2021年5月13日6 分

葡萄を知る <9> カベルネ・ソーヴィニヨン:New World後編

New Worldでも、最も人気の高い国際品種の一つとして、様々な国や地域で栽培されているカベルネ・ソーヴィニヨン(以下、CS)。晩熟な品種であるCSは、Old WorldよりもむしろNew Worldの国々の方が、明確な違いが生じて、非常に興味深い。また、国によっては、驚くほどのコストパフォーマンスを誇るCSもある。これらのCSが、葡萄そのものの名声に関わらずハイコスパワインとなるのは、それらの国に、他の象徴的な品種が存在している場合に、相対的に価格が上がりきらないことが主な要因となっている。New World後編では北アメリカ以外の国々を紹介していく。

各国のスタイル


 

オーストラリア

オーストラリアにおいてCSは第三位の栽培面積を誇り、主要品種の一つとなっている。特に優れた4つの産地はそれぞれ特有の個性があり、オーストラリア国内のCSだけでも、かなり広い多様性が見られる。また大メーカーではオーストラリア特有のマルチ・リージョナル・ブレンド(複数の産地の葡萄をブレンド)によって、最高品質のワインが造られている例もある。
 

1. バロッサ・ヴァレー

シラーズ、グルナッシュ、マタロといった南仏系品種が主体となってきた、オーストラリア最上の銘醸地では、CSは新参者。しかし、非常に技術の高い造り手たちによって、力強くも緻密な味わいの、見事なCSが造られている。温暖なバロッサにおいては、局地的に冷涼なエリアや、冷涼なヴィンテージで、よりCSが成功している傾向がある。つまり、オフ・ヴィンテージが狙い目。シラーズとブレンドされることもある。

<至高のワイン>

Greenock Creek, Roennfeldt Road Cabernet Sauvignon

Penfolds, Block 42 Kalimna Cabernet Sauvignon

2. クナワラ

テッラ・ロッサと呼ばれる赤土の土壌で知られるクナワラは、オーストラリアにおける冷涼気候カベルネの代表的な産地。冷涼地ならではの豊かなタンニンと酸は、非常に高い長期熟成ポテンシャルをもたらす。そのテロワールの特性上、ビッグワイン全盛期は、あまり人気が無かったが、近年は急速に復権中。

<至高のワイン>

Wynns, John Riddoch Cabernet Sauvignon

Penfolds, Bin 169 Cabernet Sauvignon

3. マーガレット・リヴァー

クナワラと並ぶオーストラリアにおける伝統派CS産地の一角。ボルドーと同じ海洋性気候であることから、CS単体ではなく、メルロー等とブレンドされたワインが多い。長期熟成能力も非常に高く、パワーに寄らない端正さが魅力的。典型的なボルドーと同様に、ピラジンの影響によるベジタルな風味も特徴として頻出する。

<至高のワイン>

Moss Wood, Special Reserve Cabernet Sauvignon

Vasse Felix, Tom Cullity Cabernet Sauvignon

Cloudburst, Cabernet Sauvignon

Cullen, Vanya “Flower Day” Cabernet Sauvignon

Cullen, Vanya “Full Moon” Cabernet Sauvignon

4. マクラーレン・ヴェイル

バロッサ・ヴァレーのCSと同様に、基本的には濃醇なタイプが多いが、マクラーレン・ヴェイルでは、より滑らかな質感とチョコレート的な風味に特徴がある。冷涼なヴィンテージほどCSが真価を発揮する傾向があり、優れたものは熟成能力も非常に高い。

<至高のワイン>

Hickinbotham, The Peake Cabernet Sauvignon

Pertaringa, Tipsy Hill Cabernet Sauvignon

ニュージーランド

ニュージーランドにおいては、より温暖でマイルドな気候の北島で、CSが栽培されている。モダンな印象が強い同国のソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールに比べると、かっちりとした伝統派の造りが多い。エレガントで流麗なニュージーランドのCSは、まだまだ世界的には過小評価されていると言っても良い。
 

 

