、極僅かなコロリーノを加えており、葡萄畑もアルべレーゼ土壌が主体となっている。Caparsinoに比べると、より明るい果実感とさらに緻密なミネラルが特徴的で、アロマも開放的で華やか。甲乙つけ難い名ワインだ。

Fattoria di Montemaggio

キアンティ山脈を上った中腹に位置する小村Castelvecchiから程近い場所に、Fattoria di Montemaggioは葡萄畑を拓いている。Val di Pesa北部らしく、標高は450m~600mと、Raddaの中でも最高地点に近い。土壌はマシーニョを中心に、アルべレーゼやガレストロも入り混じる。オーガニック栽培やワインツーリズムにも熱心な、現代的家族経営ワイナリーだ。

ベーシックのChianti Classicoにはメルローがブレンドされているため、少々インターナショナル寄りの味わいになってしまっているのが残念だが、品質は素晴らしい。

一方、“Riserva di Montemaggio”と、”Gran Selezione di Montemaggio”は、Raddaの真髄を体現した傑作揃い。

Riservaはワイナリーが所有する全ての葡萄畑から、ベストなサンジョヴェーゼのみをチョイスして仕込む。Raddaらしいエレガンスが、高標高のテロワールによってさらに輝いている。

Gran Selezioneは、古木の単一畑、しかもアルベレッロ(株仕立て)という、個人的には強く心惹かれる要素が揃ったワイン。標高は500m地点で、土壌はややテクスチャーが緩みがちなマシーニョではなく、フレッシュ感と堅牢なストラクチャーが両立されるガレストロ土壌。Raddaの象徴たるGran Selezioneとは、かくあるべきではないのだろうか。

Podere Terreno alla Via della Volpaia

1400年代からこの地でワイン造りを営んできたPodere Terreno。葡萄畑はガレストロ土壌とアルべレーゼ土壌が絶妙に混在することから、「Raddaの中のRadda」と表現しても差し支えない、Val di Pesa中央部にある。あまり好きな表現では無いが、お隣はかの有名なMontevertine、と言えばわかりやすいだろうか。

個人的には、今回現地でテイスティングしたRaddaの中でも白眉といえるワイナリー。

淡く繊細でソフトなChianti Classicoは、Raddaだからこそ表現できる、儚さすら感じさせるようなデリケートな味わいがたまらない。これぞ、オリジナル・キアンティの中でも歴史的銘醸地とされるVal di Pesaの真髄たる、圧倒的な古典美だ。

ワイナリーが所有する葡萄畑の中でも、特にガレストロ土壌が強い単一区画から、選りすぐったサンジョヴェーゼで造られるRiservaも見事の一言。

RaddaのChianti Classicoがエレガントで繊細なワインであることは、Terrenoのワインを飲めば誰でもわかるのでは無いだろうか。

Fattoria Poggerino

Poggerinoは、MontevertineやTerrenoと並ぶ、Val di Pesa中央部の名ワイナリー。Raddaのテロワールを緻密に、純粋に、正直に表現したChianti ClassicoとRiservaは、共にサンジョヴェーゼ100%だ。

特に、1973年植樹の単一畑から造られる”Riserva Bugialla”は、セメント・タンクで発酵した後、スロヴェニアン・オークの大樽で熟成と、最高の古典美を奏でる組み合わせ。

ガレストロ土壌が多い区画らしく、エレガントでありながらも引き締まったテクスチャーが素晴らしい大傑作ワインだ。

Castellina(カステッリーナ)

オリジナル・キアンティの一角であるCastellinaは、Radda、Gaiole、Greveに比べると少々知名度が低く、分かりにくさもあるかも知れないが、その実力は真にオリジナルと呼ぶに相応しい隔絶したものがある。

Castellinaは北部、中央部、南部に細分化して考えることができるが、より大きな括りで言うと、北部と中央部のほとんど(便宜的に北側と呼ぶ)では、明るい果実感とタイトな質感、緻密なミネラル、ややハーバルな香味が特徴となり、南部及び南部に近いエリアの中央部(便宜的に南側と呼ぶ)では、よりダークな果実感と重心の低い力強さが特徴となる。

