2021年7月25日18 分

オルタナティブ品種に、最高のステージを <ドイツ特集後編>

オルタナティブ品種にヴァリューパフォーマンスが優れたワインが多いことは、周知の事実だと思われるが、だからといってその価値が真っ当に評価されているとは決して限らない。そのようなワインには、もっと導きの手が必要だ。ワイン界に蔓延している有名産地、有名品種、有名銘柄至上主義から、現代人が抜け出すことは容易では無く、多くの人はブランドワインを学べば学ぶほど、その大沼に深く沈んでいく。

ドイツ特集後編では、前編で述べたオルタナティブ品種の中から、特に高い可能性が認められるものを選抜し、筆者のソムリエとしての目線から、その特徴に加えて、具体的なペアリング使用法を含めた、より深い楽しみ方を考察していく。

グランヴァンを正しく扱うのに求められるものは知識と経験と丁寧さだが、このようなオルタナティブ品種に必要なのは、知恵と想像力と応用力である。

最初に述べておくが、本稿の執筆に際して行ったテイスティングは、筆者の数多の経験と照らし合わせても、非常に強く記憶に残る素晴らしいものであった。

Müller-Thurgau

特徴:

色調にはライトグリーンが現れる傾向がある。新樽との相性には特筆すべきものは無いが、ステンレスタンクや古樽を用いて、よりクリーンでフレッシュな方向性か、ニュートラルな表現にまとめた方が、品種特性ともマッチしていると考えて問題ないだろう。香りは、マスカット香に加えて、柑橘系から白桃洋梨程度の甘美さを伴うことが多く、フラワリーな香りやホワイトペッパーのタッチも魅力的。多産型品種故のさらっとしたテクスチャーに、バランスの良い酸が乗ってくる構造は非常に心地良い。総体的に見ると、リースリングの特徴を相当程度引き継ぎつつも、グリューナー=ヴェルトリーナーとの類似点が多く、香り、果実味、酸、余韻が全体的により小ぶりになったような特性をもつ。しっかりと冷やした状態で抜栓し、温度上昇による香りの広がりを楽しみながら、酸が緩くならない程度の温度(13度前後)を維持しながら楽しむのが良い。

ペアリング:

ミュラー・トゥルガウならではと言える控えめな華やかさは、ペアリングにおいては汎用性を高める非常に有用な要素となる。また、リースリングに似た特性は、白身魚、貝類、甲殻類との相性を盤石なものとしている。表示されているアルコール濃度以上に、実際はライトに感じるワインが多いため、上記の食材を用いた料理に合わせる際は、なるべく小ぶりの食材(甲殻類なら甘海老、貝類なら薄くスライスした帆立等)にした方が、ヴォリューム感のバランスが取りやすい。葉物を中心とした緑野菜やハーブ類、桃などの核果、林檎系、柑橘系の風味との相性にも優れており、西洋系のハーブに加えて、東南アジア系のハーブ類とも合わせやすい。レモングラス、カフィアライム、パクチーとの組み合わせは、特筆すべきものがある。

柔らかい状態であれば、鶏肉、豚肉といった白身肉にまでカバー範囲を広げられるが、なるべく薄くスライスするといった工夫が必要になる。

淡い果実感や程よい酸は、塩味の効いたシンプルな食材とも好相性となり、生ハムはその代表例として挙げられる。

全体的に、ミュラー=トゥルガウは、素材のナチュラルな味わいを活かした、シンプルな味付けや構成の料理に向いており、複雑で濃厚な味わいとは性質がマッチしない。

テイスティング・ノート:

Rinkin, Müller-Thurgau 2019, Baden. ¥2,000

非常にライトなイエローに、グリーンのヒントが加わった色調。

白桃、洋梨、白い花の軽やかなタッチ。

11.5%という軽快なボディ感、絶妙な果実味と酸のバランスが心地よく、短い余韻もカジュアルな世界観を表現する上でプラスと言える。

食中酒としての汎用性の高さはピカイチで、魚介類、野菜類、ハーブ類を中心としたシンプルな仕立ての料理に、絶妙な彩を加えてくれる。

ヴァリューパフォーマンスの高さは、まさに圧巻。

Bernhard-Huber, Müller-Thurgau 2017, Baden. ¥4,300

透明感と光沢の強いライトゴールドに、僅かなグリーンのタッチ。

フレッシュなマスカット、梨、りんご、柚子、ホワイトペッパーの香り。

11%とは思えないほど滑らかでとろりとした質感に、しっかりと酸が溶け込んでいる。

甘さを感じさせ過ぎない果実感も絶妙なバランス。

余韻の長さもこの品種としては傑出したレベルにある。

ミュラー=トゥルガウのポテンシャルを最大限まで引き出した傑作。

フレッシュフルーツを加えたグリーンサラダには最高のワインとなるが、アルコール濃度の割に粘性の高いテクスチャーがあるため、豚の冷しゃぶと言った料理もカバー範囲に入ってくる。

Auxerrois

特徴:

アルザスではPinot Blancのラベルの元に、オーセロワが非常に高い比率でブレンドされていることからも分かるように、オーセロワはピノ・ブランに良く似た品種である。ということはつまり、シャルドネにも似ているということだ。しかし、シャルドネほどの新樽適性は無いため、実際にはミディアムボディ程度までのシャルドネに似ていると考えるのが妥当。果実味は柑橘から軽いトロピカルまで、幅広い表現が出てくるため、一般化することが難しい。暑いヴィンテージの方が、オーセロワ特有の個性がより鮮明に出てくることが多く、シナモン生姜の様なスパイシー感が、りんごの蜜を思わせる香味と共に立ち現れてくる。ステンレスタンクでは非常にライトな質感に、新樽を用いれば相応な力強さを得ることができるが、バランスが取れるのはミディアムよりも少し上のレベルまでと言ったところ。この特徴は、重さの上限キャップが明確であることも意味しているため、アルコール濃度と連動したボディ感は予測が立てやすい品種と言える。総じて、テロワール、醸造、ヴィンテージ、の個性が鮮明に出てくる品種と言える。

ペアリング:

簡単に言えば、ミディアムボディまでのシャルドネが対応できる料理は、オーセロワでも問題なく対応できる、ということになるが、実際はオーセロワの方がシャルドネよりも使いやすい局面は多々存在する。オーセロワにはシャルドネにありがちな「固さ」が無いからだ。樽を用いないライトタイプであれば、白身魚全般と相性がよく、特に刺身カルパッチョとの好相性が素晴らしい。

樽を用いたミディアムタイプの場合は、鶏肉豚肉といった白身肉や大型甲殻類との相性が輝く。魚介類でも、焼く、蒸す、燻す、揚げるといった調理法に対して非常に有用で、例えば車海老の天ぷらスモークサーモンは、ミディアムタイプのオーセロワと最高の相性を見せる。また、特に生姜の風味と抜群の相性を見せるのは、オーセロワ特有の魅力と言える。生姜のニュアンスを活かす場合、豚の生姜焼きに真正面から合わせるといったシンプルな使い方に加え、フードペアリング的な発想から、オーセロワそのものに潜む生姜的ニュアンスを使って、オーセロワに生姜の代役をさせるという手法もある。さつま揚げに暑いヴィンテージのオーセロワを合わせると、この効果が分かりやすく確認できるだろう。

テイスティング・ノート:

Bernhard-Huber, Auxerrois 2017, Baden. ¥4,500

ライトイエローに微かなグリーンのタッチが乗った色調。

フラッシュな白桃や梨のアロマ。

絶妙に抑えの効いたしなやかなボディに、鮮明な酸が爽やかな印象を与える。

立体的なOdinstalとは対照的な極めて滑らかなスタイルだが、非常に高い次元で洗練されている。11%とは思えないほどの濃密さも併せもつため、中程度のサイズ、質量感の魚介類に幅広く対応できる味わい。サラダ等とも十分に行けるが、蒸し野菜にした方が、テクスチャーがより近くなる。

