2023年12月22日4 分

Ferreira ~南向き斜面のグラン・クリュ・ポート~ <ポート特集:Part2>

最終更新: 2023年12月26日

ポルトガル第二の都市ポルトで、ポート・ワインハウスのロッジ(貯蔵庫)を訪れて感心したのは、そのワインツーリズムとしての圧倒的な完成度と豊かさだ。

 

ポート自体が造られているのは、基本的にDouroだが、硬く分厚いシスト土壌の母岩を掘って広大な地下セラーを造ることは現実的ではなかったことから、歴史的にポートは船で(今はもちろんトラック)ポルトへと運ばれ、巨大な貯蔵庫での熟成を経て出荷されてきた。

 

ポルトを横断するドウロ川の南側に位置するヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアには、高名なポート・ハウスのロッジやショップが軒を連ね、ギュスターヴ・エッフェル(パリのエッフェル塔で知られる)が設計した美しいマリア・ピア橋と並んで、ポルトの街を象徴する景色となっている。

今回の旅でロッジを訪問(Kopkeも訪れたが、ロッジ見学をしたのは系列ブランドのCálem)したのは、ポートの名門Ferraira

 

1751年にフェレイラ家によって創立されたFerreiraは、19世紀に入るとドナ・アントニア・アデレイデ・フェレイラの辣腕によって名実ともにポート最上の一角へと登り詰めた。

 

1987年には、そのレガシーをポルトガル最大のワイナリーグループであるSograpeが継承し、(酒精強化ワインではない)Douroの最重要ワイナリーであるCasa Ferreirinhaと共に、更なる発展向上に努めてきた。

 

1825年からFerreiraのロッジとして使用されてきた古い建物は、改装とメンテナンスによって非常に良好なコンディションに保たれ、ワインツーリズムの大黒柱となっている。

ルビー・ポートを熟成している巨大な樽(最大級のものだと、なんと7万リットル越え!)が所狭しと並んだ暗いセラーを回るツアーは、実にエキサイティングなもので、ツアーガイドの博識ぶりも相まって、刺激と発見と驚きに満ちた、極めて上質なものだった。

 

世界各地でワイナリーを訪問してきた筆者だが、これほど異質で楽しいワイナリー(正確には熟成庫だが)は他に思い浮かばない。

SommeTimes読者の方々も、ヨーロッパ訪問の際は、「ポルトでロッジ見学」を積極的に選択肢に入れていただければと思う。

 

ここでしか見ることのできない光景が、次々と目に飛び込んでくるはずだ。

 

さて、ポートの名門Ferreiraもまた、当然銘醸地Cima-Corgoのグラン・クリュ・ゾーンに葡萄畑を所有している。

 

その名もQuinta do Porto。Cima-Corgoの中心にある小さなピニャオンの街から、車で10分もかからない場所に拓かれた、ドウロ川沿い北側、南向き(ほとんどは南東向き)の急斜面だ。

 

敷地面積は36haで、そのうち24haが葡萄畑。標高は80~350mとなっている。

近年では真夏日の最高気温が摂氏40度代後半にも達するDouroで、しかも抜群に開けた南向き斜面となるQuinta do Portoのテロワールは、当然「太陽」そのものだ。

 

先日レポートしたKopkeが所有するQuinta de São Luizは川の対岸にある北向き斜面だったため、そのテロワール的差異を含めて、Ferreiraのレポートをしていこうと思う。

 

まず、試飲したワインの紹介をする前に、KopkeとFerreiraで、テクニカルデータの比較を行う。

 

1.     Vintage 2019(ルビー)

Kopke, Quinta São Luiz Vintage 2019

pH値:3.3

総酸量:6.2g/L

残糖度:100g/L

 

Ferreira, Quinta do Porto 2019

pH値:3.5

総酸量:5.3g/L

残糖度:95g/L

 

 

2.     Tawny 20 years Old

Kopke, Tawny 20 years Old

pH値:3.54

総酸量:4.78g/L

残糖度:121g/L

 

Ferreira, Tawny 20 years Old

pH値:3.3

総酸量:5.5g/L

残糖度:125g/L

 

 

3.     Lágrima White

Kopke, Lágrima White

pH値:3.44

総酸量:3.3g/L

残糖度:150g/L

 

Ferreira, Lágrima White

pH値:3.5

総酸量:3.5g/L

残糖度:150g/L

 

 

まとめると、収穫年とテロワールの影響が最もダイレクトに出ると考えられるヴィンテージ・ルビーにおいては、pH値、総酸量共に北向き斜面のKopkeが、明確に「酸が強い」方向へと偏ったが、ブレンドによるハウス・スタイルが大きく反映される熟成年数表示トゥニーでは、フェレイラの方がより強い酸に、ホワイト・ポートでは誤差の範囲内となった。

 

トゥニーやホワイトで、テロワールが示唆する結果通りになっていないのは、Ferreiraが他所にある葡萄畑からも原料を得ていることが理由の一つとも考えられる。

 

 

ポートは基本的にテロワールのワインではあると筆者は考えているが、それは主にVintage(ルビー)やColheita(トゥニー)の場合であり、ブレンドになるとやはり、大手メーカーのNVシャンパーニュ的性質が強くなるのだ。

 

 

では、ロッジで試飲したワインの紹介をしていこう。

Ferreira, White “Dona Antónia” 10 years Old.

熟成年数が8~15年の原酒をブレンドした、熟成年数表示のホワイト・ポート。トロピカルフルーツの香味を主体に、甘いスパイスとスモークが加わる。フレッシュさを強く意識したハウス・スタイルから、メローなテクスチャーと対比的な鋭い酸が特徴的。

 

Ferreira, Tawny “Dona Antónia” 20 years Old.

非常にバランス感に長けた見事なトゥニー。ドライフルーツと柑橘のマーマレードを思わせる香味に、スパイス、ナッツ、スモークが複雑に絡み合う。強い酸を残したスタイルで、フレッシュ感抜群の導入部から、余韻での強い酸化的特徴まで、ドラマティックな展開の味わいが素晴らしい。

 

Ferreira, L.B.V. 2019.  

よりテロワールの特徴が出やすいルビーカテゴリーのL.B.V.では、濃厚な果実味と、丸みを帯びた酸という、南向き斜面の性質が分かりやすく出ている。全体的に極めて明るいトーンのポートでもあり、フレッシュでジューシーな味わいが秀逸。グラン・クリュ・ポートという側面から見たFerreiraのFerreiraらしさは、ヴィンテージ・ポートの3種(Vintage、Vintage Vinhas Velhas、Vintage Quinta do Porto)に集約されているとは思うが、L.B.V.の完成度も最高だ。