これらの違いは、緯度と標高の差(共に北側の方が高い傾向)に加え、北側にはアルべレーゼ土壌が多いのに対し、南側では粘土質土壌の比率が上がることに起因している。

歴史的に最も高い評価を受けてきたのは中央部で、葡萄畑も集中しており、この地を代表する銘醸ワイナリーが名を連ねている。

中央部と北部の中間エリア(標高が600m近辺とかなり高くなる)では葡萄畑が極端に少なくなるが、標高450m近辺の北部に到達すると、ペサ川の南側流域にあるLa Piazzaの街を中心に、素晴らしい葡萄畑の数々が姿を見せる。

一方、粘土質土壌によって、やや粗野な側面も見せる南部にも葡萄畑が集中しているが、銘醸と呼ぶに相応しいワイナリーはそれほど多くない印象がある。

歴史的な評価も含め、CastellinaのCastellinaらしさは、基本的に中央部と北部に集約されていると言っても良いだろう。

Castellinaの造り手たち

Fattoria Nittardi

1182年に創業されたNittardiは、間違いなくCastellina北部を代表する大銘醸だ。葡萄畑の標高は400~500mほどで、アルべレーゼとガレストロ土壌が入り混じるエリアとなっている。

ベーシックとなるChianti Classico “Castelnuova di Nittardi Vigna La Doghessa”でも、その品質は圧倒的に素晴らしく、タイトなテクスチャーと絶妙なバランス感、明るくジューシーな果実味は、クラシックなCastellinaの典型例と言える。このワインの元となる葡萄畑は、標高450m地点の単一畑。

標高約500mの単一畑から造られるRiserva “Selezionata”は、2017年ヴィンテージまでは3~5%程度のメルローをブレンドしていたが、2018年ヴィンテージ以降、サンジョヴェーゼ100%へと変貌している。特別なテロワールと、名醸造家カルロ・フェッリーニが織りなす味わいは極上そのもので、本来ならGran Selezioneに相応しいワインと言えるだろう。

Piemaggio

中央部北側、歴史的銘醸地として名高いle fioraieのエリアに、Piemaggioは葡萄畑を所有している。標高は380~480mと、冷涼感がはっきりと立ち現れる位置にあり、ガレストロとアルべレーゼ土壌がその特性をさらに高めている。

ベーシックのChianti Classicoは、ヴィンテージによってサンジョヴェーゼの比率が90~100%と変化するが、ブレンドは地品種のみで行われる。

Castellinaらしいタイト感はそのままに、ミネラルの迫力が増し立体的な味わいが形成される。確かに古典美において、le fioraieが「偉大」とされてきた理由が十分にわかるような圧巻の酒質だ。

Riservaは、葡萄畑ではなく葡萄のセレクションによって造られる。Chianti Classicoと同様に、サンジョヴェーゼ比率はヴィンテージによって異なるが、こちらでもブレンドは地葡萄のみ。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローも育てているが、そちらはスーパー・トスカンとしてリリースしている。理由を尋ねたら、「Chianti Classicoにフランスの葡萄は必要ない。」と即答。

Castello di Fonterutoli

中央部の東側、標高350m~570mという高低差の大きいエリアにあるのが、Castellinaの歴史的銘醸Castello di Fonterutoli。現在はMazzeiという大きなグループに属しているため、多額の設備投資によって極めて現代的なワイナリーとなっている。

Gran Selezioneは、Castellina、Radda、Castelnuovo Berardengaの3箇所から、それぞれ異なるワインを造っているため、UGA間のテロワール差異を知る上でも学びの多いワイナリーだ。

Castellinaにある標高470m地点の単一畑Fonterutoliから造られるGran Selezione “Castello Fonterutoli”は、アルべレーゼ主体の土壌から、軽やかかつ引き締まったテクスチャー、流麗なミネラル、エレガントな果実味が鮮明に表現される大傑作ワイン。