Odinstal, Auxerrois “350 N.N.” 2018, Pfarz. ¥4,700

光沢の強いイエロー。

ベイクドアップル、シナモン、ジンジャーの香り。

力強く、濃厚でスパイシーな風味だが、樽からではない、果実の純粋なパワーを感じる。

グリップの効いた、見事な彫琢のある味わいは、一般的なオーセロワとは異質なものであり、酷暑となった2018年だからこそ可能となった、異次元の味わいとも言える。

温暖な年のオーセロワに出てくる生姜風味が顕著であるため、ペアリングでもこの特徴をしっかりと活かすべき。

Weisser Burgunder

特徴:

平たくピノ・ブランという意味であれば、シャルドネやオーセロワとの類似点が非常に多い品種ではあるが、ドイツのヴァイサーブルグンダーは、この品種における世界最高品質のワインであり、最もシリアスな性質をもっているため、例外的なケースと考えた方が良い。ヴァイサーブルグンダーは新樽も積極的に用いられ、リッチで迫力のある味わいとなることが多く、強いミネラルの骨子にも特徴がある。このタイプのものは、高価なシャルドネのオルタナティブとしては、世界最高のワイン言っても過言ではない。近年は新樽を用いないクリーンな味わいのものも増えてきたが、そのようなワインであっても、他国のピノ・ブランとは一線を画すほどの、豊かな味わいとなる。柑橘からトロピカルまで、幅広い果実味が現れる点はオーセロワと同様であるが、ヴァイサーブルグンダーは、より蜜度の高い風味となることが多い。熟度が高まると、オーセロワに見られるスパイス風味ではなく、生アーモンドを思わせるナッツ風味が顕著に生じるため、違いがより鮮明になってくる。

ペアリング:

新樽を用いないクリーンタイプであれば、オーセロワと同様に、白身魚を中心とした幅広い魚介類との相性が期待できるが、リッチなタイプの場合は、大きく発想を変える必要がある。

新樽比率の高い白ワインの定番である、バタークリームを用いた料理との相性は当然の様に優れているが、ヴァイサーブルグンダーの力強さは、樽よりもその強靭なミネラルと酸に由来している側面が強いため、全く異なったアプローチをすることができる。ミネラル感を活かすのであれば、根野菜との相性は見過ごせない。牛蒡ビーツとの相性は特に素晴らしく、力強い響き合いが体感できるが、カブの様な柔らかい根野菜とも絶妙に調和する。また、そのミネラル感をある種の「苦味」と捉えた場合には、動物系の内臓とも非常に素晴らしい相性を感じられるだろう。パテドカンパーニュや、レベーペーストと試していただきたい。豊かな酸は、強い塩味や脂肪分、油分を相殺する能力に優れるため、様々な応用方法が考えられる。スパイス風味とは相似点が無いため、あまり良い相性とは言えないが、ナッツ類との相性は素晴らしく、ライトなタイプのヴァイサーブルグンダーであれば、サラダに松の実を加えるというシンプルなアレンジを施すだけで、格段にペアリングの完成度が高まる。オーセロワに比べるとより凹凸のはっきりとした味わいであることから、微妙に使用機会が異なることが多い点は留意すべき。簡単に言うと、シンプルな料理向けのオーセロワと、より複雑な構成の料理にも対応できるヴァイサーブルグンダーと言った違いが認められる。

テイスティング・ノート:

Odinstal, Weissburgunder 350 N.N. 2017, Pfarz. ¥4,300

ライトイエローに、薄くグリーンがかった色合い。

桃、梨、レモン系のフレッシュな果実、白い花の蜜、火打ち石のアロマ。

何かの要素が突出することなく、高次元でまとまった凄まじい完成度。

余韻の長さも傑出しており、クリーンかつナチュラルの世界観の中で、まさにグランヴァンと呼ぶべき偉大なワインとなっている。

力強く濃密だが、それは内側の話であり、外側は柔らかく、親しみやすさすら感じる。

カブや人参の様な、甘味を感じさせる根野菜との相性が抜群に良く、そこに加える肉類も、蒸す、煮込むといった調理法でテクスチャーを柔らかくした方が好相性となるだろう。

Donnhof, Weissburgunder trocken 2018, Nahe. ¥4,000

グリーンの色が強く出ている。

抜栓直後はスクリューキャップの影響からか、還元的で閉じた印象だったが、三日目から本領を発揮。

洋梨にフレッシュなパイナップルを思わせるトロピカルタッチが加わるが、熟れた感じは全く無い。

極めてシャープで端正な佇まいであり、焦点の定まった見事な味わい。

中核には強靭な酸とミネラルが鎮座している。

表示されている12.5%というアルコール濃度よりも、実際にはかなりライトに感じるテクスチャーであるため、魚介類や葉物野菜、根野菜を中心にペアリングを組み立てると良いが、強い酸とのバランスを図るために、オリーヴオイルや岩塩による味わいの補強を推奨する。

