2023年5月6日9 分

インバウンドゲストへのアプローチ

皆さんこんにちわ。ソムリエの矢田部です。

今回はホテルソムリエとして、海外ゲストのワインオーダーの、最近の傾向と対策をお話しさせていただきます。

インバウンドゲストの現状

まずはインバウンドゲストの現状として。

私が勤務している東京エディション虎ノ門では、レストラン、バー利用者の80%近く、宿泊滞在者の90%近くが、海外ゲストとなっています。

昨年12月半ばから渡航のボーダーが開けたことにより、ホテルの稼働と宿泊料金が爆あがりしている状況です。最も安い宿泊料金は10万円を超えていて、素泊まりでも1泊1室15万円から20万円のハイレートになっています。これはエディションが特別という状況ではなく、都内の外資系ホテルではどこでも同じことが起きています。恐らく、もっと高い宿泊料金設定になっているホテルも、少なからずあると思います。

この状況になると当然、今までご利用していた国内ゲスト、リピーターは宿泊出来なくなり、宿泊も兼ねた新規インバウンドゲストのレストラン利用がメインになって行きます。

国籍の割合は中国系が40%、USAが30%、EU圏が20%、あとはその他といったところです。

2020年の10月にオープンした私たちのホテルにとって、これが本来のベースでもあるとは思いますが、明らかにそれまで販売していたアイテムのゾーン<産地、価格、本数、飲み方>が、異なる傾向に大きく変化しています。

わかりやすく言いますと、ボルドー、ローヌ、バローロ、ブルネロ、リオハなどの世界的に有名なハイレンジワインがどんどん頼まれます。そして、ほとんど赤ワインです。

実は、東京エディションにはフレンチレストランもイタリアン、スペイン料理、日本料理、寿司の店舗すらありませんので、いわゆるクラシックワインは頼まれる傾向がほぼありませんでした。

これまで開業から少し前までは、国内ゲストのオーダー傾向はシャンパーニュ、ブルゴーニュ白赤(ニュイの分かり易い銘柄)、カリフォルニアのシャルドネ、ナパカベルネ、キャンティ、ニューワールド、ナチュラルワインと幅広く、産地も15ヶ国ほどをリストアップして、多様に頼まれていました。

フランスワインの価格が高騰している中で、円安の東京で飲む方がインバウンドゲストにとってはメリットであり、品質も保証されていることは認知しています。

グランクリュのブルゴーニュなどは、レストラン価格の販売にも関わらず、飲まないで持ち帰るケースも珍しくありません。

この状況では、本来ならフランスワインに焦点を充ててビジネスを考えて行くのが良いのですが、皆様ご存じの通り、有名フランスワインは価格、数量共に厳しい現状が続き、買い足すのも維持するのも困難な状況となっています。ですので、これからのホテルソムリエは、販売するワインのリストアップを行う際に、これまでとは違う視点で考えていくべきと思っています。

ワインセールスの対応

インバウンドゲストに対してのワインセールスには、いくつかのアプローチがあると考えています。嗜好や価値観を十分に考慮した商品構成や、販売方法が求められます。端的にいうと、海外でも人気の高いワインを取り揃えたセレクションを用意することが大切ということです。

外資系ホテルに宿泊するインバウンドゲストは、海外旅行に慣れ親しんでいる方が多い傾向があるため、高級感やサービスの質、施設の充実度などに高い期待をもっています。そして、良く知ったワインブランドイメージをもったものが、安心感や快適性につながる場合がほとんどです。

また、一般的にインバウンドゲストがワインを選ぶ際の傾向には、いくつかの特徴があります。例えば、比較的フルーティーで飲みやすい、軽い味わいの白ワインやロゼワインが好まれる傾向があります。また、赤ワインについては、比較的柔らかい味わいで、果実味があるものが好まれます。

特に、彼らが好みそうなワインをピックアップするために、日本の食文化や料理とのペアリングの仕方などについてのアドバイスも提供すると良いでしょう。

インバウンドゲストへのキーとなる「売れる」産地

<日本ワイン>

旅先のワインに興味をもつインバウンドゲストが増えています。

彼らは、地元のブドウ品種やワイン造りの歴史に興味をもち、日本のワイナリーを訪れたり、地元のワインを試飲したいと考える傾向があります。

実は、日本ワインはインバウンドゲストから高い評価を受けています。日本ワインと言っても、多様性があり、例えば、フルーティーで軽い味わいのワインから、力強くスパイシーな味わいのワインまで、様々なワインがありますが、特に軽やかで飲みやすいタイプのワインは人気があります。また、日本食と組み合わせると、新しい味わいを楽しむことができ、その発見に喜びを感じるインバウンドゲストは多いと感じています。

ただし日本のワインに関しては、日本独特の飲み方や文化について理解し、サポートする体制も必要です。

ニーズと同時に高い満足感も求めているインバウンドゲストに対しては、(単純な味わいだけでは)物足りないと思われる結果に繋がりかねないからです。

近年、日本独自のブドウ品種が見直されたり、海外からのワイン製造技術の導入などで、日本ワインの品質は向上してきていますが、インバウンドゲストの満足度を高めるためには、魅力的なコンテクストの演出も大切です。