少々新樽のニュアンスが個人的には強く感じはするものの、サンジョヴェーゼ100%からなるこのワインが、Castellinaを代表する偉大なGran Selezioneであることは間違いない。

Tenuta di Bibbiano

中央部の南側、南部とされるエリアとの境界線付近に位置する名ワイナリーが、Bibbianoだ。

標高は270~310m程度と「南側」の中では高い部類に入るが、境界地ならではの複雑性が宿ったワインは、Castellina屈指の高品質を誇る。

Chianti ClassicoはベーシックからGran Selezioneまで、全てサンジョヴェーゼ100%。

その高い実力はベーシックChianti ClassicoやRiservaからでも十分に確認できるが、このエリアらしい特性がはっきりと確認できるのは2種のGran Selezioneとなる。

Gran Selezione “Vigna di Montornello”は、北東向きの冷涼な斜面にある単一畑から。土壌はガレストロと砂岩。タイトでエレガントな質感と、ミネラリーかつアーシーな味わいが際立つ大傑作ワイン。

Gran Selezione “Vigna del Capannino”は、南西向きの温暖な斜面にある単一畑から。土壌は粘土質が主体となる。重心が低く、頑強なタンニンによってストラクチャーのはっきりした、パワフルなワインとなる。僅かな距離しか離れていないのに、地勢と土壌の違いによって生じるあまりにも大きな違いには、ただただ驚かされるばかりだ。

Gaiole(ガイオーレ)

オリジナル・キアンティ・エリアの一つであり、現代においてもChianti Classico最上の一つとして名高いUGAがGaioleだ。

しかし、Gaioleのテロワールは、(UGAs制定の際に、北側のGreveが3つのUGAに細分化されたように)さらなる細分化の検討が真剣になされているほど、複雑なものとなっている。

大きな括りでも、北部、東部、南部、西部の4ゾーンに分かれる上に、北部と南部はさらにそれぞれ2つのゾーンヘと分けることができる。

本特集記事では、南部のみを2つへと分けた上で、以下のように整理して進めていくこととする。

(北部)Gaiole in Chiantiの街周辺エリアと、Castagnoliの街周辺エリアが該当。山に近づくほど、砂岩(マシーニョ)の割合が増えるため、重心が高くなる傾向にある。

(東部)キアンティ山脈周辺エリア。土壌はマシーニョが中心となり標高も600m超えとかなり高くなるため、かなり冷涼だが、その厳しい地勢故に葡萄畑は非常に少ない。このエリアの好例としては、Raddaの造り手紹介で挙げたTenuta di Carleoneが造るIl Guercioを参考にすると良いだろう。

(南部)Monti in Chiantiの街を中心としたエリアで、Gaioleの中でも歴史的に非常に高く評価されてきたエリアの一つ。標高は300~400m近辺となるが、Gaioleの中では温暖な部類に属している。パワー感と緻密さが絶妙なバランスで共存するワインとなる。

(最南部)石灰質を含む砂岩土壌であるトゥーフォが主体となるエリアであると同時に、標高が200~300mと低く、最も温暖なエリアでもある。最南部のワインは、濃密で力強い果実感がありながらも、トゥーフォの影響によって重心が高めに保たれる。Gaioleに含まれているが、地質的に見ると、むしろVagliagli南部やCastelnuovo Berardenga南部との共通点が多い。

(西部)Lecchi in Chiantiの街を中心としたエリア。標高が400~500m近辺と高く、アルべレーゼ土壌の影響も強いため、ミネラル感の強いタイトな性質のワインが多い。

広くGaioleらしさ、として認識されているのは、主に南部のMontiと最南部のエリア(実際に最も重要なエリア)からくる個性であるため、GaioleをパワフルなChianti ClassicoのUGAと考える人も多い。

Gaioleの造り手たち

Fattoria San Giusto a Rentennano

Gaioleの最南部、トォーフォ土壌が主体となる温暖なエリアにあるのが、Chianti Classicoにとどまらず、トスカーナ州を代表すると言っても過言ではない大銘醸ワイナリー、San Giusto a Rentennanoだ。

