2021年4月28日7 分

SommeTimes Académie <7>(ワイン概論3:スパークリングワイン)

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください

スパークリングワインのカテゴリー

シャンパーニュ方式

スパークリングワインの代表的な製法であるシャンパーニュ方式は、1700年頃から複数の人物によって、様々な細かい製法が確立されていった。シャンパーニュ方式の核となる酵母と糖を添加する瓶内二次発酵が真の完成に至ったのは、1836年に瓶詰め時に含まれる糖分の含有量を元に、二次発酵によって発生する炭酸ガスの量を予測する「フランソワの比重計」が発明されたことが明確なきっかけと言えるだろう。そういう意味では、シャンパーニュの父と呼ぶべき存在は、高名なドン・ペリニョン神父ではなく、薬剤師であったジャン・バティスト・フランソワかも知れない。

【各地域の呼び名】

méthode champenoise(フランス・シャンパーニュ地方)

méthode traditionnelle(主にフランス国内)

metode classico, metode tradizionale(イタリア)

métode tradicional(スペイン、ポルトガル)

klassiche Flaschengärung(ドイツ)

traditional method(英語圏)

méthode cap classique(南アフリカ・ウェスタンケープ)

【代表的ワイン】

Champagne (France)

Crémant (France)

Franciacorta (Italy)

Cava (Spain)

【重要な醸造用語】

Assemblage アッサンブラージュ

収穫年のブドウを発酵したワイン(こちらの方が原酒と呼ばれる)をヴァン・ドゥ・レゼルブ(前年か前々年のワイン)とブレンドする工程。生産量が多いシャンパーニュにとって、品質のブレは死活問題。原酒の出来不出来に可能な限り左右されない様に、多い時には50種を超えるほどの原種を巧みにブレンドし、各造り手のスタイルを安定して実現させている。

Tirage ティラージュ

アッサンブラージュ後に瓶詰めされたワインに、リキュール・ドゥ・ティラージュ( 酵母とショ糖)を1Lあたり24g加える工程。

Remuage ルミュアージュ

瓶を揺らしながら1/8回転ずつ瓶口の方向に傾けていく作業を、5〜6週間の間毎日続けていくことによって、瓶の側面に溜まった澱を瓶口に集めていく工程。高い技術を要求される工程故に、人力で行うと非常に効率が悪いことから、近年は、生産量の多い造り手ではジャイロパレットという機械が一般的に使用されている。

Dégorgement デゴルジュマン

ルミュアージュで瓶口に集めた澱を、瓶外に出す工程。-20°Cの塩化ナトリウム水溶液に、逆さまにした瓶口(3〜4cm)を浸して澱を凍らせる。澱の部分だけを凍らせた上で抜栓すると、瓶内の気圧で凍った澱が弾き出される。かつては、急速に瓶を起こすことによって、瓶内の空気を瓶口に移動させた瞬間に栓を抜いて澱を吹き出させるデゴルジュマン・ア・ラ・ヴォレ、という手作業で行われていたが、高い技術をもってしてもロスしてしまうワイン量が多いことと、時間効率の悪さから、現在では完全に廃れている。

Dosage ドサージュ

瓶内二次発酵によってほぼ完全に消失した糖分と、デゴルジュマンによって目減りしたワインを補いながら、最終的な味わいを調節する目的のために門出のリキュール(原酒に糖分を加えたもの)を添加する工程。ドサージュの量によって、後述の甘辛度の表示が決定する

【甘辛度の表示】

  • Brut Nature(ブリュット・ナチュール)〜3g/L

   Pas Dosé, Dosage Zéroという表記も可能

  • Extra Brut(エクストラ・ブリュット)0〜6g/L

  • Brut(ブリュット)0〜12g/L

  • Extra Dry, Extra Sec(エクストラ・ドライ、エクストラ・セック)12〜17g/L

  • Sec(セック)17〜32g/L

  • Demi Sec(ドゥミ・セック)32〜50g/L

  • Doux(ドゥー)50g/L〜

2009年の規定改定時にBrut Zéro(ブリュット・ゼロ)、Ultra Brut(ウルトラ・ブリュット)、Brut Sauvage(ブリュット・ソヴァージュ)といったBrut Natureの代わりに用いられていた表記は禁止された。

* ±3g/Lの誤差が認められているため、実際には15g/LでもBrutと表示できる。

【ボトルのサイズ】

  • Huitième ウイティエーム

   100ml(1/8本分)

  • Demi Bouteille  ドゥミ・ブティユ

   375ml(1/2本分)

  • Bouteille  ブティユ

   750ml(1本分)

  • Magnum  マグナム

   1.5L(2本分)

  • Jéroboam  ジェロボアム

   3L(4本分)

  • Réhoboam  レオボアム

   4.5L(6本分)

  • Mathusalem  マチュザレム

   6L(8本分)

  • Salmanazar  サルマナザール

   9L(12本分)

  • Balthazar  バルタザール

   12L(16本分)

  • Nabuchodonosor  ナビュコドノゾール

   15L(20本分)

  • Solomon  ソロモン

   18L(24本分)

  • Primat  プリマ

   27L(36本分)

  • Melchizedek  メルシズデック

   30L(40本分)

