2023年5月5日3 分

日本料理と酸

日本料理と日本酒の間には、ワインの世界で言うところの「クラシックペアリング」となる組み合わせが多々存在している。

その結びつきは非常に強力で、そうそう簡単にワインが「それ以上の」組み合わせとなることは無い。

ロジカルな側面からその理由を説明すると、塩分、脂肪分、油分、酸の全てが控えめ日本料理は飲み物に対して強い「酸」を求めることが少ないから(ご存じの通り、日本料理は非常に幅広いため、例外となるケースも多くある)、となる。

もちろん、日本料理とワインの組み合わせの中には、大変興味深いものや、非常に完成度が高いものも少なからずあるし、私自身深い研究を重ねてきた分野ではあるものの、「結局日本酒と合わせた方がペアリングとしての完成度が高い」という結論に至ることは、決して珍しくないのだ。

しかし、日本酒にも苦手としているタイプの日本料理が存在している。

それは、「酢」を使った料理だ。

ペアリング理論においては、料理に酸の要素が明確に存在している場合、合わせる飲み物にもその強さに比例した酸が求められる

この法則は、数多いペアリングルール中でも、優先度が極めて高い部類に属しているため、他の要素でカバーすることが難しい。

料理と飲み物の酸が大きくずれた場合(特に、飲み物の酸が大きく下回った場合)、苦味のような感覚が生じてしまい、料理、飲み物共に、バランスが崩れてしまうのだ。

そして、その肝心の酸が、日本酒には足りない。

近年は、酸味が強いタイプの日本酒も増え、その弱点は部分的に補われつつあるが、それでも全体としての日本酒が、「酸っぱい食べ物」を基本的に苦手としていることには変わりない。

一応、飲み物の甘味で、料理の酸味を中和することは可能なのだが、バランス調整が難しく、そもそも相当甘い日本酒でない限り、成功例に至るケースは稀。

少し季節が過ぎてしまったが、春の料理である「蛍イカの酢味噌和え」も、日本酒で合わせるのがなかなか難しい料理となる。

無濾過生原酒系であれば、それなりに酢味噌の酸味を中和することができるが、日本酒のアタックが強くなりがちなため、ピントを合わせるのが難しい。

そして、こういう時に最高の活躍をしてくれる飲み物こそワインだ。

より正確にいうと、辛口のリースリングとなる。

特にドイツのリースリングが抜群で、酢味噌とリースリングの酸がパーフェクトに調和するだけでなく、蛍イカならではの心地良い苦味もソフトに包み込んでくれる。

私はワインと日本酒こそが、世界二大醸造酒(ビールも素晴らしいが)の名に相応しいと信じているが、両者の関係はまさに「持ちつ持たれつ」である。

今回のように、日本酒が苦手としているタイプの日本料理にワインがフィットするケースもあれば、その逆もまたある。

大切なのは、それぞれの飲み物の特徴を正確に捉え、得意不得意を冷静に理解した上で、適材適所を心がけていくこと。

ペアリングの世界において、「万能」という言葉は、実際には限定的なのだ。