2021年3月10日3 分

Advanced Académie <5> ハイブリッド品種の是非

ハイブリット品種とは、特定の目的のために人工的に交配された品種のことだ。様々な農作物において、現代では当たり前の技術であり、それがリンゴや柑橘や野菜であれば、特に違和感なく食している人が大多数だろう。しかし、ワイン醸造用葡萄としてのハイブリッド品種は、すこぶるイメージが悪い。

多くのハイブリッド品種は、一方の親がヴィニフェラ種(現在ワイン醸造用葡萄として世界的に主流となっているヨーロッパ系品種)で、もう片方の親がラブルスカ種ルペストリス種であることが多い。このような掛け合わせが行われる理由には、病害耐性と害虫耐性の強化、樹勢と収量の強化もしくは弱化、特定の気候条件への適応といったものがある。

さて、肝心の味わいの話に移ろう。ハイブリッド品種は、早摘みすると密度の無い味わいになり(この点においてはヴィニフェラ種も相当程度同様であるが)、遅摘みし過ぎると、フォクシーフレイヴァー(独特の粗野な動物臭)が出てくるものも多い。また時に過剰なアロマとフレイヴァーはバランスと繊細さを欠き、余韻も短くなることが多い。ヨーロッパの伝統的なワインがもち得る資質を、品質における絶対的な尺度と考えた場合、ハイブリッド品種で偉大なワインを造ることは不可能とすら考えられる。この点に関しては、筆者も概ね同意する。

しかし、これはあくまでも、ヨーロッパの伝統ワインを絶対的な品質の基準とする、という一つの固定された価値観に基づいて判断した場合の話だ。このような考えは、現代の多様性を尊ぶ風潮において、極めて旧時代的な考え方であると断じざるを得ない。

実は今、世界各地でハイブリッド品種の再評価が進んでいることを、皆様はご存知だろうか?

表面的な理由としては、ハイブリッド品種に対する醸造上のレシピが、ほぼ完成と言える領域にまで洗練されてきたことが挙げられる。ハイブリッドの白葡萄に対してはステンレス・スティールタンクとシュール・リーの組み合わせが、黒葡萄に対してはアメリカン・オークという適解が示されたことによって、ハイブリッド品種を用いたワインの品質は大きく底上げされた。

では、裏側の、本当の理由とは何なのだろうか。

サスティナビリティ。この現代社会の最も重要な価値観こそが、回り回ってハイブリッド品種の再評価につながっているのだ。

病害や害虫に対する耐性が高まるように品種改良されたハイブリッド品種を栽培する際、農薬の散布量を劇的に減らすことができる。農薬を減らすことは、地球環境にとってサスティナブルであることは当然であるが、農薬にかかる費用の削減にも大きく貢献する。畑仕事もハイブリッド品種なら2割以上は容易に工程を減らすことができ、さらに、安定した高収量も望めるため、ワイナリーにとっては経済的にも非常にサスティナブルな存在となる。

ヴィニフェラ種を無理して(テロワールの必要条件が足りない環境で)育てようとすると、あらゆる面において、ハイブリッド品種とは逆になる。必然的に農薬の散布量は増え、農薬を減らした場合は葡萄畑での作業量が跳ね上がり、収量も安定しない。これらは全て、最終的にワインの品質や価格に反映されて、消費者にも影響を与える

冷静に考えてみると、ハイブリッド品種の利点は数多くあるのだ。

特に、デイリー消費の価格帯なら、ハイブリッドの利点が輝く。

筆者は世に問いかけたい。

大量の農薬や化学肥料を使い、強引に高収量を実現された、薄い味わいのヴィニフェラ葡萄を、様々な人工的添加物を用いて「ワインらしく」仕上げたような飲み物と、あらゆる面においてサスティナブルなハイブリッド品種を用いたカジュアルなワインと。

両者を天秤にかけたとき、自身のハイブリッド品種に対する考えがどのように変化して行くのか、真っ直ぐに向き合ってみていただきたい。