2022年1月11日4 分

Advanced Académie <19> ヴィンテージ

ワインの世界において、「ヴィンテージ」という言葉は、主に3通りの使われ方がある。

1. ヴィンテージワイン、というように熟成を意味する使い方。

例:今日は記念日だし、ヴィンテージワインでお祝いしようか?

2. 2013年、のように特定の収穫年を意味する使い方。

例:2015年のボルドーは、○○○なヴィンテージだった。

3. (生産者が)その年の収穫作業や、収穫の開始を意味する言葉として使う場合。

例:もうそろそろ今年のヴィンテージだな。

今回は、2の使用法、つまり特定の年を意味する記号としての使われ方と、我々消費者側がどのように接していくのが良いかを考察していく。

グレート・ヴィンテージ

まず、グレート・ヴィンテージ、バッド・ヴィンテージという言葉が何を意味してきたのかを整理しておく。

1980年代後半頃から、アメリカのワイン評論家ロバート・パーカーJr.が影響力を増し始めたことによって、ヴィンテージの優劣という価値観に、変化が生じた

それまでは、グレート・ヴィンテージとはつまり長熟型のヴィンテージであり、赤ワインであれば酸とタンニンの構造が強固であることなどが条件となっていた。

ロバート・パーカーJr.は、温暖で果実味の凝縮度は高かったが酸が少し緩かった1982年ヴィンテージのボルドーを、世紀のグレート・ヴィンテージとして高評価したことに象徴されるように、それまでの常識とは違う方向にグレート・ヴィンテージの指標を見出した。彼の絶大な影響力がピークに達していた1990年代~2000年代までは、熟度が高く、アルコール濃度が高く、濃縮した味わいのヴィンテージがより偉大なヴィンテージとみなされる傾向が生じた。

また、この時期は、栽培技術と醸造技術が飛躍的に進歩し、濃厚なワインを造るという目的だけなら、ヴィンテージ格差がかなり小さくなった側面もある。

ロバート・パーカーJr.の影響力が薄れつつ、地球温暖化の影響が顕著になり始めた2010年代以降は、またグレート・ヴィンテージという価値観に変化が生じることとなった。

最初の教訓は、西ヨーロッパのワイン伝統国を蹂躙した2003年という酷暑のヴィンテージだった。暑い方が良い、濃い方が良い、という価値観に確かな疑問が生じたのだ。

また、ワインの早飲み傾向がより顕著になってきた影響も大きい。早飲みに適した味わい、つまりバランスの取れた味わいが、グレート・ヴィンテージの新たな指標として浸透してきたのだ。

現在は、ワインスタイルの多様化が大きく進んだことによって、グレート・ヴィンテージの価値観もまた多様化している。古典的な長熟タイプ、パーカー的な濃醇タイプ、コンテンポラリーなバランスタイプと、評価の基準は三者三様

ある意味で、今はグレート・ヴィンテージという言葉の意味が、ワインの歴史上最も不透明なタイミングとも言えるのだ。

もはや、グレート・ヴィンテージ、バッド・ヴィンテージという言葉そのものが形骸化し、死語になりつつあるとさえ思う。

ヴィンテージとどのように向き合うのか

もはや死語、と片付けてしまうのは簡単だが、それだと何の解決にもならない。

残念ながら、一つの解決策で全てに対応することはできないが、それぞれのスタイルによって対策を分けていくと、飲み頃を判断する材料としてヴィンテージ情報を役立てることができるだろう。

まず、古典的な長熟スタイルの場合は、グレートとされるヴィンテージはなるべくしっかりと熟成(8~20年程度で十分だと思うが、それ以上熟成させるのもまた楽しい)させて楽しみ、そうでないヴィンテージの場合は3~10年程度の範囲で楽しめば良いと思う。もちろん、バローロのように特殊なワインの場合は、プラス5年くらいはしておいた方が良いだろう。

パーカー的な濃醇スタイルの場合、それほど熟成させすぎない方が良い、という意見が現在では大勢を占めるだろう。グレートとされるヴィンテージなら最大でも15年程度まで、そうでないヴィンテージならリリース後は特に神経質に待つ必要は無いと思うが、10年以内には飲んでしまって良いと思う。

コンテンポラリーな早飲みタイプに関しては、実はまだよくわかっていない。

熟成能力に関しては、古典的以下、パーカー的以上、であると推察されるが、ポリフェノールの熟度が低いワイン、つまり無理やり軽やかに作った赤ワインでは、リリースから3~5年のタイミングで、急激に果実味が抜け落ちる現象を多々確認している。特にアルコール濃度が(その産地の平均値より)極端に低いワインの場合、注意が必要だ。現状では、早飲みできるなら、早く飲んだ方が安全、とするのが無難だろう。

ヴィンテージとの付き合い方は、一筋縄ではいかないが、対策を知っておいて損はない。そして最後は、ブルゴーニュの偉大な造り手と、筆者の師にあたる偉大なマスター・ソムリエの言葉で閉めようと思う。

本当に優れたワインとは、いつ飲んでも美味しいワインなのです。

By アンリ・ジャイエ

グレート・ヴィンテージなんて言葉に惑わされるな。毎年必ず、新しいヴィンテージがやってくるのだから。

By ロジャー・デイゴーン M.S.