2021年1月27日7 分

葡萄を知る <6> カベルネ・ソーヴィニヨン:Old World前編

最終更新: 2021年1月28日

本編から、カベルネ・ソーヴィニヨン以下、CSと省略)編がスタート。

言わずと知れた、世界で最も有名な葡萄品種の一つだが、同時に、あまり正しく理解されていない品種でもある。

Old World前編では、フランスに限定して、紹介していく。

① 特徴

強い樹勢と、芽吹きの遅さによる遅霜への対応力砂利という非常に一般的な土壌で真価を発揮する特性から、かなりの冷涼地で無い限りは、育てやすい葡萄とされている。力強いタンニン果実味の濃度適度な酸は、近代的醸造法とも極めて相性が良いため、世界中に爆発的に拡散した、まさに「国際品種の王」とでも呼ぶべき存在。ピノ・ノワールシャルドネに比べると、醸造面での調整がより細かくできることもあり、テロワールと紐付けて語られることは少ないが、それはあくまでも「濃醇」もしくは「近代的」なスタイルに限っての話であり、フランス・ボルドーを代表とする「限界的生育条件」に近いエリアでは、緊張感とエレガンスに満ちた側面をいかんなく発揮するため、テロワールの特性をしっかりと反映する品種であることは間違いない

国際品種として、世界中で単一品種、もしくはブレンドの主役級として造られているが、地場品種にCSをブレンドして、「インターナショナルスタイル」に仕上げるという手法も、現代においては、やや前時代的になったとは言え、まだまだ一般的

CSのあまり語られない特徴として、ブレンドの中に例え少量でも含まれていた場合、味わいの構成において支配的になるという点が挙げられる。10%でもブレンドされれば、CSの味がする、というのは利点でも欠点でもあるため、求めるワインのスタイルによっては、慎重な判断が必要だ。

② 起源、歴史

フランス南西地方のジロンド河流域が原産とされているが、その存在が明確に確認できる最古の文献は、18世紀中頃から後半にかけてボルドー地方で書かれたもの(Livre de raison d’Antoine Feuilhade)である。また、この文献ではPetit Cabernetと表記されており、Cabernet Sauvignonという現在の表記は、19世紀中頃まで登場しないCSが誕生した時期は不明であり、19世紀後半まではカベルネ・フランと混同されていたという説や、18世紀以前はまだ誕生していなかったという説もある。

遺伝子的起源が解明されたのは、1996年。U.C.Davisメレディス博士が、カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配品種であることを突き止めた。国際品種の遺伝子的起源が解明されたのは、CSが初めてのケースであり、これ以降様々な品種の遺伝子解明が進んでいく大きなきっかけとなった。また、同じボルドー地方のスター品種であるメルローとは、片親が同じカベルネ・フランであるため、異母兄弟とも言える関係にある。

各国のスタイル

フランス

1. ボルドー左岸

CSという葡萄を象徴する産地であり、高名な格付けシャトー群を有する、世界最高の銘醸地。その限界的生育環境は、アペラシオンごとに精妙なテロワールの表現をもたらす。インターナショナルなCSの印象から、重いワインと勘違いされることが多いが、ボルドーの真髄はパワーではなく、エレガンスにこそある点は、改めて理解しておくべきだ。特に第一級格付けのシャトーは、(その生産量の多さにも関わらず)一時期非常に高騰した。しかし、近年はやや値崩れしてきているため、少しは身近な存在になってきたかも知れない。世界的に見ても、超高級品に至ってはカリフォルニアというライバルに対して、正当な価格競争力を保っていると言える。格付けシャトーにばかり注目が集まる点が残念であるが、その他のマイナー・シャトーの中には、驚異的なコスト・パフォーマンスを誇るものが多々存在し、超高級ワイン産地であると同時に、世界屈指のハイコストパフォーマンス産地でもあるという、非常に特異な産地となっている。

なお、公式の格付け第一級シャトー5つであるが、シャトー・ラ・ミッション・オー=ブリオンを加えて6大シャトーとした方が、その実態には近いと言える。また、品質の高さと安定性に加え、テロワールの反映度を鑑みて、個人的な経験から述べるとすればラ・ミッションを加えた上で、ムートン・ロートシルトに代えてモンローズを加えた6大シャトーとした方が、納得がいく

ポイヤック

濃厚で奥深い果実味とタンニン、豊かなコクと、絶妙な酸のバランスから、最もトータルバランスに優れているのが、ポイヤック。独特な香木や杉の香りが芳しい。第一級シャトーが最多の3シャトーもこの地に拠を構え、第二級以下にも素晴らしいシャトーが多数あることから、名実共にボルドー左岸最上のエリアとされることも多い1973年に第一級に昇格したシャトー・ムートン・ロートシルトは、やや安定性にかける傾向があり、第一級の地位に疑いをもつ声も根強いが、当たりの年は素晴らしいワインとなる。

