2023年2月8日4 分

温暖化対策 <葡萄畑>

気候変動が世界各地に襲いかかって久しい。

ワイン産地においても例外はほぼ無く、何かしらの変化が生じている。

特にヨーロッパ伝統産地では、ティピシティ(その場所で造られるワインに生じる古典的かつ典型的特徴)が失われるというのは、最も恐れていることだ。

中には特定の産地と特定の葡萄にとって、温暖化が好意的に働いていると考えられるケースもあるが、温暖化の恩恵などという表現には、人のエゴが入り過ぎている

しかし、難局を打開する工夫ができるのもまた、人間の凄さである。

このまま無対策でいれば、ブルゴーニュの好適品種がピノ・ノワールではなく、シラーになるかも知れない。そんな未来が絶対に訪れないように、造り手たちは日々悩みながら葡萄樹と対話を繰り返し、様々な対策を行っている。

今回は、葡萄畑でどのようなことが行われているか、について解説していこう。

現在筆者は、イタリア・トスカーナ州のモンタルチーノを訪れている。

言わずと知れた、イタリア最高峰の赤ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を産出する、世界的銘醸地だ。

ここモンタルチーノでも、温暖化の影響は確実に出ている。

まずは、気温の上昇に関する対策についてお話ししていこう。

この問題に対しては、様々な対策が講じられているが、そのどれもが、「葡萄の糖度が上がるスピードをできる限り遅らせる」という点に集約している。

そして、それらの対策の内容は、かつての「ビッグワイン」全盛期には、高品質の指標とされていたようなこととは、真逆の内容が多々含まれている。

例えば、密植率の低下、低収量型のコルドンから多収量型のギュイヨへの移行、施肥の廃止、グリーンハーヴェストの制限などがそれらに該当する。

かつては、いかに収量を落として葡萄を凝縮させるかに注力するため、上記の作業が行われていたが、今はあえて収量を上げて濃度を落とすために、かつてとは完全に逆方向へと向かっているのだ。

もちろん、アルコール濃度15.5%でティピシティが大いに霞んだワインを楽しみたいのならそれで構わないのだが、全体論で言えば、それは時代が求めている味わいではない。

だからこそ我々も、低収量=高品質、という呪縛から、抜け出さねばならないのだ。

また、気候変動は別のリスクも葡萄畑に生じさせている。

旱魃と遅霜はその中でも最も深刻なもので、将来的に葡萄樹の健康状態が著しく悪化する可能性や、ワイナリーが経済的に持続不可能になるほどの超低収量に繋がる可能性が非常に高い。

旱魃対策として良く見られるのが、キャノピーマネージメントによる風通しの改善だ。言葉にするとシンプルだが、大がかりにやろうとすると大変な作業でもある。

さらに、旱魃に強いとされる株仕立てへの移行も見受けられる。株仕立ては作業効率が極端に悪化するため、小規模でないと導入は難しいが、旱魃対策という意味では確かな効力を発揮するようだ。

遅霜の対策も様々。芽かきの時期を大幅に遅らせる、ということもあるが、遅霜は4月以降に突如襲ってくるため、芽かきのタイミングを調整するだけではどうしても難しさがある。

造り手たちは、より高い品質とそれに伴うリスクをギリギリまで天秤にかけながら、芽かきのタイミングをはかっているのだ。

中には、葡萄畑の中でキャンドルを灯したり、ストーブを炊く、という対策も見受けられるが、コストを含めて、簡単なことではない。

他にも、病虫害の変化というかなりトリッキーな問題もある。

さて、それらの様々な対策の中で、不思議なことに高い効果を発揮すると主張する造り手が多くいるのが、ビオディナミ農法だ。

いや、正確にいうと、ビオディナミ農法を中核とした、生態系の多様化の導入である。

ビオディナミ農法によって、葡萄樹自体の抵抗力(内的抵抗力)を高め、生態系の多様化によって、自然界が本来備えている調和能力(外的抵抗力)を取り戻すのだ。

もちろん、この方法が成功する根拠を科学的に証明するのは容易ではないが、毎年の葡萄の出来が品質や持続性に多大なる影響を及ぼすワインの世界においては、理由よりも結果の方が重要と言える。

最後に、今回訪問した造り手の言葉を添えておこう。

「この森を見てください。生きているでしょう、力強く。森には温暖化も、科学的なトリートメントも関係ないんです。森の中で生きるあらゆる生命が、互いに支え合い、命を繋いでいることは、この森そのものが証明しています。だから私たちは今こそ、森から、自然から多くの学びを得なければいけません。」