Grauer Burgunder

特徴:

ピノ・グリは、フレッシュでライトなスタイルの北イタリアタイプと、濃醇アルザスタイプに大別されるが、ドイツのグラウアーブルグンダーは、その中間的特徴をもつことが多い。といっても、どっちつかずなこの品種の特徴はドイツでもそのまま出ており、樽を使用しなければ北イタリア寄りになり、シャープな酸を得る一方で、樽を使用すればアルザス寄りのスタイルに傾くため、グリップの効いた味わいとなる。果実味はレモン、ライム、青リンゴ、桃、金柑、蜜柑、パイナップルと、スタイルによって幅広い表現となるため、それぞれのワインの特徴をしっかりと掴む必要がある。興味深い特徴としては、生アーモンドの様なナッツ系の風味に加えて、生姜、白胡椒、レモングラスといったニュアンスも良く出てくる点が挙げられる。つまり、ミュラー=トゥルガウ、オーセロワ、ヴァイサーブルグンダー、そしてソーヴィニヨン・ブランの特徴を少しずつ併せもっているということだ。

ペアリング:

ライトなタイプであれば、ソーヴィニヨン・ブランで合わせられる料理、濃醇なタイプであればシャルドネで合わせられる料理、をそれぞれ基本軸として構成していくと分かりやすい。グラウアーブルグンダーの特徴をより精密に活かすのであれば、幅広いフルーツ系の味わいとの相性東南アジア系ハーブとの相性、生姜、ニンニク、胡椒といったスパイスとの相性、ナッツ類との相性を上手く加味していくと良いだろう。

ライトなタイプのグラウアーブルグンダーが得意とする味わいの中には、ポン酢(酸+柑橘)、甘酸っぱいフルーツ系ソース等も含まれているため、場合によっては特殊なアプローチも可能となる。また、生牡蠣ムール貝との相性も素晴らしい。パクチーの様な香草とも、うまく相乗する性質がある。

濃醇なタイプの場合、ニンニクを使った料理との相性は特に素晴らしく、スパイスへの確かな対応力を確認することができる。意外なところでは、ココナッツミルクベースのカレーや、グリーンカレーといった東南アジア系カレーとの美味しく刺激的な組み合わせがある。

グラウアーブルグンダーは、それぞれのワインの特徴をしっかりと掴めば、前菜から魚料理くらいまでは、それだけで対応できてしまうほどの汎用性の高さがいかんなく発揮される。

テイスティング・ノート:

Jurgen Leiner, Grauer Burgunder trocken 2018, Pfarz. ¥3,000

ライトイエローに微かなピンクが入った色合い。

フレッシュな桃、ライムとナッツ系の香り。

非常に円やかで柔らかいテクスチャーが心地良く、キレの良い酸も相まり、この品種らしい懐の深さを感じる。

明確に現れているナッツ風味を活かして、料理にナッツ類を盛り込んでも良いし、香ばしいニュアンスを与える要素として、あえてシンプルな味わいの料理に合わせても良いだろう。

柔らかいテクスチャーと高い酸に焦点を当てつつ、グラウアーブルグンダーの特徴を活かすなら、白子のポン酢和えのような料理とも好相性が期待できる。

Bernhard Huber, Grauer Burgunder 2018, Baden. ¥4,700

ライトイエローに少しグリーンが入った色調。

青リンゴやライム、火打ち石的な香りが強い。

非常に引き締まった、ギリシャ彫刻の様なワイン。

強靭なミネラルとエッジの効いた酸が素晴らしい。

2018年という暑いヴィンテージで、この凄まじくフォーカスした端正な表現というのは、もはや天才的としか表現しようが無い。

白身魚に、柑橘やハーブのソースを加えれば、このワインとは無上の組み合わせとなるだろう。

Silvaner

特徴:

基本的に控えめなアロマと、柔和な酸味をもつジルヴァーナーは、一般的には特徴を掴みづらい品種とも言われるが、テロワールに繊細に反応する性質からも、栽培される場所によっては、まさに「大化け」する品種でもある。ミネラルを強烈に反映する能力もあり、特にフランケンのエアステ・ラーゲ(一級畑)やグローセス・ゲヴェクス(特級畑)に植えられた古樹であれば、モーゼルのリースリング顔負けのミネラルモンスターと化す。レモン、オレンジ、白桃、パッションフルーツ、杏の様な果実系アロマは優しく香る一方で、タイム、オレガノ、バジル、ミントといったフレッシュハーブのアロマは鮮烈な印象を与える。また、抗酸化力も強く、低亜硫酸醸造に非常に向いている点も、現代的なワイン醸造のトレンドの中では、強力な追い風となっていると言える。

ペアリング:

ヴァイサーブルグンダー並みの魚介類への対応力と、グリューナー=ヴェルトリーナーに肉薄する野菜類への対応力を併せもつジルヴァーナーは、世界でも最も広範囲な料理に合わせることができるワインの一つだ。比較的ライトなタイプであれば、野菜、フレッシュフルーツ、白身魚、青魚、貝類、甲殻類に対して、ほぼ調理法を問わず、盤石の相性を誇る。また、アスパラガスアーティチョークという難食材に対しても問題なく合わせられる点は、特筆すべきポイントだ。さらに、ジルヴァーナーらしさが最大化される特徴は、西洋、東洋問わず、あらゆるハーブ類との無類の相性を誇る点にある。

位の高い葡萄畑で育った、重厚なタイプのジルヴァーナーであっても、本質的にはその性質を失わない点も、ジルヴァーナーの優れた部分である。合わせられる料理は、ライトなタイプの時のものがほぼそのまま適用される上に(一部、軽すぎる料理は難しくなるが)、より複雑な味わいと構成の料理にまで対応範囲が広がる。また、豚肉仔牛肉との優れた相性も見せるようになる。

テイスティング・ノート:

Odinstal, Silvaner Nakt 2017, Pfarz. ¥4,000

ライトイエローの淡い色調。

杏、カリン、花の蜜とハーブボックスのアロマ。

じわりとくる旨味、優しい果実味と酸が非常に心地良い。

ジルヴァーナーの低亜硫酸醸造への適性を証明するかのようなワインであり、一切のネガティブ要素を出さず、ナチュラルワインの美点だけが現れている。

柔らかいテクスチャーと酸を活かし、蒸し魚に合わせたり、カリフラワーやアスパラガスをポタージュにして合わせても良いだろう。

Störrlein Krenig, Silvaner Alte Reben “Randersacker Marsberg” 2018, Franken. ¥5,000

光沢の強いライトイエローに、僅かなグリーンのタッチ。

オレガノ、バジル、タイムの鮮烈な香りと、ほのかなレモンのアクセント。

口中を覆うかのような巨大なミネラルが押し寄せてくる。

野太い酸と果実味は非常に濃密だが、重さが皆無であり、疾走感にあふれている。

この畑が一級畑であることを考えれば、フランケンがいかにジルヴァーナーにとっての「約束の地」であるかが、明確に分かる。

極めて広範囲な料理との組み合わせが想定されるが、豚肉や仔牛肉をたっぷりのハーブと一緒に焼き上げたものと合わせれば、最高の食体験を味わえるだろう。

Gewürztraminer

特徴:

あらゆる葡萄品種の中でも、際立って個性的なアロマと果実味で知られるゲヴュルツトラミナーだが、ドイツのものを味わえば、また異なった印象を抱く人も多いだろう。この品種特有の、鮮烈なライチ、洋梨、桃、パイナップル、マンゴーの香りはそのままに、実際に口に含むと、それらが決して出過ぎることなく、控えめなバランスの中で、渾然一体となっているからだ。その性質上、好き嫌いが別れやすい品種だけに、ドイツ産の圧倒的なバランス感は、ゲヴュルツトラミナーの可能性を大きく押し広げる力をもっている。完全な辛口であっても、僅かな残糖を感じることの多い品種であるが、ドイツの辛口タイプのものは、非常に端正な味わいとなっている。甘口タイプのものも、ドイツらしい力強い酸が残った快作が多い。原産地でありながら、他産地に(人気面で)大きな遅れを取ってきたドイツのゲヴュルツトラミナーが躍進する時代はすぐそこまで来ている。

ペアリング:

ゲヴュルツトラミナーの名に含まれる「ゲヴュルツ」がドイツ語でスパイスを意味することから、この品種を何も考えずにスパイシーな料理と合わせようとする人が非常に多いが、ほとんどのケースでそのような挑戦は失敗に終わるだろう。むしろ、アルコール濃度が上がりやすいゲヴュルツトラミナーを辛い料理に安易に合わせた場合、辛さを極端に増幅させてしまうという結果になる。

ゲヴュルツに含まれるスパイス的風味は、「辛さ」をもたらすスパイス類ではなく、シナモン、ナツメグ、クローヴといった「甘さ」をもたらすスパイスである。そして、ペアリング理論においては、風味の一致よりも、アルコールによる辛いスパイスの刺激強化効果の方が、遥かに効力が強い。

ゲヴュルツトラミナーの甘いスパイス感を最大限に活かすには、料理の中にある類似した風味に合わせるのではなく、料理に対してゲヴュルツトラミナーのスパイス感を「足す」イメージでペアリングすることが有効となる。ここでは、よりフードペアリング的な発想が必要になる。鴨、七面鳥、豚、仔牛といった、甘くスパイシーなソースと相性の良い肉類は、ゲヴュルツトラミナーとも絶妙な相性を見せる。

風味同士を合わせる場合は、料理に甘くスパイシーなソース、例えば東南アジアのスイートチリソース等が添えられている必要がある。

魚介類では、特に甘味の強い貝類と甲殻類との相性が抜群。

興味深いところでは、卵を使った料理(生や半熟は難しい)との相性に優れており、キッシュ等はゲヴュルツトラミナーの最高の伴侶となり得る。

テイスティング・ノート:

Odinstal, Gewürztraminer 350N.N. 2017, Pfarz. ¥4,300

ライトゴールドの色調。

ライチ、パッションフルーツ、シナモンといったゲヴュルツトラミナーらしい香りが強く出ている。

非常に抑制の効いた、端正でドライな味わいであり、果実感が突出しない分、なめらかさが際立つ印象。

華やかだが行き過ぎない、ドイツらしいバランス感が良く表現されたワイン。

ベトナム風生春巻にスイートチリソースを添えれば、最高の組み合わせとなる。

Jurgen Leiner, Gewürztraminer 2019, Pfarz. ¥4,800

やや褐色の入ったゴールド。

シナモン、ナツメグ、クローヴ、生姜を思わせるスパイス香が全面的に出たいる。

紅茶を思わせる枯れた風味と、ゲヴュルツトラミナーらしい華やかな果実味がバランス良く合わさっている。

醸し発酵を行っているため、オレンジワインに区分されるワインであり、亜硫酸は無添加ながらも、徹底してクリーン。

オレンジワインならではの旨みを活かして、帆立や平貝、甘海老を使った料理と合わせると良いだろう。また、ローストした仔牛肉との相性も良さそうだ。

総括

ドイツで生まれる様々なワインの中で、リースリングだけを賛美するというのは、クラシック音楽の中でベートーヴェンだけを愛するのと、同じようなことだ。

確かに、絶対的な価値という意味で、リースリングが圧倒的に優れていることには、筆者も同意する。それだけ特別なワインであることは、間違いない。しかし、ワイン趣味を追求するのであれば、クラシック趣味をヴィヴァルディやドビュッシーやシェーンベルクにまで広げるように、ビートルズと椎名林檎を共に楽しむように、ドイツワインへの賛美をヴァイサーブルグンダーやジルヴァーナーやオーセロワにまで広げてみて頂きたい。

そこには確かな躍動があり、希望があり、未来があるのだから。