<至高の三本>

Ch. Lafite Rothchild

Ch. Latour

Ch. Mouton Rothchild

マルゴー

4つの村を統合しているため、かなり広いアペラシオンとなっているのがマルゴー。高名な格付けシャトーに限って言えば、ボルドー左岸の中でも最もエレガントなワインとなるが、その広さ故に、力強いワインも多々存在している。マルゴーでは石灰質の土壌も多く見られ、特有のしなやかに貢献している。明るい赤系ベリーの果実味と、鮮やかなスミレのアロマが特徴的。シャトー・パルメは時に第一級のマルゴーに肉薄する品質となる。

<至高の二本>

Ch. Margaux

Ch. Palmer

サン=テステフ

より粘土質の土壌が多いことから、堅牢な構造、濃い色調、頑強なタンニンといった特性が生まれるのがサン=テステフ。豊かな質感と、スパイシーな味わいが特徴的。第一級シャトーこそないものの、最優良クラスのシャトーが多数存在している銘醸地である。品質の高さ、安定性、テロワールのポテンシャルと、それを忠実に発揮するシャトーの実力を考えれば、シャトー・モンローズ第一級に序列されても当然と言える実力

<至高の二本>

Ch. Montrose

Ch. Cos d’Estournel

サン=ジュリアン

南北に広がるアペラシオンであることから、シャトーの位置によって味わいの特性が異なってくる。北側はより力強く、南側はよりエレガントなワインとなる傾向が強い。第一級シャトーは無いが、第二級以下にも数多くの素晴らしいシャトーがある。サントリーが所有するシャトー・ラグランジュは近年劇的に品質が向上している。格付けシャトーに一つも外れがないという点を鑑みれば、平均点ではボルドー左岸最高のアペラシオンとも言えるだろう。

<至高の二本>

Ch. Léoville Las-Cases

Ch. Ducru-Beaucaillou

ぺサック=レオニャン

広大なグラーヴの一部が、ぺサック=レオニャンとして独立しているのは、この地のテロワールが、圧倒的に優れているからに他ならない。強い砂礫質の土壌は、熟した赤系ベリーや特有の薫香を放ち、絶妙に削ぎ落とされたしなやかな酒質が魅力的。メドック地区の高名な4アペラシオンに比べると、柔軟な考え方のシャトーも多くボルドーのスタイル革命の先陣を切ることも多い。また、ボルドー最上の白ワインはぺサック=レオニャンで造られている。ぺサック=レオニャン独自の公式格付けもあるが、メドック地区の格付けに例外的にシャトー・オー=ブリオン第一級として序列されている。しかし、純粋に品質から判断するならば、シャトー・ラ・ミッション・オー=ブリオンも第一級と呼ぶにふさわしいシャトーだ。

<至高の二本>

Ch. Haut-Brion

Ch. La Mission Haut-Brion

その他

オー=メドックリストラック=メドックムーリスグラーヴには、コストパフォーマンスに優れた優良シャトーが多数存在しているため、日常の中にボルドーを求める場合は、これらのエリアから率先して探し出すと良い。

2. ラングドック

ラングドックでもCSは多く栽培されており、カバルデスマレペールといったアペラシオンでは公式の認可品種となっている。大多数のこの地のCSは、デイリー消費用のワインとして大量生産されたものであるが、近年は高品質なワインも増加傾向にある。大量生産ワイン用の畑は温暖なエリアに集中しており、アルコール濃度の高い、パワフルなワインとなる。局地的により冷涼なエリアでは、驚くほどの品質を備えたCSも散見される。コストパフォーマンスは全体的に極めて良好。

<至高の一本>

Mas de Daumas Gassac

3. プロヴァンス〜南ローヌ

ローヌからプロヴァンスに跨るエリアでも、CSが一際異彩を放っている。このエリアでは単一よりも、シラーとブレンドすることが一般的。シラーをブレンドしていることから、独特の濃厚さを伴った果実味となるが、乾燥地帯ならではのドライなニュアンスも特徴的。優秀な造り手も多く、品質、価格の正当性共に、極めて良好だ。

<至高のー本>

Domaine de Trévallon

4. その他

ロワール地方では、カベルネ・フランの影に隠れがちであるが、CSも栽培量が多い。全体的には、ライトな質感、強い渋味と酸、ややベジタルな味わいの、玄人好みなワインとなる。南西地方のベルジュラックでは、ボルドー左岸と同様のブレンドから、極めてコストパフォーマンスに優れたワインが造られている。

次回はフランス以外のオールド・ワールドにおけるCSをご紹介していきます。