1. ワイへキ・アイランド

暖かく乾燥した海洋性気候の特徴を活かした、ボルドー的なCSは、際立って高い品質を誇る。単一品種としてよりも、ボルドーと同様にブレンドを主体としたスタイルが一般的で、長期熟成能力も高い。
 

<至高のワイン>

Stonyridge, Larose

2. ホークス・ベイ

海洋性気候の影響を受けるエリアだが、同じボルドー系品種でも、メルローのほうが適応していると考えられており、ブレンドが主流のこの地赤ワインも、メルローが主体で、CSは脇役となることが多い。サブ・リージョンであるギムブレット・グラヴェルズは、ボルドー系品種に関してはニュージーランドでも最上のテロワールとの期待が寄せられている注目のエリア。

<至高のワイン>

Villa Maria, NGAKIRIKIRI Cabernet Sauvignon

チリ

南北に非常に長い特有の国土は、多彩なテロワールを生み出しており、CSの適地も非常に研究が進んでいる。カルメネールとブレンドされることも多く、独特の赤パプリカのアロマがある。総じて非常に高い品質と、実直な酒質は世界的にも評価が高く、一部のワインはかなりの高価格をマークしている。ニューワールド各国の優れたCSと比べても、コストパフォーマンスは良好。比較的大規模なワイナリーが、トップレベルの実力を維持しているのも、チリの特徴の一つ。

1. コルチャグア・ヴァレー

充実した果実味と、逞しい骨格、調和のとれた酸が特徴的な、チリにおけるCS最上の産地の一つ。技術力が極めて高い生産者が拠を構えているのも相まり、総じて完成度が高い。

<至高のワイン>

Montes, Taita

Clos Apalta, Clos Apalta

2. マイポ・ヴァレー

チリ最古の産地であるマイポ・ヴァレーは、古くからCSが非常に高い評価を受けてきた。迫力のある力強さが光るワインだが、アンデス山脈から吹き下ろす冷風の影響を受け、酸もしっかりと蓄えられるため、極めてバランスが良く、エレガントな側面ももちあわせている。

<至高のワイン>

Viñedo Chadwick, Viñedo Chadwick

Cono Sur, Silencio

Concha y Toro, Don Melchor

アルゼンチン

黒葡萄ではマルベックが国際的な高評価を得ているアルゼンチンであるが、CSは全体的に非常に品質が高い上に、古樹も少なからず残っており、コストパフォーマンス面にも優れている。世界的に見ても、CSの穴場的産地であり、今後評価が高まっていくのは間違いない。特に優れたCSが造られているのは、メンドーサ(より標高の高いルハン・デ・クヨ、バジェ・デ・ウコは要注目)と、北側のカファジャテ・ヴァレー。メルローやマルベックとブレンドされることも多い。

<至高のワイン>

Catena Zapata, Estiba Reservada

南アフリカ

近年、ニューワールド産地の中でも際立ったスピードで成長を続けている南アフリカ。その原動力となっているのは、シュナン・ブランやシラーではあるが、長年に渡ってCSが適品種として君臨してきたステレンボッシュでも、世代交代が進むにつれ、再評価の動きが強まっている。古樹がしっかりと残っているのもアドヴァンテージとなり、よりオールドワールド的な雰囲気をもった、素晴らしいCSが数多く生産されている。

<至高のワイン>

Leeu Passant, Stellenbosch Cabernet Sauvignon

De Toren, Expression Unique Book XVII

Tokara, Telos

中国

品質重視の高級ワインが続々と誕生している近年の中国。ワインブームの最初期が、ボルドー中心に熱狂した影響が強く、中国ワインもボルドー系品種を中心に発展してきた。特にCSでは既にワールドクラスのワインが登場しており、広大な国土、豊富な資金力という強力なバックアップもあるため、中国が今後ニューワールドの筆頭格へと成長していく可能性は決して低く無い。中国を代表するワインとなったAo Yunの登場により、ヒマラヤ山脈周辺エリアは、特に注目されている。

<至高のワイン>

Ao Yun, Ao Yun