2021年3月3日6 分

葡萄を知る <8> カベルネ・ソーヴィニヨン:New World前編

New Worldでも、最も人気の高い国際品種の一つとして、様々な国や地域で栽培されているカベルネ・ソーヴィニヨン(以下、CS)。晩熟な品種であるCSは、Old WorldよりもむしろNew Worldの国々の方が、明確な違いが生じて、非常に興味深い。また、国によっては、驚くほどのコストパフォーマンスを誇るCSもある。これらのCSが、葡萄そのものの名声に関わらずハイコスパワインとなるのは、それらの国に、他の象徴的な品種が存在している場合に、相対的に価格が上がりきらないことが主な要因となっている。New World前編では北アメリカに限定して紹介していく。

各国のスタイル

アメリカ合衆国

1. カリフォルニア

CSを中心としたボルドー系品種のブレンド、という伝統的なスタイルで成功している産地は世界に多々あるものの(カリフォルニアも含めて)、単一品種としてのCSで名実共に世界の頂点に君臨しているのは、間違いなくカリフォルニアである。ボルドー左岸の5大シャトーを凌駕する価格で取引されるCSも相当数存在するため、実質的に世界最高価格をマークするCSの産地は、カリフォルニアとなっている。

ナパ・ヴァレー

カリフォルニアにおけるCSの中心地。最重要産地と呼ぶべきかどうかは、意見が別れるところであるが、少なくとも価格面においては、カリフォルニアの他エリアを圧倒的に引き離している。ナパ・ヴァレー内でも、平地の多いヴァレーフロアと、高地の斜面に畑が開かれているマウンテンサイドでは、酒質が大きく異なる。また、土壌組成も多岐に渡るため、実は典型例を挙げにくい産地とも言える。総体的には、ヴァレーフロアは霧による冷却効果と、肥沃な土壌の影響で、しなやかな果実味、程よい色調と酸、ややドライなタンニンが特徴と言えるが、最先端の栽培と醸造が最も早く反映される地でもあるため、人為的な変数もまた非常に多い。近年はヴァレーフロアの中でも、山の麓に近い丘陵地帯(ヒルサイド)の人気が高い。一方マウンテンサイドは、霧のラインよりも標高が高い位置に畑があることも多く、冷却効果に関してはヴァレーフロアほどの期待はできないが、強い日差し、痩せた土壌と乾燥した気候は、強い凝縮と色調、迫力のある酸、熟したタンニンという特性をもたらす。ヴァレーフロア、マウンテンサイド共に、名ワインは数知れず。代表例となるワインは、序列をつけるのが非常に難しい産地の状況を鑑みて、なるべく多くのワイナリーをリストアップした。

<至高のワイン:ヴァレーフロア、ヒルサイド>

Corison, Cabernet Sauvignon “Kronos Vineyard”

Heitz Wine Cellars, Cabernet Sauvignon “Martha’s Vineyard”

Chateau Montelena, Estate Napa Valley Cabernet Sauvignon

Colgin Cellars,“Tychson Hill”

Bond, “Melbury”, “Vecina”, “St.Eden”

Schrader Cellars, Cabernet Sauvignon “Beckstoffer To-Kalon Vineyard Schrader”

Screaming Eagle, Screaming Eagle

Shafer, Cabernet Sauvignon “Hillside Select”

Dalla Valle Vineyards, “Maya”,“MDV”

Continuum Estate, Proprietary Red

Peter Michael Winery, Au Paradis

Paul Hobbs, Cabernet Sauvignon “Nathan Coombs Estate”

Harlan Estate, Red Wine

Stag’s Leap Wine Cellars, Cabernet Sauvignon “Cask 23”

<至高のワイン:マウンテンサイド>

Diamond Creek Vineyards, Cabernet Sauvignon “Gravelly Meadow”, “Red Rock Terrace”, “Volcanic Hill”

Dunn Vineyards, Cabernet Sauvignon “Howell Mountain”

Bond, “Pluribus

Mayacamas Vineyards, Cabernet Sauvignon “Mt. Veeder”

Lokoya, Cabernet Sauvignon “Mt. Veeder”, “Howell Mountain”, “Diamond Mountain District”, “Spring Mountain District”

