2022年10月26日4 分

グリーンカレーとペアリング

世界が本格的に開き始め、海外への渡航も随分と容易になった。MySOSなるアプリを使用すれば、少々登録は面倒だが、日本入国時の検疫を楽々とスルーできるため、むしろ昔よりも(まだ空港が空いていたというのもあるが)遥かに早く到着ゲートを抜けることができる。成田空港への着陸からスカイライナーに乗り込むまでの所要時間は、わずか45分。

さて、そんな状況もあってか、突然の弾丸タイ訪問を決行したのは9月。もともとは宮古島で用事があったのだが、台風によって全てキャンセルになってしまったため、せっかく調整していたスケジュールを無駄にしまいと、出発前日にタイ渡航を手配した。

バンコクを訪れるのは4年ぶり。騒がしく、雑多な街だが、東京よりも遥かにインターナショナルでエネルギッシュなバンコクは、大好きな場所だ。

そして何より、とにかく食べ物が美味しい

ストリートフードはまぁご愛嬌といった感じだが(例外あり)、ちょっとした食堂でも十分に美味しく、それなりのお店に行けば、東京でもなかなか体験できないような美味に出会える。

タイの通貨であるタイバーツと日本円の為替レートが最悪のタイミングだったこともあり、4年前に感じた「安い!」という印象は飛んでしまったが、平常時であれば、日本の半額くらいの感覚で飲食を楽しめる場所でもある。

しかし、一つ重大な問題点がある。特にワインファンにとって。

タイにおける輸入ワインにかけられた関税等の税が常軌を逸したレベルで高く、様々な税を加算していくと、最も高いケースではなんと400%にまで達してしまうのだ。

だから、タイではワインが非常に高い。感覚として、小売でも日本の1.5倍程度の価格付けになってしまうのだ。

当然、レストランでのワイン販売価格はさらに強烈で、残念ながら私のような庶民には気軽にワインを頼んで、美味しい料理とのペアリングを楽しむなんていう優雅な行為は難しい。

さて、そんな良いことも難しいこともあるバンコクだが、日本人用に調整されていない本場の妙味には、胃袋が問答無用で大覚醒してしまう。

今回は、バンコクで味わった至極のグリーンカレーに対するペアリングを検証してみようと思う。

実はタイのグリーンカレーは、外国人のために便宜上「カレー」と呼んでいるだけで、本来はゲーンという伝統的なスープ料理の一種だ。

様々なハーブと香辛料をミックスしたベースに、ココナッツミルク、ナンプラーを加え、魚介類や肉と共に煮込んだものとなる。特にハーブの一種として用いられる「こぶみかんの葉」は、あの独特な味わいを決定付ける要素となっている。

カレーの部分は、スープや淡いソースに限りなく近く、確かにさっぱりとしたタイ米にかけて食べることも多いが、そのままでも普通に食べたりする。

私が訪れたレストランではドイツのリースリング(僅かに甘いタイプのもの)をオーダーしてペアリングしてみたのだが、残念ながらちょっと精度が低かった。

リースリングの甘味がグリーンカレーのスパイス感を中和して、厚みと奥行きをもたらすという基本的な効果は十分に発揮していたのだが、グリーンカレーとリースリングの「風味の距離」がかなり遠く、なんとも沸切らない結果となってしまった。

そこで、例のごとく、イマジネーションによる再チャレンジをしてみた。

辛味と甘味(リースリング・シュペートレーゼの残糖度)の中和は上手くいっていたのだから、風味の調整を行えばよいだけだ。

考え得る現実的な道筋は2通り。

同様の風味で調和させるルート。

そして、グリーンカレーと相性の良い風味をワインによって加えるルート。

前者の場合、対象となるのはやはりハーブ風味だ。もちろんスパイス風味もあるが、グリーンカレーの場合はハーブの方が圧倒的に強い。

一般的な範疇のワインで、甘味がはっきりとありながらも品種特性によってハーブ感が出やすいのは、フランス・南西地方のジュランソン。プティ・マンサンから造られるこのワインなら、ハーブ風味同士の相乗効果が生まれること間違いなしだろう。ウルトラC案ではあるが、キリッと冷やしたヴェルモットなども試してみる価値はあるだろう。

後者の場合、2つの方向性が思い浮かぶ。

一つは、ナッツ的な風味を加えること。ナッツと言っても、酸化熟成したタイプではなく、あくまでもフレッシュなナッツ感だ。最有力候補となるのは、ピノ・グリ。フランス・アルザスのヴァンダンジュ・タルディヴあたりが良いと思う。

もう一つは、トロピカルな風味を加えること。このタイプのアプローチが最も得意なのは、ゲヴュルツトラミネール。葡萄品種の個性が強いため、生産地は特に気にする必要もないだろう。さらに、マスカット系(ミュスカ系)も有力候補となる。ピノ・グリと同じく、アルザスのヴァンダンジュ・タルディヴなら文句無しだし、隠れたスーパー国際品種であるミュスカなら、世界各地で使えるワインが見つかるだろう。ただし、極甘口の領域に踏み込むものや、超長期熟成したタイプは避けるべき。このペアリングではフレッシュさとライトなタッチが肝心だ。

タイ料理は、日本でも十分に馴染みあるものとなっている。機会があればぜひ、グリーンカレーとこれらのワインを合わせてみていただきたい。