例えば、外国人観光客に向けたワイン販売に力を入れているワイナリーの中には、日本が誇る高級食材である和牛や海鮮とのペアリングを提供しているところもあります。

私たちホテルソムリエは、レストランなどで、お客様の好みに合わせてワインを提案したり、料理に合わせたワインの選択をサポートすることが主な仕事です。近年、日本でもソムリエの需要が高まっており、ワイン文化が一層盛んになってきています。特に、外国人観光客が増える中で、日本人ソムリエの知識や技術が、世界にも認められるようになってきています。

また、日本のワイン産業が発展する中で、日本人ソムリエが、日本産ワインの品質向上や、ワイン産地のアピールなどにも力を入れています。

日本ワインの魅了を伝えていくことは、インバウンドゲストへのアプローチのキーになると私は日々思っています。

人気銘柄

シャトー酒折

甲州i-Vines vineyard

プロの葡萄栽培家達が作る甲州のワイン。

八朔のような爽やかな印象である。ボリューム感があるアフターに酸味とほろ苦さが長い余韻となって続き、

乙なワインだなといつも思っています。この価格レンジで楽しめる高品質な甲州って素敵です。

i-vinesとは、2010年に設立された、醸造用葡萄栽培技術の確立を目指し研究する農業法人です。独自の栽培理論に基づき高品質の葡萄を栽培している池川仁が代表を務め、醸造用葡萄を専門に栽培することで、ワイン産地としての山梨の将来を基盤から支えるべく、若手の育成も兼ねて現在栽培面積を拡張しています。このワインは醸造用葡萄として栽培された甲州種を、シャトー酒折が果実本来の風味を生かすべくシンプルに醸造したものです。

<中国ワイン>

中国ワインは、インバウンドゲストへのアプローチとしてリストアップしたなかで、以前からも注目に値する産地であるとポテンシャルを感じていましたが、ここに来てこれほどまでにワインリストの中で活躍出来るとは、想像を超えていました。

それは先ほど数値でも紹介した、中国系ゲストが多いのも理由です。

彼らはナショナリズムを強く持っていて、自国のワインでここまで進化しているものをまだ知らない方も多いですが、必ずと言っていいほどボトルで数本オーダーしています。

日本ワインが日進月歩で進化しているのなら、中国ワインは3段跳び4段跳びの勢いで毎年進化しています。日本ワインと比較すると、秒進分歩の進化、と例えることもできるでしょう。

人気銘柄

Silver Heigths Jin Shan Pinot Noir

シルバーハイツ ジアユアン ピノノワール

ボルドー品種のイメージが強い中国ワインの中で、この上質なピノ・ノワールはいい意味で驚きです。

果実味もしっかりしていながら、豊かな酸味もバランスよく感じられる味わいとなっていて年々進化を見せるシルバーハイツの自信作は、柔らかくスケール感がある味わい。

内陸部の寧夏回教自治区

標高1200mのヘレン産地。畑の土壌は赤粘土石灰質の土壌。 標高が高いため、昼夜の温度差があり、年間降水量も300MLと少ないのが特徴。

<アルゼンチンワイン>

意外と思うかも知れませんが、インバウンドゲストはマルベックを高く評価をしているように思えます。特に中国系の方は、(国同士の関係性もあるのか)アメリカワインはあまり頼みませんが、アルゼンチンワインに対しては好意的なイメージをもっているようです。また、アメリカ系のゲストにとっても、カリフォルニアワインは値段が高いイメージがあるので、アルゼンチンワインに活路が広くあると感じています。

近年では、ボルドー品種やシラーなどの伝統的な品種も栽培されるようになり、多様な品種を栽培できる地理的条件や、高品質のワインを生産するための投資、技術の高さにより、アルゼンチンワインの需要は将来的にもさらに増加する可能性があると考えられます。

人気銘柄

Altos Las Hormigas Apellation Gualtallary

アルトス ラス オルミガス アペラシオン グアルタジャリー

それぞれの区画の土壌環境、気象環境を調査・研究しアルゼンチンからクリュ・マルベックを産み出している彼らが手がけるマルベックのスタイルは、これまでの一般的なジューシーで甘みのあるスタイルからより洗練されたワイン愛好家好みの味わいで、満足感があり現代的なエレガントなスタイルは物凄く印象的です。

総評

ホテルに限らず、インバウンドゲストへのワインセールスは、今後ますます重要になるでしょう。ワインは、外国人旅行者にとって食事体験をより一層豊かなものにしてくれるツールで、日本での新しい体験が出来るきっかけであります。この体験を提供するには、まだまだホテルレストランにはたくさん課題があります。人手不足もそうですが、多言語に対応したワインリストや、フレンドリーなスタッフによるワインセレクションのサポートがあれば、インバウンドゲストへの効果的なワインセールスにつながる可能性が高くなります。

これからも新しい産地に目を向けて、ゲストに寄り沿った様々なアプローチを続けて行きたいですね。

<ソムリエプロフィール>

矢田部 匡且/ Masakatsu Yatabe

「東京エディション虎ノ門」ヘッドソムリエ

「エディション」は「ザ・リッツ・カールトン」と並ぶ、マリオット・インターナショナルにおける最高級グレードのラグジュアリーホテルブランド。上質なラグジュアリーとライフスタイル型を融合させた世界が注目する最先端のホテル。現在、ニューヨークのタイムズスクエア、ウエストハリウッド、ロンドン、マイアミビーチ、バルセロナ、中国の上海、三亜、アブダビ、トルコのボドルムに展開し、2020年にイタリア・ローマと東京で開業予定。