2022年11月26日4 分

Advanced Académie <27> テロワールとワイン vol.3 アルコール濃度

「テロワール」が実際にワインに対してどのような影響を及ぼすのかを検証していくシリーズの第三弾となる。

このような検証を行う際に最も気をつけるべきなのは、ワインという飲み物は様々な要因が極めて複雑に関係性を築きながら最終的な形へと繋がっていくという、紛れもない事実である。

つまり、ただ一つの要因だけを抜き出して、「結果」と結びつけてしまった場合、往々にして不正解となるということだ。

第三回となる本稿では、ワインのアルコール濃度とテロワールの関係性を探っていく。

ワインに含まれるアルコールは、葡萄果汁中の糖分が分解されることによって生じる。

そしてその原料となる糖分を生み出しているのは、植物の「光合成」という働きである。

光合成は非常に複雑なメカニズムでもあるため、本稿ではなるべく簡略化して話を進めていくが、どうしても例外となるケースが生じることはご理解いただきたい。

光合成の原料が、光エネルギー二酸化炭素であることは良く知られているが、これらの要素をテロワールに当てはめていくと、それぞれ日照量二酸化炭素濃度(空気圧)降雨量及び土壌の保水性、となる。

さらに、光合成速度という観点を加えると、日中の気温が深く関係しているため、この要素もテロワールに加わる。

整理すると、日照、気温、二酸化炭素濃度、水分が葡萄樹の光合成に深く関連したテロワール的要素となる、ということだ。

一つずつ検証していこう。

日照量は、単純に日当たりの良し悪しと考えても良い。葡萄樹は基本的に朝から光合成活動を活発化させるため、北半球なら南東、南半球なら北東向きの斜面が最も効率良く日照を得ることができる。(現在は温暖化によって、考え方が変化しつつあるが)古来から最も優れた畑がほぼ例外なくこのような立地にあることは、偶然では無い。

気温は日照量とも関連した重要なファクターとなる。一般的に、同じ日照量の場合、気温が低いと光合成速度が下がり、気温が高いと上がる。暑い年の方が、アルコール濃度が上がるのは、「晴れの日」の多さだけでなく、気温の高さが光合成速度と密接に結び付いているからとなる。

二酸化炭素濃度は、気圧(空気濃度)が下がる高標高エリアという特殊な状況下でのみ強い関連性を示す。特に標高が1,000mを超えるようなエリアでは、大きな影響を及ぼすようになる。一般的に二酸化炭素濃度が低くなると、光合成速度が落ちると考えることができる。

水分は、降雨量と深く関連しているが、年間を通じた降雨量よりも、光合成が活発になる生育期の降雨量がより重要となる。例えば、冬の間に集中して雨が降るような地域では、年間降雨量が十分であっても、灌漑をするか、保水性の高い土壌を選ぶ必要性が生じてくる。

ここまでは比較的シンプルに理解できる範囲だと思うが、光合成というメカニズムは「神の設計図」を感じずにはいられないほど、実際には驚くほど緻密なものなのだ。

実は、光合成とテロワールに関連した4つの主な要素には「飽和点」があり、一定以上に達すると力を発揮しにくくなる。さらに、それらの要素の中に一つでも極端に低いものがある場合、それもまた限定要因となる。

限定要因は、バランスの崩壊と捉えるとよりわかりやすいかも知れない。緻密なバランスが壊れることによって、光合成が阻害されるのだ。

例えば高標高エリアの場合、十分過ぎるほどの日照量を得られるが、標高の高さによる気温の低下、そして空気が薄いことによる二酸化炭素濃度の低下が限定要因となり、光合成効率が下がるため、糖度の上昇にも歯止めがかかる。

逆に日本のように潤沢な水分があるエリアでも、日照量と気温が限定要因となり、糖度の上昇が制限される場所が多い。

これらの要因は、葡萄畑ではキャノピーマネージメントによる日当たりの調整、灌漑、そして収量(光合成で生じた糖分が分散される果実の総量)などである程度コントロールが可能であるし、醸造時にも「補糖」という手段があるため、全てが最終的なワインに結びつく訳ではないが、テロワールの土台を形成する重要なファクターとなる。