4年前に訪問した際には、「光学式の選果台はダメだ。クリーンになり過ぎたら、Chiantiじゃない。」という、筆者がおそらく生涯忘れないであろう名言を発したのが、現当主のルーカ・マルティーニ・ディ・チガーラ。

展示会場にルーカが居なかったため、ブースにいた彼の家族に尋ねたところ、「ルーカは来ないよ。葡萄畑にいる。」と返ってきた。

Chianti Classicoとしてリリースされるのは、ベーシックなものと、Riserva “Le Baroncole”の2種。

温暖な最南部らしく、高いアルコール濃度によるパワフルで迫力のある味わいだが、僅かにブレンドされるカナイオーロが繊細な酸を宿らせることによって、フレッシュ感が全く失われていない。パワーとエレガンスという、相反した二面性が同時に宿る、文句無しのChianti Classico最高傑作群だ。

なお、領地内から最も優れた葡萄をセレクトして造る最上位キュヴェのPercarloは、サンジョヴェーゼ100%だが、スーパー・トスカンとしてリリースしている。間違いなくChianti Classicoの頂点に位置しているワインなだけに、個人的にはこういうワインこそ真のGran Selezioneに相応しいと思うのだが、ルーカにはルーカなりの信念とこだわりがあるのだろう。

かつてはChianti Classicoに少量ブレンドされていたメルローは、随分前から単一品種スーパー・トスカンのLa Ricolma(本記事の内容とは関係ないが、世界最高峰の単一メルローである)になり、一部はロゼにブレンドされている。

Chianti Classicoの伝統を守りつつ、高品質なメルローは別のワインとして造る。ルーカの選択こそが、私にはChianti Classico全体にとっての「正解」だと思える。

Badia a Coltibuono

南部のMontiエリアにあるBadia a Coltibuonoは、現存するChianti Classico最古のワイナリーの一つとして知られる。このことはつまり、Montiエリアがオリジナル・キアンティの中でもさらに歴史の古い場所であることも意味している。

その立場もあってか、Badia a Coltibuonoはサンジョヴェーゼに加えて8種類もの地品種を栽培し、サンジョヴェーゼ+8が同じ比率でブレンドされた、Montebelloという遊び心と伝統保全がたっぷりと込められたキュヴェも、スーパー・トスカンとしてリリースしていたりする。

Chianti Classicoはベーシックを2種、Riservaを2種生産している。それぞれ異なるコンセプトをもたせることによって、この偉大な産地の多様性をも表現して見せているのだ。

個人的には、共にMontiの葡萄のみを使用し、サンジョヴェーゼ+地品種となるRiservaと、サンジョベーゼ100%のSangioveto(スーパー・トスカンとしてリリース)をこのワイナリーの象徴的ワインとして挙げたい。

Gaiole南部らしく、やや高いアルコール濃度のパワフルなワインだが、グリップがしっかりと効いたテクスチャーが実に素晴らしい。

Rocca di Montegrossi

銘醸地Montiを象徴するワイナリーとして、Rocca di Montegrossiの名は真っ先に挙がるものの一つだろう。リカゾーリ家に連なるワイナリーとしても知られている。

温暖な南部らしく、サンジョヴェーゼ単一ではなく地品種とのブレンドが主体。

カナイオーロとコロリーノが合わせて10~15%ほどブレンドされたベーシックのChianti Classicoは、Montiらしい力強さとスマートな飲み心地が合わさった、より現代的な仕上がり。

一方で、Gran Selezione “Vigna San Marcellino”は全くの別物と言って良いだろう。Montiに残る古いサン・マルチェリーノ教会を囲む同名の葡萄畑に、サンジョヴェーゼをサポートする地品種(5~10%)として生き残ってきたのは、非常に希少なPugnitello(プニテッロ)。

偉大な複雑性と、輝くようなエレガンスが同居する味わい、強靭なミネラルに支えられた長大な余韻には言葉を失ってしまう。このワインもまた、Chianti Classicoを象徴する最高傑作の一つだ。

