2021年2月13日4 分

Advanced Académie <3> ワインのカテゴリー (前編)

ワインには様々なカテゴリーがある。そして、このカテゴリーというものを改めて整理して考えてみると、非常に興味深い。

そもそも、カテゴリーが分けられている最も重要な理由とは何なのだろうか?

それは「コミュニケーションツール」として機能させるためだ。

ワインに親しんでいる人々の間でも、経験値や嗜好、ワイン教育のレベルや流派はまさに千差万別。これほど違ってしまうと、コミュニケーションのツールとなる「記号」無くしては、意思疎通がままならないことは実際に多々あり得るのだ。

例えば、「赤ワイン」というカテゴリーが、この世界に無かったとしよう。

人々はどのようにコミュニケーションを図るのだろうか?

淡いルビー色のワイン。

ちょっと褐色の入ったガーネット色のワイン。

ちょっと紫色のワイン。

黒の混ざった濃い紫色。

エトセトラ。エトセトラ。

たかだか色に関するコミュニケーションを取るだけでも、異常な難易度の高さだ。

これらがひとまとめにされた「赤ワイン」というカテゴリーのありがたみを、実感すること間違いなしだろう。

赤ワインという記号が属するカテゴリーは、「製法のカテゴリー」である。

同じカテゴリーには、白ワインロゼワインスパークリングワイン等が該当し、ワイン法で規程がされていなくても、オレンジワインもこのカテゴリー内に属する。

オレンジワインだけ、なんだかはみ出し物のようであるが、ロゼワインなどは、世界中の様々な産地のワイン法で規定が大きく異なる(ブレンド禁止が多いヨーロッパ、シャンパーニュ製法での例外的なブレンド可能、ニューワールドに多いブレンド可、アルゼンチンの「色の濃さで判断」等)ため、オレンジワインと大差ない状況の分かり難さだ。

オレンジワインは特に、ナチュラルワインの一種と混同されがち。しかし、あくまでも「製法のカテゴリー」であるため、オレンジワインというカテゴリーそのものと、ナチュラルワインは根本的に無関係である。

実は近年、この製法のカテゴリーを理解していく上で、非常に悩ましいワインが世界中で続出している。

赤、白、ロゼ、オレンジ等をごちゃ混ぜにしたタイプのワインだ。

白にオレンジを混ぜたワイン(カテゴリー不明)、ロゼとオレンジを混ぜたワイン(カテゴリー不明)、赤と白とロゼを混ぜたワイン(カテゴリー不明)、とまさに不明のオンパレード。

原産地呼称制度の縛りに囚われず、自由な発想でワイン造りをする造り手が激増してきたことが、これらのグレーゾーンなワインの続出に拍車をかけている。

ワインに長く親しんできた人にとっては、興味深いワインたちであるが、コミュニケーションを取るためには、例えば「赤ワイン」と「ロゼワイン」を混ぜて、薄く色と淡い味わいになった、カテゴリー不明のワイン、といったように、分かりそうでよく分からないコミュニケーションとなってしまう。

産地のカテゴリー

次のカテゴリー群として、「産地のカテゴリー」がある。

原産地呼称関連の産地のカテゴリーには、国単位、産地単位、村単位、畑単位と大小様々なカテゴリーが存在しているので非常に分かりにくく思えるが、全て各地のワイン法で定められているので、覚えるのは難しくても、定義自体は非常に明快。調べればわかる、というのはありがたい。

産地のカテゴリーには、別のグループもいくつかある。

冷涼産地、中庸産地、温暖産地といった平均気温を中心にしたカテゴリーがその代表。さらにそこに乾燥、湿潤といった降雨量や湿度に関連したカテゴリーを足して、冷涼乾燥産地、といった具合に複合的にカテゴライズすることも一般的。

ワイン法で規定されているわけでは無いので、概念的なイメージもあるが、実際の気候条件に基づいているため、その産地の気候を調べれば、明確に分かる

この気候関連と混同されがちなのが、オールド・ワールド、ニュー・ワールドというカテゴリーだ。前者は冷涼、後者は温暖。というステレオタイプな情報が氾濫しているが、事実とは全く異なる、ワイン業界に長年蔓延る、悪質な誤情報の一つなので、注意していただきたい。実際には、オールド・ワールド(大航海時代以前からワイン造りをしている国々)にも温暖な産地は多々ありニュー・ワールド(大航海時代以降に入植者がワイン造りを始めた国々)にも冷涼な産地はたくさんある

次回は、このカテゴリーに関する、また別の側面の話をしていく。