2021年7月17日5 分

ノンアルコール・ペアリング Vol.1

昨年から新型コロナの影響で酒類提供が都内、一部地方都市にて禁止と限定緩和を行き来しています。この出来事をきっかけに、今後ノンアルコールドリンクの需要、そして、ノンアルコールペアリングに関しても、より取り入れる店舗が増えると予想しています。

私自身、新型コロナ以前からノンアルコールペアリングに携わってきておりますので、全3回に渡って、主にドリンク作成方法について書いて参ります。

成分や専門的な作業、小難しいことはあまり書きませんが、ご参考になればと思いますのでどうぞご覧下さい。

1:基本的なドリンク作成の考え方

私自身は特にお茶、ハーブ、スパイス等の専門家ではありませんので、モスト(ワイン用ぶどう果汁)をベースに様々な食材(ボタニカル)を組み合わせて、外観、質感をワインのような方向に寄せていくドリンクを作製しております。

ノンアルコールペアリングを考えていく際は、料理に合わせて、先にワインペアリングを構築することをお勧め致します

提供に際して色調等の外観を、ワイン、ノンアルコール間でなるべく近づけることによって、ノンアルコールペアリング提供にあたって、無理にエンターテイメント性を出し、雰囲気を変えてしまうという状況を防ぐことができるからです。

私自身、様々なお店でノンアルコールペアリングを頂き、初期はワイングラス、ガラス酒器、お椀、升等を使ったものもご提供しておりました。

当時伺っていたお店の中には、エンターテイメント性の高いドリンクを提供しているお店もあり、とても印象に残りました。そこで、自店でも取り入れていこうと考えましたが、ゲストへ提供するにつれ、根本的に店舗の雰囲気に合わない、そしてテーブルサービスではオペレーション上の難易度が大きく上がるという点に気付かされ、方向転換をしました。

特にビジネスのお席の場合、行き過ぎた演出は、時と場合によっては不協和音となることがあり、段々と考えが変わってきました。

現在は、基本的にはテーブル上をあえて華やかにせず、違和感なく食事を楽しんで頂けるように、外観上はワインと全く変えないように作製し、ワイングラスにて提供しております。

2:ドリンクの構成

まず外観をワインに寄せてからの次のポイントとして、風味も如何にワインに寄せるか、と考える人は多いかも知れませんが、結論から言うと、私は風味をワインには寄せません

ワインのような風味を持つドリンクを作製し、可能な限り似せることは不可能ではないですが、根本的な「アルコール」の要素を補うことがなかなか出来ません

そもそも、発酵という過程を通じて生まれる酒類というものは、とても淡い、もしくはとてつもなく繊細なバランス感で成り立っているものです。

以前、自分が作ったノンアルコールドリンクに、ワインと同等のパーセンテージになるようアルコールを添加する実験を行った際に、(生成されるアルコール分が異なるということもありますが)水分とアルコール分の分離感が顕著で、アルコール感が強まった印象を受けました。

そして、ワインと同等程度の果実感を想定して作製したドリンクも、アルコールを加えることによって香りが上がり過ぎ(ノンアルコールドリンクの果汁濃度が高過ぎる)、風味のバランスを取ることが難しくなります。

この部分を正しく整えれば、近いものに寄せることも可能かもしれませんが、アルコール成分は良くも悪くも風味を揮発させる(香りを広げる)力が強いので、アルコール成分とその他の風味を構成する要素が極めて繊細なバランスで成り立っているワインの味わいを、ワインと同じ様な風味を目指して、ノンアルコールで完璧に実現することはとても難しいのです

さて、ここで重要なのは発想の転換です。

ワインの風味そのものを再現するのではなく、ワインの繊細なバランスを構成する要素を分解し、全く別の方向から、複合的にアプローチすれば良いのではないでしょうか。

私が提案するのは、食材と食材のフードペアリング的発想です。

ノンアルコールドリンクに加える特定の要素を、ワインペアリングで選定したワインを参考に抽出し(酸味、香味など)、ボタニカルとして使用する食材を、料理に用いられた食材とのフードペアリング的相性を考慮した上で、選択していきます。

例えば、焼き魚系の料理に酸度の高い白ワインを選定したとします。その酸味をノンアルコールドリンクで再現する際には、焼き魚の味わいと、レモンの様な柑橘系の酸味の相性が良いことを念頭において、ボタニカルにも柑橘を取り入れる、といった具合になります。因みに、ワインのアロマパレットにあるような食材(ボタニカル)の例は、良い参考になりますので、改めてご覧いただければと思います。

次回は、具体的なボタニカルの使用方法について、述べていきます。

〈ソムリエプロフィール〉

戸澤 祐耶 / Yuya Tozawa

LA BONNE TABLE

Manager & Chef Sommelier

1985 年秋田生まれ。

銀座、三軒茶屋などを経て 2015 年より LA BONNE TABLE へ勤務

翌 2016 年より Chef Sommelier となり 2019 年より Manager も兼任。 ソムリエとしてワインを扱いつつノンアルコールペアリングも独自の手法、観点で手掛ける。
 

<LA BONNE TABLE>

日本橋・コレド室町 2 にある、フレンチレストラン『ラ・ボンヌターブル(LA BONNE TABLE)』。 直訳は『美しい食卓』。フランスでは『美味しいレストラン』のことをそう呼ぶ。 ランチのプリフィクスコースとディナーはシェフのおまかせコースで、エンターテインメント性のあるモダンなフラン ス料理を提案する。料理に合わせたワインやノンアルコールドリンクとのペアリングも楽しめる。