2023年1月21日4 分
ワイン産業という大海には、時折巨大な波が発生する。
その始まりはさざなみ程度のものであっても、集約を繰り返しながら、徐々に勢力を増していくものがあるのだ。
現代において、その特別な波を導いているのは、潜在的集合意識だろう。
最終的に世界中を巻き込むような大波へと成長するさざなみは、世界各地で同時多発することが多いからだ。
これは、極一部の圧倒的な影響力の元に導かれていた時代とは、明らかに異なる現象でもある。
言い換えるなら、『多様性の時代ならではの、潜在的集合意識の存在』となるだろう。
そして、潜在的集合意識に導かれた波は、いくつかのトレンドとなり、世界を駆け巡っていく。
本稿では、2023年をどのようなトレンドが導いていくのかを予測して行こう思う。
まず、ワイン造りという大きな括りで言えば、オーガニック(もしくはビオディナミやパーマカルチャーなど)とサスティナビリティ(SDGs)の両立が、極めて重要なテーマとして取り組まれていくことはほぼ間違いないと言える。これは、オーガニックだけではSDGsへの取り組みとして不足しがちな一方で、サスティナビリティだけでは「農」への取り組みとして不十分に(サスティナビリティ認証が、実質的な反オーガニックの隠れ蓑として機能してしまっている)なりがちだということに、いよいよ世界は目を背けていられなくなってきたからだ。
ボルドーや南アフリカなどにおける、大規模なサスティナビリティ推進の成功例は、世界各地にこの流れの「向こう側」を示唆している。
2023年からの数年間は、このトレンドが世界の中心となり続けていくだろう。
葡萄品種、というテーマでも興味深い新たなトレンドが見えてきた。しかも、長年のワインファンにとっては、意外な変化かも知れないものが。
それは、カベルネ・ソーヴィニヨンの復権だ。
そう、2020年ごろはさざなみ程度だったものが、今ははっきりと目視できるほどの大きさになっている。
実はこのトレンド、単純にカベルネ・ソーヴィニヨンの復権と書いてしまうと語弊がある。その実態は、アルコール濃度12~13.5%程度で、複雑性と調和が実現できる、冷涼型カベルネ・ソーヴィニヨンの復権なのだ。
特にニューワールドでこの波は大型のものとなりつつあり、先進的な造り手が続々と、冷涼地のカベルネ・ソーヴィニヨンを探し求め、驚異的なワインを生み出し始めている。
そして、ソムリエやジャーナリストの間でも、冷涼型カベルネ・ソーヴィニヨンが話題となることが増えてきたように思える。
2023年が、冷涼型カベルネ・ソーヴィニヨンにとって大飛躍の年となるのか、徐々に波を大きくする年となるのかは分からないが、今後数年間、葡萄品種の主役争いで、再びブルゴーニュ品種を押し退ける可能性は十分にある。
醸造、というテーマにもいくつかのトレンドが見え隠れしている。
まず、慣行的クラシック(醸造時に様々な添加物使用してきた)が、よりナチュラルへと向かい、原理主義的ナチュラル(亜硫酸無添加への強いこだわり)も減少することによって、両者の距離が近づく、という昨年までのトレンドは継続していくだろう。
新樽比率の平均的な下落傾向も相変わらずではあるものの、この流れは、「波打ち際」に限りなく近づいているため、アンチカルチャーとしての「新樽100%系」もまた、復活の予兆を見せている。
最も大きく顕著な変化、という意味では、「アルコール濃度の高さに反したテクスチャーの軽さ」の追求が挙げられる。
温暖化を伴う気候変動によって、世界各地の平均的なアルコール濃度は緩やかに上昇し続けてきた。まずはその第一の対策として早摘みが行われたが、ポリフェノール類の成熟を待たずに収穫された葡萄は、数々の二次的な問題を引き起こしてしまった。そのことから学んだ造り手の多くが、収穫タイミングを再び遅めるように(早摘みの時期と比較して)なったが、それは同時にワインのアルコール濃度が高まることも意味していた。
食のライト化が全盛期の最中にある現代では、ワインに軽さが求められることが多いが、気候変動がそれを許さない。そこで考えられたのが、醸造プロセスの見直しだ。
具体的には、低温浸漬期間の見直し、ルモンタージュの廃止、新樽使用の制限、全房発酵の導入、ポストマセレーションの短期化などといった手段から、テロワールと葡萄品種に合わせて、造り手が選択をしている。
特に赤ワインでこのタイプのコントロールは行いやすく、実際にアルコール濃度14%オーバーとは到底思えないような、驚くべき軽やかさをまとったワインが、急激に増えている。
この変化に伴い、少なくとも赤ワインに限っては、アルコール濃度の高さからワインの「重さ」を予測する、というクラシックな手法が、いよいよ意味をなさなくなり始めるだろう。
ワインとは、常に変化の中に置かれている飲み物だ。
学ぶことは一生尽きない。
これを幸せと感じるか、果てなき苦行と感じるかは人それぞれだと思うが、アップデートを怠れば、たった数年で時代に取り残されるということだけは、はっきりと言える。
2023年、SommeTimesでも、新たなトレンドに対しては、強力なアンテナを張り続けていく。