ソノマ・カウンティ

広大なソノマ・カウンティの中でもCS(もしくはボルドー系品種)が成功しているのは、内陸側のエリア。カリフォルニアの気候は、緯度よりも「寒流が流れる海岸からの距離」に強く影響を受けるため、内陸側の方が温暖で乾燥したエリアとなる。CSだけのことを言うのであれば、ソノマ・カウンティにおける最も重要な産地は3箇所にまで絞ることができるだろう。アレキサンダー・ヴァレーナイツ・ヴァレー、そしてソノマ・マウンテンだ。また、ソノマ・ヴァレーや、チョーク・ヒルにも優れたCSが散見される。ナパ・ヴァレーと比べると、やや低いアルコール濃度とシャープな酸が特徴。別の言い方をするなら、ソノマ・カウンティのCSの方がよりエレガント、とも表現できる。人気、知名度、価格において、CSにおいては常にナパ・ヴァレーの後塵を拝してきたが、近年は低アルコール濃度でしっかりと熟したワインを求める流れも相まり、再注目されている。いくつかのワインは、疑いようもなくカリフォルニア最高品質に到達しており、価格の高騰も始まっている。

<至高のワイン>

Verité, La Joie

Peter Michael Winery, Les Pavots

Arnot-Roberts, Cabernet Sauvignon “Montecillo Vineyard”, “Clajeux Vineyard”

Laurel Glen, Estate Cabernet Sauvignon “Sonoma Mountain Estate”

Anakota, Cabernet Sauvignon “Helena Dakota Vineyard”

Morlet Family Vineyards, Cabernet Sauvignon “Mon Chevalier”

Skipstone, Cabernet Sauvignon “Sofia`s Vineyard”

Stonestreet Estate Vineyards, Christopher’s Cabernet Sauvignon

サンタ・クルーズ・マウンテンズ

近年カリフォルニアでも最も注目を集めていると言っても過言ではない産地が、サンタ・クルーズ・マウンテンズ。高い標高、程よく冷涼で乾燥した気候、痩せた土壌の斜面と言った条件は、ミレニアル世代が好む味わいともマッチするテロワールである。何よりこの地には、カリフォルニアのCS(ボルドー系品種)を代表するワインとして名高い、Ridge VineyardsのMonte Belloがある。しっかりと熟しながらも、糖度が上がり過ぎず、低いアルコール濃度と複雑性を両立することができる。

<至高のワイン>

Ridge Vineyards, Monte Bello

Mount Eden Vineyards, Old Vine Reserve Cabernet Sauvignon

Arnot-Roberts, Cabernet Sauvignon “Fellom Ranch”

Ceritas, Cabernet Sauvignon “Peter Martin Ray Vineyard”

2. ワシントン

ナパ・ヴァレーというあまりにも強力なライバルが国内にいることもあり、長きに渡って過小評価されているワシントン州のCS。恵まれた日照と昼夜で気温が急激に変わることから、しっかりと熟度を上げつつ、適度な酸も維持することができる。ナパ・ヴァレー産のCSに比べると明らかにヨーロッパ的な雰囲気が漂い、独特なパワーとエレガンスの共存は、ワシントン州の確固たる個性として、見事な輝きを放っている。カリフォルニアに迫る高価格で販売されているワインもあるが、その真価はコストパフォーマンスの高さにあると言える。スタイル的要素を無視して単純に品質面と完成度で判断した場合、ワシントン州のCSは同価格帯のカリフォルニア産CSを、大きく引き離すことも珍しくない。特にCSが優れたAVAは、コロンビア・ヴァレーレッド・マウンテンホース・ヘヴン・ヒルズワラ・ワラ・ヴァレーヤキマ・ヴァレー

<至高のワイン>

Quilceda Creek, Cabernet Sauvignon

Leonetti Cellar, “Reserve”, “Figgins”

DeLille Cellars, Grand Ciel Cabernet Sauvignon

Cayuse, Camaspelo

Betz Family Winery, Heart of the Hill Cabernet Sauvignon

Grand Reve Vintners, Estate Cabernet Sauvignon “Force Majeure Vineyards”

Klipson Vineyard, Cabernet Sauvignon

Gramercy Cellars, Reserve Cabernet Sauvignon

Avennia, Cabernet Sauvignon “Red Willow Vineyard”

カナダ

緯度が高く、冬の寒さが厳しいカナダにおいては、冬季耐性の高いカベルネ・フランの方が成功を収めていると言えるが、西側のブリティッシュ・コロンビア州オカナガン・ヴァレーのエリアでは、驚くほど高品質なCSも散見される。一方、東側のオンタリオ州ナイアガラ・ペニンシュラ周辺では、補助的な役割を果たしていることも多い。単一品種、もしくはブレンドの主役となる場合は、湖から近い局所的に温暖なエリア以外は難しくなるため、エリアがかなり限られてくる。

<至高のワイン>

LaStella Winery, La Sophia Cabernet Sauvignon(ブリティッシュ・コロンビア)

カベルネ・ソーヴィニヨンの最終編となるNew World後編では、南米、オセアニア、南アフリカ、そして中国を追っていきます。