2021年1月21日5 分

SommeTimes Académie <4>(おすすめのワイン入門書 Vol.3)

最終更新: 2022年1月25日

おすすめのワイン入門書、Vol.3をお届け致します。上手に学ぶコツは、楽しみながら学ぶことにあります。この一連のシリーズで、読者の皆様が、ワインを楽しいと思えるきっかけが少しでも増えることを、切に願います。

【6冊目】神の雫

これまでにも様々なワインや・ソムリエを題材にした“マンガ”が存在したが、その中でも言わずと知れた決定版。第一巻が発売されたのは、2005年。以降15年以上にも渡って世界中のワインラヴァーを魅了し続け、さらにこのマンガをきっかけにソムリエを志した若者の数は数えきれないであろう。マンガという表現方法を用いて“物語化”することは、ワインという未曽有の知識に溢れたお酒にとって、非常に相性が良い。しかし、それが出来るのは原作者のワインに対する膨大な知識と、深い愛情があってこそ。連載開始以降、その影響力は、計り知れないほど巨大なものになっていった。

今回、例外的に“入門書”として紹介させて頂くのには理由がある。それは他でもない、私自身が、ソムリエになろうと決心したおよそ10年前に、何度も読み返していたからである。その主な理由を、体験に基づき再考してみようと思う。
 

 

①マンガとして圧倒的に面白い。

このマンガは、決してワイン好きの為だけのマンガではない。ワインに興味のない層の人でも、読み進めていくうちに(いや一巻が終わるころにはすでに)、ワインの世界に引き込まれてしまう。なぜなら、娯楽として、マンガとして圧倒的に面白いからである。当時の私は、脳のリフレッシュを兼ねて、この“神の雫”を何度も読み返していた。資格試験の勉強は、長い道のりである。人間なんだから“なかなかやる気が出ない”状態のときもある。この状態のときに、どれだけ勉強できるかが、合格や成長のカギを握っていると言ってよい。つまり、「人がやっていないときに、やる」という考え方である。

勉強の途中で集中力が下がってきたと思ったら、自分の頬を叩いて、効率の悪い勉強を強引に継続することはしない。その代わりに、ワインを題材にしたマンガを読みリフレッシュする。このアイデアのおかげで、当時の私は「常にワインに触れ合っていながら、勉強の効率を上げる」ことができていた。また、精神的に辛くなることもなかった。楽しんでワインの勉強を継続することを可能にしてくれたのである。

②物語の背後に隠れた、ワイン初心者がステップアップできる精巧な仕掛け。

主人公の神崎雫(かんざき しずく)は、何を隠そうワイン“ド素人”だ(実はとんでもない才能を秘めているのだが、、、)。ワインを飲みたいとも思っていない主人公が、自らの生い立ちにまつわるワインの世界に導かれ、開眼していく。フランスワインを中心に初期のストーリーが展開されていき、その後にイタリアワインが登場、そしてニューワールドといった具合に、“ワイン初心者が学習すべき王道のステップ”を秘かに踏襲している。その為、読者は主人公と共に成長していく気分が味わえる。壮大なスケールで描かれる物語の背後に、確実にワインを好きになるであろう仕掛けがあるようで、今読み返しても、違った面でまた面白い。

③モチベーションの維持に役立つ。

ワインの資格取得を目指すにあたり、モチベーションをどうやって維持するのかを考えるのは、大切なことだと思う。 “神の雫”最大の効果は、このマンガを読むと「ソムリエになりたいっ!」というエネルギーが充填されることにある。「自分も登場人物のような素晴らしいソムリエになりたいな」という気持ちが芽生え、それがより高い勉強のモチベーションとなり、また勉強に戻っていくことができるという好循環を生む。

読了時間:一冊につき、25分程度

読みやすさ:★★★★★

マンガという表現方法であるのはもちろん、ストーリーが秀逸。高級なワインが物語の軸になってはいるが、日常消費用のワインまで幅広く登場するまた、登場するワインは全て実在するワインであり、飲みたくなる気持ちを抑えられない。個人的には“絵” のタッチも、ワインの上質なイメージと見事にマッチしていると思う。

難易度:☆☆☆☆☆

このマンガこそ、「ワインは難しくない」「習うより慣れろ」を体現しているように思えてならない。難易度に点数をつけることはできない。面白さでいうなら★5つだけど。

学べる知識量:★★★☆☆

巻末にはコラムが付属しており、“ワインを楽しく面白く伝える”のをテーマに、抱腹絶倒のコラムとなっている。このコラムを読むことで本編への理解も深まり、そして見事にワインが好きになっていく。ここだけ読んでも十分な知識量であり、また、“ワインの勉強は暗記だけしていてもダメだよ”と教えてくれる。

【総評】

本マンガは、他のどの入門書よりも、“少ない時間でワインを身近に感じることができる”一冊となっている。今では日本一になったソムリエが、「私は神の雫を読んでソムリエを志した、“神の雫世代”です」と公言するようになったり、フランス語に訳され、フランスの本屋さんに普通に並んでいたりする。まだ読んだことがない人がもしいるのであれば、何てラッキーな人であろう。羨ましい。

たとえどんなプロであっても、“入門”の時期はあったであろうし、いつの時代もこの層の人々が最も多いということは忘れてはいけない。ワインスクールの講師をしていて幾度となく思うのは、人に教えるということは教わることでもあるということ。人に教える過程で、自分がどこまで理解できているのかに気付けるからである。

今後もまたどこかのタイミングで、この「SommeTimes Académie」では、様々な切り口で、私にとっての“入門書”を書いていけたらと思う。どうぞ引き続きお付き合いください。