2021年5月28日3 分

Advanced Académie <8> ワイン栓前編:ブショネ

ワインを取り囲む人々を、長年に渡って悩ませてきた問題がブショネだ。英語ではCork Taintと呼ばれ、ブショネが発生した状態を「Corked」とも表現する。

ブショネの主因となるTCA(正式名称:2,4,6-トリクロロアニソール)と言う化学物質は、ワインに混入した濃度が高まるにつれ、強烈な「カビ臭」を放つが、極低濃度であれば感知できない人もいる

とはいえ、例え低濃度であってもその悪影響は強烈であり(大きなプールに一滴程度のTCAでも感知できるとすら言われる)、果実味の消失香りの減衰に加え、濡れた段ボールのような香気を放つため、注意深くテイスティングすれば、おそらくほぼ全ての人が感知できるだろう。

一般的には、ブショネが発生したワインは完全な欠陥品とされ、多くの場合、返品対象とすらなる。基本的に不可抗力(後編で詳細を解説する代替コルクやスクリューキャップで代用することによって、相当程度の対策は可能と考えられるが)であるブショネに関する責任の所在がどこにあるのかは、大いに議論の対象ではあるものの、サスティナビリティを念頭におくのであれば、ラップ等に10分ほど浸した後に(TCAはポリエチレンと結合しやすい性質がある)、十分に煮詰めた上で、料理酒として使用するのが望ましいだろう。

TCAは微生物の代謝による生成物と塩素が作用することによって生じるため、コルクを製造する際の塩素消毒が原因だと考えられてきたが、コルクの原料となるコルクガシの樹皮そのものからもTCAは頻繁に検出されることが判明している。天然コルクのブショネ発生率は、2~5%の間と考えられているため、2%なら50本に1本、5%なら20本に1本という(ワインの価格を考えれば、非常に高い数値)確率で発生するこの深刻な欠陥は、サスティナビリティの側面から見ても、放置することはできない問題と言える。

TCAの他にも、TBA(正式名称:2,4,6-トリブロモアニソール)と言う化学物質がブショネの要因として特定されている。TBAは、その前駆体であるTBP(トリブロモフェノール)が一般的な殺虫剤に含まれる成分であることから、醸造所内で殺虫剤を使用した場合に、蔓延する恐れがある。

残念なことに、TCAやTBAは天然コルクにだけ発生すると言うわけでもない。醸造所(特に古い木造)や、樽、プラスチック等、様々なものが汚染の対象となり得るため、スクリューキャップであっても、完全に防ぎきることは不可能に近いが、実際には発生率が著しく下がる

天然コルク自体は、過剰採取さえしなければ(コルクガシのコルク形成層は非常に修復が早く、約10年毎に、コルクガシを生かしたままコルク層を採取することができる。)、サスティナビリティが基本的に高いものではあるが、ブショネの発生率(ブショネによってワインが無駄になる)を鑑みれば、現代的価値観とはズレが生じてきている。

ワインの栓後編では、代替手段や、酸素透過率との関連性について述べていく。