SommeTimes’ View

力強く溶け込んだ泡、豊かな旨味、熟成とドサージュが織りなす複雑で多層的な味わいは、やはりシャンパーニュ方式の独壇場であり、世界最高品質のスパークリングワインは、ほぼ例外なくシャンパーニュ方式にて造られている。しかし、その複雑な工程と、リリースまでに要する長い時間はワイナリーのキャッシュフローを圧迫するため、製造コストが必然的に高くなる。デゴルジュマンはワインにかなり強い刺激を与えるため、しばらくの間ワインが堅く閉じこもる傾向がある。シャンパーニュの中でもシャンパーニュ方式が義務付けられているのは、375ml、750ml、1.5Lの3サイズのボトルのみ。375ml未満、3L以上のボトルの多くは後述するトランスファー方式を採用している。つまり、全てのシャンパーニュがシャンパーニュ製法で造られているわけでは無い。18L以上のサイズを生産している造り手は非常に稀。

シャルマー方式

二次発酵を加圧タンク内で行うスパークリングワインの製法。シャルマーの名で広く知られているが、基礎技術はFederico Martinottiが1895年に発明して特許も取得したにも関わらず、それを改良して特許取得したEugene Charmatの名前ばかりが知られるようになってしまった。製造コストが低く、リリースに要する時間もシャンパーニュ製法に比べると遥かに短いため、大量生産に向いている。

【各地域の呼び名】

metode charmat(イタリア)

metode Italiano(イタリア)

cuve close(世界各地)

tank method(世界各地)

【代表的ワイン】

Prosecco (Italy)

Asti (Italy)

SommeTimes’ View

リリース直後から状態が安定している傾向があり、開けるタイミングを選ばない。シリアス過ぎる味わいにならないため、カジュアルなシチュエーションに向いている。シャンパーニュ方式に比べると泡の荒さが目立つが、刺激の強さがより強い爽快感に繋がるという側面もあるため、一概に不利点とは言い切れない。泡の持続時間はやや短いことが多い。澱との接触時間が短いため、旨味はあまり乗らない。比較的シンプルな味わいになる傾向がある(例外も多々あり)。安価にスパークリングワインを造る製法としては、まさに王者と言える。

アンセストラル方式

発酵途中のワインを瓶詰めして栓をし、瓶内で発酵を完結させる製法。一次発酵の続きを瓶内で行っているため、厳密にいうと瓶内二次発酵では無い。1531年頃にフランスのSaint-Hiliare修道院で発明されたという説があるが、懐疑説も根強い。原始的な製法故に、技術的難易度が非常に高く、安定性に欠ける傾向がある(稚拙な造り手によるワインは、抜栓後に強く吹きこぼれることもある。)ものの、豊かなで華やかなアロマ、低いアルコール濃度、優しい発泡は非常に魅力的。

【各地域の呼び名】

méthode ancestrale(フランス)

méthode rurale(フランス)

méthode artisanale(フランス)

méthode gaillacoise(フランス・ガイヤック地方)

pétillant-naturel(フランスを含む世界各地)

pét-nat(世界各地)

ancestral method(英語圏)

【代表的ワイン】

Bugey Cerdon (France)

Banquette de Limoux (France)

Gaillac mousseux(France)

pét-nat(世界各地)

SommeTimes’ View

僅かに甘味が残る傾向があり、好き嫌いが別れる。熟成能力はやや低い傾向がある。近年大流行中の通称「ペット・ナット」はこの製法で造られている。添加物(糖と酵母)を用いないため、世界各国のナチュラル派のワインメーカーに多く採用されている。しかし、往々にして亜硫酸添加量が低すぎ、二酸化炭素の作用を過信し過ぎるあまり、ネズミ臭(ナチュラル・ワインに頻発する深刻な欠陥的特徴)に汚染されたワインも少なく無い。

トランスファー方式

シャンパーニュ方式と同様に酵母と糖を添加して瓶内二次発酵を行ったのち、大型のタンクに移し、フィルターをかけて澱を取り除き、リキュール添加をして再度瓶詰めする製法。

Transversage methodの場合は、ルミアージュとデゴルジュマンをした上でタンクに移す為、フィルターをかけない。

【各地域の呼び名】

Transfer method(世界各地)

Transversage method(世界各地)僅かに製法が異なる

【代表的ワイン】

Champagne (France) 375ml未満、3L以上のボトルのみ

New ZealandとAustraliaでは広く採用されている。

SommeTimes’ View

シャンパーニュ方式よりも製造コストが低い為、価格も安い。澱びきとリキュール添加をタンク内で行う為、安定性が高く、酵母と糖を添加しての瓶内二次発酵をしている為、シャルマー方式よりも、複雑性が高い。シャンパーニュ方式とシャルマー方式を足して3で割った様な製法と言える。僅かにシャンパーニュ方式よりも複雑性と泡の持続力に欠ける傾向があるが、大きな不利点とは言い切れない。

その他

フランスのClairette de Die AOP以外ではほとんど見かけないDiose methodは冷却することによって酵母の活動をコントロールする(アンセストラル方式の一種)。

ロシアン方式とも呼ばれるContinuous Methodはロシアと旧ソビエト連邦諸国で見られる(粗悪な)タンク内二次発酵の一種。1975年に、なぜかモエ&シャンドンがライセンスを取得した。

ガス注入方式は、安価なスパークリングワインで多く採用されているが、品質面での貢献は皆無に等しい。悪くは無いが、シャルマー方式には及ばない。