2020年12月23日6 分

葡萄を知る <4> ピノ・ノワール:New World前編

最終更新: 2021年1月27日

ピノ・ノワール特集の後半は、ニューワールドの産地にフォーカスを当てて、前編後編としてお届け致します。

シャルドネに比べても、ニューワールドにおけるピノ・ノワールはよりダイナミックな動きを見せている。非常に品質の高いワインも多いので、しっかりと各国各産地の特徴を掴んでいくと、ピノ・ノワールの楽しみが格段に広がる。

ニューワールド前編は、アメリカ合衆国、カナダ、チリ、アルゼンチン。

アメリカ合衆国

1. カリフォルニア:ワイン生産エリアのほぼ全域で、ピノ・ノワールが栽培されており、生産者の数、生産者のスタイルの差異も合わせ、ニューワールドのピノ・ノワール産地の中でも最も多様性に溢れているのがカリフォルニア。「カリフォルニアのピノ・ノワール」と一括りに語ることは大きな間違いである。それほどまでに、この地の多様性は圧巻そのものであり、それぞれのスタイルで極めて優れたワインが多数存在している。

North Coast

まずは北側のNorth Coastから。主要エリアは北側のMendocino Countyと、Sonoma CountyからNapa Countyに少し跨るエリアの2つに分かれている。Mendocino Countyの最も重要なAVAはAnderson Valley。カリフォルニアの中でも際立って抑制の効いたエレガントなスタイルが特徴で、この州の最も優れたクラスのピノ・ノワールが多く産出されている。SonomaからNapaにかけてのエリアには、ピノ・ノワールの銘醸地が多数存在している。Napa Countyにあるのは、Los Carnerosの一部だけなので、実質的にはほぼ全てのピノ・ノワール好適エリアはSonoma側にある。最も良く知られてるのはRussian River Valleyで、やや陰影のある苺のような果実味と、ブラックペッパーのニュアンスが特徴と言える。他にも広大なSonoma Coastの各地(散在しているため、一貫した特徴が挙げにくい)、Fort Ross -Seaview(海に近く涼しいため、エレガントなスタイルになる)等は、ピノ・ノワールの銘醸エリアとして知られている。基本的にピノ・ノワールは海に近い西側か、内陸だと高標高エリアで栽培されている。

<至高の一本>

Littorai, Pinot Noir "Pivot Vyd"

Central Coast

中央部のCentral Coastは南北に長いエリアだが、ここにもピノ・ノワール好適地が複数ある。最も北側に位置しているのがSanta Cruz Mountainsで、高標高ならではの特性を備えたエレガントなピノ・ノワールに大きな注目が集まっている。少し南に下ると、Montereyのエリアがある。特にSanta Lucia Highlandsはモントレー湾からの冷風の影響を強く受けた、非常に冷涼なエリアとして知られ、カリフォルニア屈指の銘醸地として確固たる地位を築いている。

<至高の一本>

Rhys, Pinot Noir "Alpine Vineyard"

Santa Barbara County

さらに南へと大きく下ると、そこにはSanta Barbara Countyがある。カリフォルニアでも最も芳醇なスタイルのピノ・ノワールが産出されるSta. Rita Hillsを筆頭に、Santa Maria ValleySanta Ynez Valleyといった銘醸エリアが名を連ねる重要な産地だ。

<至高の一本>

Domaine de la Côte, Pinot Noir "La Côte"

2. オレゴン:ピノ・ノワール好適地が散在しているカリフォルニアとは逆に、オレゴンでは、Willamette Valley周辺に一局集中している。Joryと呼ばれる火山性土壌がウィラメット・ヴァレーのほぼ全域にあり、オレゴンのスタイルを決定付ける重要な要素となっている。また、生産者間でも醸造方法に相当程度の統一性が見受けられるため、より分かりやすい形で「産地の総体的個性」が形成されてきた。しっかりとした果実味と程よい酸、仄かな土っぽいニュアンスが特徴的で、しばしばニューワールドとオールドワールドの中間的味わいとも評される。品質面においては、「底辺レベルの高さ」が最大の特徴と言えるかも知れない。非常に高品質なワインも多く存在しているが、際立った凡酒の少なさは消費者にとって重要な信頼の元となるだろう。

