2023年3月9日3 分
その土地の料理とワインが、長年に渡って「共に在った」結果として、両者の間に強力な繋がりが自然と形成されることがある。
しかし、軽い繋がり程度であれば、例は無数に存在しているが、完璧とも言えるクラシック・ペアリングへと昇華したケースは稀と言えるだろう。
一般的なイメージとは違い、実際のところは多くの「クラシック」がかなり適当なペアリングだったりするのだ。
さて、今回ご紹介するのは、完璧と断言できるケース。
イタリア・トスカーナ州の名物料理であるビステッカ・アッラ・フィオレンティーナと、サンジョヴェーゼを主体とした同州の名ワインという組み合わせだ。
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナの最も伝統的な例は、トスカーナ州特有のキアニーナ牛(世界最大級の肉牛)の中でも、未経産牛のみを使用したステーキ。
分厚くハイカットされたTボーンは20日以上の低温熟成を経て、かなりレアに焼き上げられる。表面にしっかりと焦げがつくほどの強火で一気に焼くことによって、旨味がたっぷり入った肉汁を閉じ込めることができる。
Tボーンを挟むように、ジューシーなサーロインと柔らかいフィレが配置されるため、一皿で2種類の部位を味わえるのも魅力だ。
そして、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナは、その「仕上げ工程」に大きな特徴がある。
そう、分厚い肉をナイフでカットしたら、オリーヴオイルと塩(コショウも)を豪快にかけるのだ。
こうして完成した極上のビステッカと共に食卓に並ぶのは、当然サンジョヴェーゼとなる。
さて、ペアリングの検証を行う前に、サンジョヴェーゼの特徴を把握しておいた方が良いだろう。
非常に高い酸と頑強なタンニン。
そう、サンジョヴェーゼのこれらの特徴こそが、このペアリングを完璧なものへと昇華させている。
まず、サンジョヴェーゼの高い酸は、ビステッカの仕上げに用いられるオイルと塩、そして肉そのものの脂肪分を適度にカットすることで、合わせた時の味わいに厚みをもたせつつ、食後感を向上させる役割を果たす。
さらに、サンジョヴェーゼの強い渋味は、程よく焦げた肉の表面に宿った「苦味」と同調し、分厚くレアに焼き上げた肉特有の「かなり多い咀嚼回数」にも対応する。
平均的なサンジョヴェーゼのアルコール濃度(13.5~14.5%)も、この質量の肉(最終的には噛み切れるサイズまで食べ手がカットする)には最適の塩梅だ。
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが有するあらゆる要素に対して、サンジョヴェーゼが完璧な対応をみせるからこその、極上ペアリングなのだ
では、どのサンジョヴェーゼ主体ワインが最も相応しいのだろうか。
これはかなり意見が分かれるところではあるが、私はヴィノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノを推したい。
ヴィノ・ノービレらしい、硬さと柔らかさが同居したようなテクスチャーが、ビステッカには最もしっくり来るように私は思う。
もちろん、最高のキャンティ・クラシコでも、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノでも、十分すぎるほどの満足感は得られるだろう。
ただし、キャンティ・クラシコやヴィノ・ノービレを選ぶ際には、できる限りフランス系国際品種がブレンドされたワインは避けるべきだ。
この完璧なクラシック・ペアリングには、カベルネ・ソーヴィニヨンもメルローも、ただただ邪魔なだけとなる。
もしフィレンツェを訪れる機会があれば、Regina Bisteccaというレストランを強くお勧めする。
現地のジャーナリストから推薦されたこのお店で食べたビステッカは、私にとって人生最高のステーキの一つとなった。
ビステッカを含むメニューは2種類あるが、迷わずちょっと高い方を選ぶと良い。
肉の焼き加減を聞かれるが、そこも迷わず「Traditional」と答えておけば問題ない。
ビステッカの友となるサンジョヴェーゼも、豊富に揃っている。