4月19日3 分

Chablisの現状

フランスにおける冷涼産地の象徴的存在だったシャブリは、気候変動による影響を強く受けている。

 

ブルゴーニュ委員会のイベントで来日していた複数の生産者の話も踏まえ、簡潔に現状をレポートしていこう。

 

まず、何よりも気になるのが味わい(ティピシテ)の変化だろう。

 

シャブリといえば、やや細身な果実味と鋭角な酸、強靭なミネラルがトレードマークだったが、これらには確かに変化が起きている。

 

果実味は少しふくよかになり、酸は少し落ちた一方で、ミネラルの表現力は健在、というのが現状に対する平均的な評価となるだろうか。

 

果実味と酸に関しては、収穫時期を早めることで、ある程度の対応はできるため、それぞれの要素を「単体」として見る限りは、それほど大きな違和感は無いとも言える。酷暑の2018年、冷涼な2021年のようにイレギュラーなヴィンテージもあるが、そもそもブルゴーニュにとってイレギュラーはノーマルのようなものだったのだから、今更驚くようなことでもない。

 

ただし、総体としての三要素を見た場合、私は強い違和感を覚えるのだ。

 

シャブリのシャブリらしさは、果実味、酸、ミネラルの3点がピンと張った線で結ばれ、正三角形を成すような形で、独特の強烈な緊張感が宿る点にこそあったと私は思う。そして、近年のシャブリに見られる三角形的性質には、明らかに歪みを感じることが多い。

 

「今のシャブリは、20年前のムルソーのようだ。」と語った生産者もいたが、その意見には強く同意する。(樽の効かせ方、という意味ではない。)

 

シャブリの味わいが、気候変動というニューノーマルの中で、新たな調和の形に至るには、少々時間がかかるのでは、と個人的には感じている。

 

 

まぁ私の個人的、かつかなり感覚的な評価は一旦横に置いておこう。

 

イベントで会った全てのシャブリ生産者は、私に「別の問題」のことを話していたのだ。

 

その「本当の問題」とは、春の遅霜である。

 

気候変動によって、葡萄樹が休眠期から目覚めるタイミングが早まってしまったことと、4月や5月の霜が増えたことが相まって、近年のシャブリは文字通り、遅霜に怯える春を毎年送っている。シャブリでは昔から2~3月に「黒霜」と現地では呼ばれる霜が降りることが普通だったが、生育サイクルの変化によって、場合によっては葡萄樹が二度以上霜害の恐怖にされされることもある。

 

2021年は特に酷く、非常に多くの造り手が収穫量の50%以上(畑の立地によっては90%近く)を霜害で失ってしまった。

 

4/18日に行われたイベントの最中にも、「今、向こうの気温が0度に近づいていて、気が気じゃない!」と全ての生産者が不安げな顔で話していた。

 

霜害に対しては、キャンドルを灯すという伝統的な対処法も、エアサーキュレーションを導入するという近代的な対処法もあるが、自然の脅威を前にしては、効果がどうしても限定的となる。

 

また、畑の立地によっても、被害は大きく異なるようだ。

 

シャブリの立地は以下の3パターンに分けられる。

 

Plateau:丘の頂上の台地、Petit Chablis格の畑がほとんど。

Coteaux:丘の斜面部、Grand Cru及び1er Cruが基本的に該当、一部のChablis格も含まれる。

Valle:川に近い谷の底にある平地で、Chablis格の畑が多い。

 

この中で、Plateauが最も霜の被害が小さく、Coteaux上部、Coteaux下部、Valleの順にどんどん被害が大きくなる。

 

つまり、標高が高いほど被害が少なく、低いほど大きいということだ。

 

川に近いValleは湿気が溜まりやすく、斜面上部や台地は湿気が少ない上に風も強い、というマイクロテロワールによって、これらの違いが生じている。

 

確かに近年、Petit Chablisの安定感が高く、Grand Cruと1er Cruはヴィンテージ次第、Chablisは最も難しい、と感じることが多かったが、今回生産者と話したことで、その疑問が解消された。

 

 

悩ましい問題を抱え、品質的にも揺らぎが見受けられるシャブリだが、いつか必ず、人類の叡智がその危機を乗り越えてくれると私は信じている。