<至高の一本>

Evening Land Vineyards, Pinot Noir "Anden"

3. ニューヨークFinger Lakesでは、近年ピノ・ノワールの品質が大きく向上している。栽培可能限界地ならではの、非常に抑えの効いた端正なスタイルと、低いアルコール濃度は、現代の嗜好にもマッチしているため、今後人気が高まってくる可能性は非常に高い。

<至高の一本>

Element Winery, Pinot Noir

カナダ

1. オンタリオ:ナイアガラの滝周辺エリアで、見事なピノ・ノワールが造られている。一般的にはヴィダル種のアイスヴァインが有名だが、品質的にはスティルワインの方が圧倒的に素晴らしい。基本的には栽培可能限界地であるが、その特性がより強くでるPrince Edward Countyと、もう少し温暖なNiagara Peninsulaとでは個性が微妙に異なる。まだまだ世界的には無名とも言える産地だが、その品質、ポテンシャルともに高く、今後ニューワールドにおけるピノ・ノワールの重要産地へと発展していく可能性は非常に高い。

<至高の一本>

Norman Hardie, Pinot Noir

2. ブリティッシュ・コロンビア:アメリカのシアトル(ワシントン州)を北上し、国境を越えるとすぐに、British Colombiaのエリアに入る。その中でも特にOkanagan Valleyは、偉大な可能性を秘めた産地として、大きな注目を集めている。ピノ・ノワールの品質は圧巻で、全てのニューワールド産地の中でも、間違いなくトップクラスのワインが産出されている。カリフォルニア等に比べると、相対的に価格もやや控えめな点も嬉しいが、小規模な生産者が多くタイミングによっては入手が難しい。この地のピノ・ノワールは、しっかりと熟しつつも、アルコール濃度が上がりすぎず、酸もしっかりと保持されるため、極めてバランス感覚に優れている。

<至高の一本>

Foxtrot Vineyards, Pinot Noir "Foxtrot Vyd."

チリ

1. 北部:非常に乾燥した準砂漠地帯が多いチリ北部だが、近年Limari Valleyが大きな注目を浴びている。局地的に石灰岩の多い地域ということもあり、ピノ・ノワールが驚異的なポテンシャルを発揮し始めている。緊張感のあるスタイリッシュなワインは、すでにニューワールドのトップクラスと言っても過言ではない。

<至高の一本>

De Martino, Pinot Noir "Legado"

2. 中央部アコンカグア周辺に、ピノ・ノワール好適地が集中しており、世界でも最もコストパフォーマンスが高いとも言われるピノ・ノワールを数多く生み出している。品質面において最も重要なエリアはAconcaga CostaCasablanca ValleySan Antonio ValleyLeyda Valleyの4つ。冷涼感が感じられる程よい果実味と、しっかりとした酸、流麗な質感が魅力。

<至高の一本>

Errazuriz, Pinot Noir "Aconcaga Costa"

3. 南部:非常に冷涼な地域となるが、Bio Bio ValleyMalleco Valleyでは、その冷涼気候を活かした見事なピノ・ノワールが産出されている。この地ならではの、非常に軽やかでチャーミングなスタイルは、食卓でも活躍の幅が広い。

<至高の一本>

Baettig, Pinot Noir Selection de Parcelas "Los Primos"

アルゼンチン

アルゼンチンワインの主要産地であるMendozaでも、ピノ・ノワールは栽培されてきた。しかし、その中でも近年特筆して品質が向上しているのは、より標高の高いUco Valley。豊かな日照量から、しっかりと熟した果実味と程よい酸のバランスに優れたワインが生まれている。世界的には無名だが、アルゼンチン・ピノ・ノワールの本命といって差し支えないのが、南部のPatagonia。冷涼気候を活かして、古くからピノ・ノワールが栽培されており、近年は国外からの参入も相次いでいる。非常に優れた品質が比較的安価でリリースされているため、穴場とも言える注目エリアだ。

<至高の一本>

Bodega Chacra, Pinot Noir "Treinta y Dos 32"

続く後編では、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、そして日本のピノ・ノワールにフォーカスしていきます。