Castello di Ama

Gaioleの中では標高が高く、やや冷涼なテロワールを有する西部のLecchiを代表するワイナリーと言えば、なんと言ってもCastello di Amaだ。

もしかすると、メルロー100%のスーパー・トスカン「L’Apparita」の方が良く知られているかも知れないが、一連のChianti Classicoも非常に高い品質を誇る。

ただ、L’Apparitaの成功があるからか、5種類生産しているChianti Classicoの中で、メルローがブレンドされていないワインは1種(Gran Selezione “Vigneto Bellavista”)のみ。

新樽を使用していないRiserva “Montebuoni”までのラインならそれほど違和感は無いのだが、Gran Selezione “San Lorenzo”では10%のメルローと、高めの新樽比率(20%強)によって、かなりインターナショナル色の強い味わいとなる。

San Lorenzoが極上のワインであること自体には疑いの余地すら無いが、Gran Selezioneとして考えると、どうしても疑問が残る。

Maurizio Alongi

北部のGaiole in Chiantiに程近い小さな谷に、僅か1.3haの葡萄畑をもつChianti Classico最小規模のワイナリーが、Maurizio Alongi。造り手はまだ23歳と若いが、2019年と2020年を比較したら、2020年の方が随分と洗練されていた。

北部の中でも山に近く、砂岩が多いというテロワール故に、力強さよりもフローラルで軽やかな性質に偏る。

イメージとしては、Raddaにより近いと考えても良いだろう。

将来性に大きな期待がもてるワイナリーであるし、Gaioleの多様性を知る上でも貴重な存在だ。

Vagliagli(ヴァリアーリ)

元々はCastelnuovo Berardengaとして一括りにされていたエリアが、UGAs制定時に東西に分割され、その西側エリアとして新たに誕生したのがVagliagliだ。

Vagliagliのテロワールは、2通りの考え方をすることができる。

まずは、土壌と標高を中心に4分割する考え方は以下の通り。

1. Radda南部(Radda側は葡萄畑が非常に少ない)からの地続きであるためマシーニョ土壌が主体、かつ標高が高いVagliagli北部

2. Castellina中央部からの地続きであるため、アルべレーゼ土壌とシラーノ・フォーメーションが主体となり、やや標高が高いVagliagli中央部。中央部の中でもより標高の高い北側は北部に、標高が低い南側では西部と南部にその特徴が近づいていく。

3. アッルーヴィアル系の粘土質土壌が主体で、標高が低く温暖なVagliagli西部

4. トゥーフォ土壌が主体で、標高が低く温暖なVagliagli南部。Gaiole最南部との関連性が強い。

より簡易的なのは、北部と中央部北側をまとめてやや冷涼な「北側」、中央部南側、西部と南部をまとめて温暖な「南側」とする考え方だ。

それぞれ北部と中央部北側の違い、中央部南側、西部と南部の違いは微細なものと言えなくもないため、Vagliagliを理解する上では、後者の考え方でも十分だろう。

全体感で言うと、ダークな果実味に特徴がある考えることができるが、「北側」ではその中でも明るさが宿り、「南側」ではそのダークな特徴がより強まるなど、かなり大きな違いが生じるため、Chianti Classico最南部に位置するUGAとは言え、一括りに温暖と考えるのは良くない。

Vaglianiの造り手たち

Dievole

Vagliagli北部、標高270mから420m地点に位置しているのが、Vagliagli「北側」の性質を非常に良く表しているDievole。

サンジョヴェーゼ主体に僅かな地葡萄がブレンドされるRiserva “Novecento”は、標高300~420mの範囲で育つ葡萄が用いられるため、マイクロ気候と土壌の豊かなヴァリーションがワインに宿る。ダークな果実味に僅かな明るさが加わり、アルべレーゼ土壌が要因と考えられる緻密なミネラル感が素晴らしい。

一方、Gran Selezione “Vigna Sessina”は、Riservaとはかなり性質の違うワインとなる。標高420m地点、マシーニョ土壌主体の単一畑から、サンジョヴェーゼ100%で仕込まれる。Vagliagliらしいダークな果実味がベースにありながらも、はっきりとした明るさも同時に宿る、陰陽が混在した立体的な味わいと高標高らしいリフト感が絶妙。

Vagliagli北部の個性を象徴する、非常に洗練された見事なGran Selezioneだ。

Fattoria di Valiano

狭義ではVagliagli西部と中央部の境界線、広義ではVagliagli「南側」に位置しているのが、Fattoria di Valiano。

ダークな果実感とタイトなテクスチャーが同居するその味わいからは、この境界線エリアではCastellina中央部から続く特徴と、Vagliagli西部の特徴が入り混じりつつ、温暖なVagliagli「南側」の「らしさ」もしっかりと宿ることが容易に確認できる。

Riserva “Poggio Teo”は標高350m地点、このエリアでは珍しいトゥーフォ土壌主体の畑から造られるサンジョヴェーゼ100%のキュヴェ。アルコール濃度は15%近辺と「南側」らしい数値だが、砂岩土壌らしい重心の高さも見られる。

Gran Selezione “San Lazzaro”は標高360m地点、粘土石灰が主体となるエリアにある単一畑から。粘土質らしいグリップの効き方、豊かなボディ感、頑強なストラクチャーの中に、緻密なミネラルが配される味わいは、まさにこのテロワールそのままと言える。Vagliagli「南側」の特徴が凝縮したような、傑作ワインだ。

San Giorigio a Lapi

Vagliagli南部、Chianti Classicoの中でも最も標高が低くなるエリアに葡萄畑を所有しているのがSan Giorgio a Lapi。

最南部の魅力が詰まった一連のChianti Classicoは、どことなくGaioleの大銘醸San Giusto a Rentennanoをほうふつとさせる。

それもそのはず、この南部エリアは、Gaiole最南部と同じくトォーフォ土壌と温暖な気候という組み合わせになっているからだ。

Riserva “Bandecca”は、サンジョヴェーゼを主体にコロリーノ(色調をプラスするが、タンニンを和らげ、濃縮感を下げる)がブレンドされるという構成。温暖な気候、そして粘土と石灰系砂岩がもたらす特徴が合わさり、極めてダークな果実味、丸いテクスチャー、硬いミネラルの土台、アーシーな風味という個性が形成されている。

Gran Selezione “Empathia”はRiservaで立ち現れていた個性を、さらに研ぎ澄ませたようなワインとなる。その圧倒的なパワー感は、Chianti Classico最重量級とすら言えるが、なんと亜硫酸完全無添加(欠陥的特徴も全くない)で仕上げられているため、重さはあっても強さが無いのだ。間違いなく、Vagliagli南部を代表するGran Selezioneだろう。

Castelnuovo Berardenga

(カステルヌォーヴォ・ベラルデンガ)

Castelnuovo BerardengaはUGAs制定の際に、その範囲が東側半分に縮小された。かねてから西側(現Vagliagli)との違いが指摘されていたため、妥当な改定と言って差し支えないだろう。

Castelnuovo Berardengaのテロワールは、Vagliagliと同様に、狭義では4つのゾーンに、広義では2つのゾーンに分けて考えることができる。

狭義のゾーン分けは以下の通りだ。

1. 標高が高くやや冷涼で、マシーニョ土壌が中心となる北部

2. 標高がやや高く、程よく冷涼で、アルべレーゼ土壌が主体となる北西部

3. 標高がやや高いエリアもあるが、基本的には温暖で、粘土質土壌も増えてくる南東部

4. 標高が低く、トゥーフォ土壌が主体となる南部

広義でまとめるなら、冷涼な「北側」グループとなる北部と北西部温暖な「南側」グループとなる南東部と南部の、2グループで考えると良い。

北部は葡萄畑が少なく、その特徴を確認できる機会もまた少ないが、Classico最南部らしいダークな果実味に、マシーニョ土壌由来のリフト感が加わると考えておけば良いだろう。

北西部は、Gaioleの銘醸地Montiとの関連性が高いことから、暖かい果実感がありながらも、緻密なミネラル感によって、より引き締まったテクスチャーを得る。造り手紹介では触れないが、このエリアの代表格となるワイナリーは、San Feliceだ。

北部と北西部を合わせた「北側」の特徴は、最南部らしいダークな果実味に、高標高エリアならではの明るさが入り混じると考えておけば良い。

南部は温暖なマイクロ気候とトゥーフォ土壌という組み合わせから、Gaiole最南部との関連性が高いが、非常に強く風が吹き付けるエリアでもあるため、やや鋭角な酸が宿る。

南東部は、一部標高が高いエリアもあるが、基本的には温暖で、アレベレーゼ土壌由来の緻密なミネラル、粘土質土壌由来のグリップ感の強い質感といった特徴が立ち現れる。

南部と南東部は、似て非なるエリアと言えるが、温暖という点において共通している。

Castelnuovo Berardendaの造り手たち

Felsina

Castelnuovo Berardenga南東部、Chianti ClassicoとColli Senesiの境界線に位置する名ワイナリーFelsinaを、本特集記事の造り手紹介に含めるかどうかは、非常に悩ましいところだった。

そう、この名高い造り手のワインが、展示会場でテイスティングしたヴィンテージに関しては、どうしようもないほどに不調と感じられたのだ。

サンジョヴェーゼ100%から造られ、南部の中でも標高が高いエリアの味わいを精密に表現した名ワインとして知られるRiserva “Rancia” 2020とGran Selezione “Colonia” 2019は、共に熟度が高いという領域を遥かに通りすぎ、まるで「焦げて枯れた」ような味わいとなっていた。

温暖化対策に失敗しているのか、こうなってしまった本当の理由が何かは定かでは無いが、

この味わいが今後も続くのであれば、FelsinaはChianti Classico屈指の銘醸という地位から、急速に転げ落ちるだろう。

これはChianti Classico全体にとっても、由々しき事態と言える。

そう、Chianti Classico南東端の境界線が現在の位置となっていることに、誰も異論を唱えてこなかったのは、「そこにFelsinaがある」からなのだ。

とはいえ、バックヴィンテージであれば、間違いなくCastelnuovo Berardenga南東部の真価を堪能することができる。濃縮した果実味とエッジの効いた酸のコントラスト、野太いミネラル感は、真に偉大という言葉が相応しい。

Castello di Bossi

厳密にはCastelnuovo Berardenga南部にあるが、北西部との境界線に近い限りなく近く、標高も300m付近と、このエリアではやや高い場所に、Castello di Bossiは葡萄畑を所有している。

温暖なマイクロ気候とトゥーフォ土壌、そして強い風が織りなすテロワールは独特で、強く熟した果実感と、強靭な酸が大きなコントラストを描き出す。

Riservaも良いのだが、個人的には、ほのかな涼しさを感じられるベーシックのChianti Classicoに惹かれる。

テロワールの優劣 

ここまでChianti Classico南部UGAsの詳説をしてきたが、同UGA内でも大きな違いが生じるケースが多々あることはご理解いただけたかと思う。

ここまで理解した上で、「サンジョヴェーゼはピノ・ノワールに似ていると考えた方が良い。」という前提に戻ると、テロワールが主体となった原産地呼称制度の完成形に限りなく近い、ブルゴーニュとの比較もより明確になるだろう。

Gran Selezioneに、同一UGA内にある単一畑(もしくは繋がった複数の区画)というルールが適用されたなら、Gran Selezioneを実質的な特級畑と考えることもできるようになる。

なんでもかんでもブルゴーニュを真似れば良いというものではないのは百も承知だが、特級畑の存在が公に認められれば、それらを頂点とした品質比較によって、同UGA内に「優劣」とも言える違いが生じることは当たり前、という理解へと力強く進むこともできる。

中世とは違い、政治的な思惑が複雑に絡み合う現代において、新たな特級畑の制定などというのは、極めてハードルが高いのは事実。

だが少なくとも、現在与えられた情報の中から、正しくエッセンスを抽出しさえすれば、Chianti Classicoを、テロワールの差異という横軸、テロワールの優劣という縦軸の両方でもって理解していくことができると、私は確信している。